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21話 別れの場所

 リスは、それから事が淡々と進んだのを見ていた。


 ヘビとアライグマは根っこ広場に残り、クマは戻る途中のオンボロ橋で再び怖気づいてしまったため、しばらく森の北側に残ることになった。コマドリも一緒ではなく、空を飛んで戻るため、結局一緒に行動したのは、前から歩く順にルカとキツネとリス――初めの三者だった。


 以前よりもいっそう青々と生きる森の中を進む。多種多様な鳥たちが歌い、色とりどりの花々は美しく咲き誇る。木々に生い茂る葉がこすれあい、涼しげな自然の音が森を満たす。


「それにしても、とんでもない一日だったで」リスが頭の後ろに手を組みながら独り言を言った。

「そうだね」キツネは前を見たまま言う。そして、それきりだった。


 リスはなんだか歯車の合わない気分になっていた。なんだかキツネの様子がおかしい。変に冷たいというか、そっけなさが感じられる。


「おい、ルカ、初めのうちは疑ってすまなかったで!」ルカに声が届くように体を傾けて叫ぶ。

「ん、なんのことだ?」ルカは振り向いて返した。キツネとは対照的に活気があり、温かみが感じられる。


 キツネのやつ、どうしちまったんだで? リスは心の中でつぶやいた。問いかけようにも、見えない壁のようなもので遮られているせいで、話しかけることができない。ルカは違和感を抱いていないんだろう?



 結局、その後は一言も言葉が交わされることなく、(にじ)()に到着した。


 ルカはあたかも思い出の場所に来たかのように辺りを眺める。(みどり)色に輝く湖の周りには多くの木が茂り、小さく虫が鳴いている。そして、空には逆さまの美しい虹がきれいにかかっている。


 一方で、キツネは下の方を向いて、湖のほとりをじっと見ていた。キツネは初め、ルカを連れてきたとき、ここで倒れていたと言っていた。ルカのいた場所を見つめて、別れを惜しんでいるのだろうか。


「始まりはここからだったね」とルカが言った。「初めは何が何だかわからなかったところを、キツネ君が助けてくれたね」

「僕が南側の様子を見に行っていなかったら、君が逆さ虹の森を救いに来てくれていたことに気付けなかったね」キツネが視線をルカに向けて言った。「そして、お別れは出会いの場所と同じだ」

「元の世界に戻ったら、ここでの記憶はどうなっちゃうのかな」

「どうだろう。でも、ここで気付いた大切なことは、きっと覚えているはずだよ」

「……そうだね」


 リスはヘビやアライグマのように根っこ広場に残ればよかったと後悔した。気付いたのである。ルカとキツネは一緒に過ごしている間に、ニンゲン界でいう「カゾク」のような親密な関係になっていたということを。ルカとキツネは広場からここまで来る間、二者だけの空間に包まれていたのだ。


「言い伝えによると、俺の父は湖に飛び込んだ後、空に向かって帰ったんだよね」ルカがキツネに尋ねる。

「コマドリさんが言っていたね。うん、きっと帰れるよ」キツネは答えた。「もう行くのかい? もう少しこの森を探検してみない? まだ見ていない景色や木の実がたくさんあるよ」


 リスはコマドリが飛んでいるだろう空を見上げた。しかし、上空には逆さまの虹があるのと、希望のような温かな光が広がっているだけだった。リスは、コマドリはルカとキツネの普通でない親密さを察知して姿を消したのだと悟った。今終わろうとしている冒険で一番散々な目に遭ったのはきっとオイラだろう、と彼は思った。


「ここにいる間、元の世界の時間が止まっているなら、まだ君といたいね」ルカが湖の際に立つ。「だけど、それは君にもわからないし、きっとコマドリさんでさえも知らないよね」


 キツネは黙っていた。


「行けるときに行かなきゃ、もう行けないかもしれない。時間っていうのは残酷だよ。必ず別れはくる」

「だけど進まなきゃならないんだよね。その先に守るもの――愛するものがあるから」

「守るものがあるからじゃない。愛するものがあるからでもない」ルカの言葉にリスとキツネはぴくりと眉を上げる。ルカはキツネに顔を向けて続けた。「守って、愛するために行くんだ」

 キツネは目をつぶる。そして、二滴の液体が地面に落ちるのをリスは見た。「それじゃあ、さよならだ。僕は見届けるよ。ルカ君が行くところを」


 ルカはうなずく。そして、顔を上げたときにはもう湖の方を向いていた。


「さようなら。行ってきます」

「さようなら。行ってらっしゃい」


 ルカが湖に足を踏み入れる。一歩、また一歩と、少しずつ沈みながら中心へ向かって進んでいく。そして、ついに彼の頭が湖面上から消え、完全に水の中に沈んだ。――それから、彼が湖から出てくることはなかった。言い伝えとは異なり、彼は虹の湖に沈んで消えたのだ。キツネとリスが最後に見たルカの姿は、湖に沈んでいく姿だった。



 *



 ある雨上がりの晴れの日、一基の墓石にプラスチックの容器が供えられていた。中には黄色っぽい食べ物が入っている。そこへ、一匹のスズメが匂いにつられてやって来た。スズメは中の食べ物を取り出そうと、容器をつんつんと突っつき始める。色んな方向から容器を突っつきまわす。すると、意外にも容器はすぐに開いた。辺りに香ばしい醤油の匂いが広がる。容器の中身は油揚げだった。


「――母の好物だったんだ」かすかに、遠くから男性の声が聞こえてきた。

最後までお読みくださいまして、誠にありがとうございます。

感想等を書いてくださると非常に光栄です。

ただし、他の読者様が不快になるようなご感想はご遠慮いただきます。

次回作も読んでくださると恐縮です。ありがとうございました。

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