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塔の賢龍  作者: 鹿の子姫
第1章 出会い
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新しい生活

アオバが目を覚ました頃には窓から午後の日差しが差し込んでいた。


「やっべ!」


慌ててベッドから飛び起きると、寝癖を適当に直して螺旋階段を駆け下りる。

一階の調理場ではファシルが何やら怪しげな紫色の木の実と睨めっこをしていた。


「あぁアオバ。おはようございます。今朝食を作りますね。あ、昼食の間違いですかね」


無邪気な笑顔のまま寝坊を咎められたアオバは赤面した。


まずい。


ファシルに能無しと思われればいつあの龍に自分が喰われるかも時間の問題だ。


「中央塔に机と椅子があるのでそこで座って待っていてください」


ファシルに言われた通り、中央塔の東塔入口前に長机と向かい合わせで六脚の椅子があった。アオバが端の椅子に座ると、心の中でまたあの声が響いた。


「おはよう人間。昼に起きるほどここのベッドは寝心地が良かったようだな」


シャズイーニは中央塔の真ん中、昨日石像と間違えた場所と同じ所に座っていた。

ポーズまで昨日と同じだ。左手に本を持ち、右手が読んでいるところの文に添えられている。


「もう。シャズイーニったら。アオバは今日から新人助手なんですから優しくしてあげて下さいよ」


新人という所をやけに強調してファシルがシャズイーニをたしなめる。


「さぁ昼食ですよ」


目の前に置かれたのは先程ファシルが睨めっこしていた怪しげな紫色の木の実を茹でたものらしかった。


「これは俺が食べても腹下したりしないよな?」



「私が腕によりをかけて茹でましたので御安心を」


やはり茹でただけのものらしい。

アオバは目をつぶり、フォークに刺した木の実を一粒口に入れる。

うん。半生だ。

口の中をドロっとした青臭い香りで満たされたアオバは鼻をつまんで吐き戻したい衝動を抑える。一方のファシルは美味しそうに紫色の木の実をほおばっている。


「どうだ?ファシルの料理は。美味いだろ?」


シャズイーニは多分人間で言うニヤニヤ顔で(龍の顔の変化はアオバにはよく分からなかったが)こちらを見ている。


「うん......すごく野性的な味がして美味しいです......」


ファシルが満足そうに頷くのが横目に見えた。


アオバは苦労して食事を終わらせると、ファシルに連れられて東塔四階のクローゼットの前に来た。


「さぁアオバ。ここの司書としての制服に着替えましょう」


クローゼットを開けるとファシルが着ているものと同じ白と黒の変わった服が何十着もぎっしり詰め込まれていた。


「さぁ早くその服を脱いで下さい。採寸しますから」


ファシルが手に巻尺を持ちながらせがむ。


「ま、待て。この服はエクーナ王国の星読み師である証であって身分を証明する大切なものなんだ」


「身分なんてここでは必要ありません。さぁ早く!」


このままうだうだしていてもファシルに服を剥ぎ取られそうだとアオバは思った。

それは不味い。

さすがに年頃の少女(エルフだから何歳か定かではないが)に裸を見られるのは大変不味い。


「わ、分かったから! 自分で採寸するから女の子は外で待っててくれ!」


突然静寂が訪れた。

しばらく二人とも動かず無言の時が続いた。

最初に口を開いたのはファシルだった。


「女の子ってどこにいるんですか?」


「ファシルのことだよ」


また沈黙が続く。

するとファシルが赤面して手で顔を覆った。


「ファシル!? どうした!?」


アオバが慌てるとファシルは叫んだ。


「私は男ですよ!!!」


今度はアオバが叫ぶ番だった。


「ええええー!?」


ファシルは言われてみれば中性的な容姿をしていると言えた。

胸が絶壁なのは幼いせいかと思っていたがどうやら性別が違ったようだ。

結局自分で服を脱いだアオバは大人しくファシルに採寸される事となった。


「これじゃまるで貴族だな」


アオバがそう呟きながら自分の新しい豪華な服を触る。


「とてもよくお似合いです」


ファシルは満足そうに頷く。


「次は司書の仕事を説明しますね」


アオバは西塔の書庫へと向かった。


「私達の仕事は主に本の管理です。書庫を掃除したり、傷みが酷い本を修復したり。あとシャズイーニが指名した本を取ってくることです」


するとタイミングよくシャズイーニの声が聞こえた。


