二人の声
ファシルの記憶から戻ったアオバとシャズイーニはしばらく言葉を発さなかった。いや、発することができなかった。
ファシルの壮絶な過去に、二人とも言葉を失っていた。
アオバはそっと眠り続けるファシルの額に手を置く。
「こんな小さな体にあんな記憶を溜め込んでいたなんて......ファシルが可哀想だ」
シャズイーニもアオバにならって鼻先をファシルの肩に乗せる。
「僕は三十年もファシルと過ごしてきたのにその苦しみを気づいてやれなかった......。なのにファシルはいつも笑顔で僕らを気遣ってくれていた。ファシル......お願いだ......戻ってきておくれよ......」
涙を流すシャズイーニ。その時、ファシルが小さく声を発した。
「...ズ.........ニ」
「ファシル! どうした!?」
二人は耳をファシルの口元に近づけてファシルの声を聞き取ろうとする。
「......ない......」
ファシルの声は小さすぎて上手く聞き取れない。
「そうか! エコー魔法だ! シャズイーニのエコー魔法にファシルが反応しているんだ!」
アオバが叫ぶ。
シャズイーニもはっとその紫の瞳を見開く。
「そうか! 声が聞こえなくても、エコー魔法なら心に直接声が届くのか!」
アオバは頷く。
「これに賭けるしかないな」
アオバは早速星導魔術でエコー魔法を展開する。
「アナムダ・オルタ!」
アオバが呪文を唱えると、ファシルの心の波長に自分の魔力を合わせる。
「ファシル! 聞こえるか?」
アオバの呼びかけに、ファシルはうっすらと目を開けた。
「少しは効いてるみたいだ! 呼びかけ続けよう」
アオバとシャズイーニはエコー魔法を使ってファシルに呼びかけ続ける。
三人の図上では星々がキラキラと煌めいていた。