表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

世界が堅く結ばれた日

作者: ガンマウス

世界が堅く結ばれた日



世界。一重に文字に置き換えると簡単な響きのある言葉。

しかしながら、誰しもが深くこの意味を知ろうとはしない。各々が生きる空間を説明しろと言われれば、情報の過多によりパンクするのも想像は簡単だ。だから、とは言わないが、ここで知って欲しいのは、世界は平等でなくて当然であること。

もろいくらいが丁度いいものである。


だが、今日この時をもってわたしの世界は堅く結ばれた。


街を歩く青年が、こう呟いた。

「僕は一人じゃない。僕が死ねばもう一人の僕がいる」

僕。僕。僕。うるさい。一人称をそれほど繋げなくても、いいだろうに。寒い冬景色に白い息と、虚ろな言葉が漏れていた。



彼らは名を持たない。あれ。や、あいつ。強いて区別するなら、これらの言葉であろう。


いつも彼らは、街の端を歩く。身体はぴっちりとした黒いタイツ姿。上も下もない。

そんな彼らは、幅にして30センチ感覚に距離をあけて、もう一人の彼がついて歩き、その後ろにもう一人の彼が‥‥‥。と永遠に後ろまで続く列が皆下を向きながら歩く。

さながら、道端のありと同じだ。


一人が、右手を上げれば、後ろに続く同じ様態の者がすっと、同じタイミングで右手をあげる。そうすれば、又後ろの者が。とコピー運動していく。


生を受けて、いつからだろうか。この光景が当たり前になっているは。

親から聞かされた話では、世界の三分の二はこの奇妙な者達で占められているらしい。



母は言った。

「世界が結ばれるのはあと少しね。あなたが最後の一人よ」

父は言った。

「名誉なことだぞ。最後に世界を堅く結んだ者になれる。誇れるじゃないか」


わたしの両親は、声高らかに食事風景の一片に、語ってくれた。小さな頃はこのことに、やった。みんなに自慢できるね。と食事中でありながら、食卓の周りを走り回り、怒られたものだ。


そんな話も何十年も昔のこと。

ぐるりとあたりを見渡す。

その参列の中にいつも見ていた。父。母。の顔があった。すかさず。目の前まで行きジッと凝らしてみる。

何年も前。二人がこうなってからわたしはいつもこうしている。毎朝欠かさずだ。


常々おもう。

これで本当にわたしで最後だ。世界は堅く結ばれようとしている。


世界とは人が定義する上で、欠かせない言葉の一つであろう。

みんな平等でないのは、おかしい。

では、何をもって平等となるのか。


わたしは知っている。

世界が堅く結ばれる時。本当に平等となり、全ては一つの世界になる。


世界は一つであるのだから、不思議に考えては行けない。


元から一つなのだ。


「僕は一人じゃない。僕が死ねばもう一人の僕がいる」

歩く大きな音が一つ。

回る世界も一つ。

生存者75.3億人



彼が右手を上げれば、彼も右手を。

彼が転ければ、彼もこける。

彼が死んだ日には、皆が死んだ。


世界は堅く結ばれた。

そして、最後の日になった。


小さなわたしがニタリと笑う。

「見てみて、わたしが最後に世界を堅く結んだんだ。すごいでしょ」

相手はそれを同じようにニタリと笑った。


そして、相手も口を開いてこう言った。


「見てみて、わたしが最後に世界を堅く結んだんだ。‥‥‥すごいでしょ?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