「ファシル。ドワーフ族の歴史と鉱石の関わりの本を持ってきてくれ」


「分かりました。シャズイーニ、グッドタイミングです」


こんな感じです、とファシルはアオバに笑いかける。

ファシルは羽もないのに宙に浮くとアオバの身長の二倍の高さにある本棚の一番上の本の中から一冊を抜き取った。


「本の名前と内容、保管場所を覚えるのも仕事の一つです」


サラリと言うファシルにアオバは目を見開いて叫ぶ。


「これ全部!?」


「そうですよ」


一つの塔でも数百冊はありそうだ。それを全部覚えるなんて星読み師見習いの時から天才と謳われたアオバでも生きているうちには不可能に思えた。

掃除やファシルの説明を聞くうちにあっという間に日が暮れてしまった。

半日歩いて分かったのが、この城全体が本を貯蔵するのに適した造りになっている。

本の日焼けを防ぐために各塔の窓は最小限しか無く、代わりに発光石を多く壁に取り付けてあった。

本の劣化はファシルの魔法で最小限に抑えられていて、中には七百年前の本もあるという。

とにかくここは城とは言うより本の貯蔵庫と言った方がしっくりくる。本好きにとってはまさに天国という訳だ。

アオバ自身、幼少期から天文学の本に囲まれて育ったのですぐにこの城が好きになった。

そしてそれはシャズイーニも同じらしい。あの龍は龍なのに本を読んで知識を蓄えることを生きがいにしているとファシルは言っていた。

龍といえば己の力を誇示するあまり知識に興味はない生き物のはずだが、シャズイーニは違った。

知識こそが力。

という異端な発想の持ち主であるようだった。

掃除を終えたアオバが中央塔に戻ると、そこにシャズイーニの巨体の姿は無かった。


「ああシャズイーニなら食事に出かけましたよ」


ファシルがエプロン姿で夕食を作りながら答える。


「食事という事は狩りか......」


龍は肉食生物最強であり、どんな生物でも獲物となりえる。

明日の自分がシャズイーニの朝食になりませんようにとアオバは心の中で祈った。


「そういえば、あの天井のステンドグラスはどういう仕組みで扉みたいに開いたり閉じたりしているんだ?」


アオバはふと思った疑問をファシルに投げかける。

昨日見た時はシャズイーニが近づいただけで勝手にステンドグラス扉が開いたように見えた。何か魔法的なものだろうか。


「あれはシャズイーニが力魔法で開けています。この城の持ち主ヤーゴン様は、天体を観察しやすいように天井をああして開けられるように設計なさったのです。ヤーゴン様の生前は人間達が動滑車と鎖を使って開けていました」


「ふーん。というかファシルはヤーゴン・エルグ・レグチャフを知っているんだな。どういう関係なの?」


アオバは目の前に置かれた何か(カエルのような生物を茹でたものをグチャグチャに潰したもの)をフォークで嫌々つつきながら質問を続ける。


「私はヤーゴン様が亡くなる三百年前までヤーゴン様の物でした。そしてヤーゴン様は亡くなる前に私にこの城を護るようにと命じられたのです」


口の端からカエルの足のようなものが飛び出したままファシルは胸を張った。


自室に戻ったアオバはベッドに寝転がり、天井を見つめながら今日得た情報を整理していた。

まだ夕食のカエルで胃もたれが酷い。

眠る前に情報整理をするのはアオバの習慣だった。

昨日は疲れすぎていて出来なかった分今日はやると決めていた。


「エルフのファシルは実は男で、飛龍シャズイーニは龍の中でも知識欲に駆られる変わり者か......」


二人の関係は友人のようにも見えるし、ファシルをシャズイーニが扱き使うあたり主従関係があるようにも見える。


「うーぬ......ファシルはこの城にヤーゴンが生きていた時からこの城にいるらしい。しかもこの城の本の場所と内容を全て覚えているらしい。ならば俺が探している天体の周期記録書を知っているかもしれない。だが安易に聞くのははばかられるな......。本を持ち出したとバレたらあのシャズイーニが追いかけてきそうだもんな。」


考えこむアオバに今日の疲れがどっと押し寄せてくる。


「ああ......ピーターはどこかで元気にやってるといいな......」


愛馬の無事を祈りながらアオバは深い眠りに落ちていった。

これから始まるアオバの新しい生活。

今後どんどん世界広がってくので乞うご期待下さい!!

鹿の子姫でTwitterやってます。次話投稿のツイートとかしてるので興味がある方はフォローしてくれるととっても励みになります。

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