塔の報告会
天井から差し込む青白い月明かりと、壁に設置された魔結晶の淡い光に照らされた中央塔内でアオバとファシルとシャズイーニは向かい合っていた。
(なんか......この感じ久しぶりだな)
アオバはそう思いつつ報告を始める。
「一応交渉は成立した。だが、一つ条件を付けられた」
シャズイーニが紫の瞳をぐっと細める。
ファシルはゴクリと唾を飲み込む。
「条件というのが、俺が魔龍会の手先でない証明しなきゃならないらしい。二週間後にシャズイーニと俺が王都で凱旋して、それから王城で交換の議を行うことになった」
「人間の王都で凱旋ですか! それは楽しみですねシャズイーニ!」
ファシルがシャズイーニに声をかけるが、シャズイーニはフンっと鼻を鳴らした。
「面倒くさい。嫌だ」
「お前は子供かよ!?」
シャズイーニのあまりにも大人げない反応にアオバは天を仰ぐ。
「それに、人間ごときがこの僕の使者であるアオバを信用していないのが気に入らないね」
嬉しいような、嬉しくないような、何とも言えないシャズイーニの言葉にアオバはため息をつく。
「お前さーもう少し協力してくれてもいいんじゃない? 俺は牢獄行き覚悟で王都へ行って交渉の約束こぎつけたんだぜ?」
「嫌なものは嫌だ」
シャズイーニはぷいっとそっぽを向いてしまった。
「ああーもう! お前がちょっと羽ばたいて王都の中を歩いてくれるだけでいいのになんで協力してくれないんだ!」
「面倒くさい」
「お前は駄々っ子か!」
アオバはイライラして頭をガシガシと掻く。
「まぁまぁ二人とも、まだ二週間ありますし......」
ファシルが仲裁に入る。
「いーや俺はもう我慢ならないね。こんなワガママお子ちゃま龍に付き合ってらんねーわ」
「僕がお子ちゃまだって!? アオバ、お前覚悟しろよ」
「お子ちゃまが嫌なら二週間後王都に行くぞ!」
「嫌だ」
「んあああああ!!!」
アオバは顔を真っ赤にして頭を抱える。
「シャズイーニ! 留守が心配なら私に任せてください!」
「そういう問題じゃない!」
「そういう問題じゃない!」
顔を真っ赤にしたアオバとシャズイーニが同時にファシルに詰め寄る。
「あわわ......ごめんなさい!」
ファシルはピューんと飛行魔法で厨房まで逃げてしまった。物陰からこっそりと片目をだしてこちらの様子を伺っている。
「もう知らね。俺一人で王都行って豪華な食事にありついてくるわ」
「......豪華な食事?」
シャズイーニが僅かにアオバに振り返る。
「そりゃあ大切なお客様のために国王はそれは盛大な宴を開いてくれるだろうよ」
「むむむ......」
(こいつまさか『豪華な食事』に惹かれてる!?)
アオバは今気づいたことを確かめるためにシャズイーニをさらに揺さぶる。
「王の宴の席に出る食事なんて王国一の料理人が作るだろうからそりゃあ美味いだろうな」
「アオバ。僕やっぱり王都に行く」
よっしゃっ!とアオバは心の中でガッツポーズを決める。
「にしてもこの引きこもり龍、チョロいな」
「アオバ。お前は一回分からせないとダメみたいだな」
シャズイーニが鼻から焦げ臭い煙を吐き出して口を開ける。その口内では灼熱の炎が揺れている。
「うわわ! すみませんでした!!」
平謝りするアオバをシャズイーニは冷ややかに見下ろす。
「決して『豪華な食事』に惹かれたわけじゃないからな!」
「はいはい......分かっておりますよ......」
アオバは愛想笑いを顔に付けたまま自室へ引っ込んだ。
「ああー今日はいつもの数倍疲れたわ」
ベッドに横になり、いつもの灰色の天井を見つめながらアオバは今日の出来事を整理する。
「とりあえずシャズイーニの了承はゲットしたから二週間後の王都での交渉は大丈夫そうだな」
シャズイーニ自身は食べ物に惹かれたのではないと言っていたが、あれは明らかに食べ物に惹かれている様子だった。
「俺が料理作るようになってからシャズイーニは狩りにも行かなくなったし、味覚が人間寄りに変化してんのかな」
嫌味で過保護で引きこもりの子供の龍ときた。なんて扱いにくいやつなんだろうか。
「でもなんか憎めないヤツなんだよな......なんか子供と話してるみたいな......あれ、これって父性ってやつ!?」
恐ろし予測を忘れようとアオバは頭を振る。
「いやいや、いくら天涯独身と言えど、俺が突然父性とか目覚めるわけないし」
そうに違いないと自分を納得させつつアオバはほどなくやってきた睡魔に身を委ねた。
シャズイーニのキャラがどんどん濃くなってきましたね。
でもやる時はビシッとやるキャラを目指していきたいです。




