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塔の賢龍  作者: 鹿の子姫
第1章 出会い
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塔の賢龍

第6章にてようやくタイトル回収出来ました。

シャズイーニはやたら本を読むスピードが速い。

アオバが「人体の護身術」をようやく読み終えて名前と置き場所を覚えた頃には、シャズイーニは辞書ほどもある本を三冊も読み終えているのである。

アオバが本の内容を理解しようと苦心している時も心に


「アオバ! 光の屈折の法則と利用方法ってタイトルの本を持ってきてくれ」


とシャズイーニから注文が入ることもしばしばだ。

まだほとんどの本の場所を覚えていないアオバはファシルに聞いて場所を教えてもらわなければ本を探し出せない。

それを知ってか知らずか、シャズイーニはアオバにばかり本を探させるのである。

全く嫌な龍だとアオバは思う。

シャズイーニはタイトルを覚えていないことも多く、〜な内容の本をとアバウトな言い方で本を探せと言うこともある。

アオバは一度


「少しは自分で探せ!」


とシャズイーニに言ったのだが


「ほう。なら司書は二人もいらないなぁ。明日の朝飯にしちまうか」


とニタニタと笑いながら言うのである。もちろんアオバはシャズイーニの朝食になるなどゴメンなので黙って本を探すのである。


そんな日々が一週間ほど続き、アオバが城の司書としての生活に慣れてきた頃のことだ。


「誰か来るな」


シャズイーニが本から視線を上げずに言う。


「誰か来ますね」


ファシルも本をしまう作業の手を止めて言う。

アオバにはなぜ二人が来客を察知できたのか分からなかったが、ドンドンと中央塔の扉を叩く音が聞こえ始めた。


「はーい。角獣エルナト二名のご来客です」


ファシルがそう言って中央塔の大扉を開ける。

そこには確かにに角獣が二匹、大きいのと一回り小さいのがいた。

アオバが来た時に見た幻術は不審者が来た時に追い払うためのものらしい。

今回ファシルは幻術をかけていないようだ。

角獣は魔獣の一種で、額の巨大な角で城壁をも突き破る力を持つ。


「塔の賢龍様、お初目にお目にかかります。今日はこの子の具合を見て頂きたく参りました」


大きい方の角獣が横に動くと、小さな角獣の姿が露わになった。

どうやら親子らしい。

アオバが見たところ普通の角獣に見えるが、一歩歩み出た子角獣の歩調は乱れ、フラフラしながらシャズイーニの元に進んだ。

シャズイーニはここで初めて読んでいた本から目を逸らすと、子角獣をじっくり観察する。

そして舌を出すとベロりと子角獣を舐めた。


「ふむ。熱があるようだな。それに腐敗臭もする。最近大きな怪我をしたことはないかい?」


シャズイーニの質問に母角獣が答える。


「ええ......人間に脇腹を槍で突かれた傷がありましたがもう完全に治っています」


母角獣はチラリとアオバの方に視線を向けてシャズイーニの方を向いた。


「治ってはいないね。皮膚の下で化膿して膿が溜まっている。熱もこの化膿が原因だな。これでは命も危ない。ファシル、すぐに膿を出して洗浄する。それと化膿止めのオープの葉の用意を」


アオバはシャズイーニを見直した。

化膿は放っておくと菌が全身にまわって命に関わることもある。

すぐに洗浄するのは正しい判断と言えた。

オープの葉に化膿止め効果があることも、星読み師育成学校時代に習った記憶がある。

星読み師は魔法を行使するために様々な知識が求められる。

もしアオバがシャズイーニの立場なら、シャズイーニと同じ診断をしたことだろう。


ファシルがオープの葉を取りに行っている間、シャズイーニはアオバに子角獣を押さえているようにと命じた。アオバが子角獣に近づくと、


「私の息子に触らないで!」


アオバは母角獣に腹を頭突きされた。

そのパワーは凄まじく、アオバは床を滑り飛ばされた。

よろよろと腹を抑えながらアオバは立ち上がる。

またもやシャズイーニがニヤニヤしているのが見える。


「お子さんが助からなくても良いんですか!」


アオバが怒鳴ると母角獣は渋々アオバに子角獣を触らせた。


「大丈夫だよ。ちゃんと治るから安心して」


アオバは子角獣の耳元で声をかける。


「僕が脇腹に穴を開ける。そこから絞れるだけ膿を絞り出すんだ」


シャズイーニが爪を一本立たせ、子角獣の脇腹にゆっくり突き立てる。子角獣は痛みに顔を歪めて暴れるが、アオバがしっかり押さえつける。


「大丈夫。もう少し頑張れ!」


アオバが声をかけ励ましながらガーゼを爪で穴へ押し付けて膿を絞り出す。ファシルも横で手伝いながら、片手で魔法で綺麗な水を作り出す。空中に水の塊を浮かべながら、少しずつ傷口に水を垂らして洗浄していく。

さらにファシルは魔法で乳鉢と乳棒を動かしてオープの葉をすり潰す。膿が出なくなってくると、残った水の塊を赤い傷口に落とす。

バシャッと水が広がり、洗浄は完了した。

すり潰したオープの葉を傷口にあてて、蜜蝋で固めた。


「こんなもんだな。あとはしっかり休ませること。あと水を多めに取らせろ」


シャズイーニが言うと母角獣がおずおずと近づいてきた。


「有難うございました塔の賢龍様...これ、ほんの少しですがお礼です。」


母角獣が差し出した風呂敷の中にはあの半生が印象深い紫色の木の実がどっさり入っていた。

起き上がった子角獣はアオバに


「ありがとう。人間のお兄ちゃん」


と言った。

アオバは照れくさそうに


「おう。もう怪我するんじゃないぞ」


と子角獣に笑顔を向けた。

角獣親子が帰っていくと、シャズイーニがニヤニヤとアオバに


「これで数日間はファシルのボイル木の実が食べれるな!」


と嫌味ったらしく言ってきた。本当に嫌な龍である。


「てかシャズイーニお前塔の賢龍なんて呼ばれてるのかよ! こんな嫌味なやつが賢龍だなんて賢龍が聞いて呆れるわ!」


「はん! 僕の知識に対する真っ当な呼び名だね!」


「二人とも仲良くなれて良かった良かったです」


ファシルが先程貰った木の実を茹でながら喧嘩する二人を見てニコニコしながら呟いた。



やっとタイトル回収出来ました。


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