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冷やしアンドロイド始めました

エタるまでチキンレースでございます

「神です」

バイクが突っ込んできたと思ったら暗闇の中に浮いていた。

何処からともなく響く声に、サブカルチャー文化に染まった脳みそが反射的に自分が死んだ流れだなと弾き出した。

「あ、オナシャス」

「OK」

転生する流れだろうとあたりを付けていると、さっそくどこかに引っ張られていく感覚がしはじめた。

「要望とかって」

「いい感じにしとくよ」

「ありがとうございますー」

いい感じならいいやと流れに身を任せた。間もなく、暗転。


空気の流れを感じて目が覚めた。

どうも棺のようなものの中にいるらしい。窓はなく、赤い艶のある生地が内側にはりつけてある。

力を加えるとふわりと押し返されるため、クッション性のあるものが布の裏に詰めてあるようだった。

そして、空気の流れのもとはと言えば、左側面にあけられた棺の隙間からだった。

今は息をひそめているが、原因はその隙間に差し込まれた、ねじ込まれていた金属の爪が原因だ。ゆっくりとだがギリギリと隙間を広げている。

爪の主の会話はないが、音から察するに、二人いるようだった。

ビビッているわけではないが、こちらから動くには情報が足りないと判断した。

ややあって休憩が始まった。隙間は、1センチ程度まで開いている。

のぞき込むような仕草が何度かあったが特に何かを見つけたような反応はない。光源の類は持っていないようだ。

「なぁ」

きた、と耳を澄ませた。男の声、若い声だ。位置的に先ほどまで開けようとしていた方だろう。

「どうした?」

渋い男の声。二人がかりで作業しないのは、この男が見張りだからなのか。若い男が監視されているのか、単純に記録をとっているのか。

何にせよ、武器を持っている可能性があるだろう。

「ここに引っ越すってのはだめなのか?」

「川が遠いからな。ここらの土は栽培に向いてないそうだ。それにあっちだって雨風くらいなら凌げるだろう?」

「……虫が、わくじゃねぇか」

「……ああ、まだ苦手なのか」

「うるせぇ! それに、川辺は寄生虫ってのが危ないんだろ?」

「説明したのは失敗だったかもしれんな」

「ふん」

仲は良さそうだ。

「そろそろ始めよう」

「けっ、疲れるのは俺だけだろ」

「戦える者が工具抱えてる訳にもいかんだろう」

「どこに危険があるってんだよ」

そこからは若い男の不満と悪態を渋い声の男がたしなめつつ、十分ほど作業が続いた。

そして、留め金が弾けると蓋が重い金属音とともに落下し、若い男が唸りながらさらに蓋を横に倒そうと力を込めた。

蓋が斜めに傾きながらどかされていくと、自然と先に顔を合わせることになるのは渋い声の男の方になる。

銀髪で青い瞳と頬にある傷痕が相反する印象を与える壮年の男だ。

目が合ったと思った瞬間に若い声の男を強引に引き寄せて放り投げると、銃らしいものをこちらへ向ける。遅れて若い声の男が何かにぶつかり、悲鳴があがった。

「こういう危険があるってぇ、話だ」

悲鳴を上げたいのはこっちのほうだった。

張りつめた雰囲気の中、少なくともこちらは一杯一杯で身動きが取れない。予測して躱すなんて無理だろうな。

そしてこういう時なんて言えばいいかわからない。平和な日本育ちだから仕方ない。

たっぷり30秒ほど沈黙が続き、若い男が立ち上がって渋い声の男の後ろに退避すると雰囲気がわずかに緩む。

「……おい、お前は何だ」

「何、とは」

声が変わっている。生前の体でということではないようだ。

「目的、任務、なんでもいい」

「とくには」

「では、容器に戻しても、問題ないな?」

「え、それはちょっと」

「ほう、何もないのに?」

「えー、あ、ほら、蓋の金具が壊れてますし」

視線でそれじゃあだめだと促された。

「折角だから見て回りたいなーって?」

「なんでお前がわかってないんだ……おい、どうだ?」

何がどうなんだと首を傾げると、隠れながらこちらをうかがっていた若い男が反応した。

「年式はわからねぇな。古いもんじゃないだろ。ハードポイント・追加装甲もなさそうだし、汎用タイプ。見たことねぇ容器だし、内布は高そうだ。量産品じゃない。愛玩用の線が一番濃い。次点で要人の影武者あたり、あいや任務がないなら愛玩用じゃねーかな。ちょっと不愛想な感じだけど」

「つまり?」

「安全。戦闘タイプよりは、だけどな。骨くらいなら小枝みたいにポッキリやれるぜ」

何の話をしてるやらと惚けたいところだけど、これはアンドロイド的な物に転生したようだ。しかし愛玩用とは、これは酷い。

「なるほど。よし、付いてこい」

「あ、はい」

最初の問答は若い男がこちらを分析するための時間稼ぎだったのかもしれない。

そんなことを思いながら体を容器から離すと一瞬抵抗がある。

「ん、どうした」

「……なんかちぎれそうな感じ」

「おい、ちょっと見てきてやれ」

「マジかよ」

若い男が嫌そうにこちらに近寄って頭を下げろとジェスチャーをしてくるので従う。

一瞬ためらった後、そっと手を肩にのせて背中側をのぞき込んだ。

「へへ、一丁前に照れやがって」

「うっせ。んー、こいつかな? どうだ?」

「お、大丈夫そうです。どうも」

改めて容器から出ると後頭部から何かが外れ、髪が解けた。振り返ると容器に引き込まれていく金属片がちらりと見えた。梱包用ってところだろうか。

「よし、荷物をまとめたら出発するぞ」

それから、荷物をまとめていく彼らの紹介をうけながら容器の中を漁ってみるのだった。

ブーツ、ハイヒール、スニーカー、ワンピースが2着、簡易メンテナンスキット、インナーがいくつか。

容器から出たときは背中が大きく開いた黒いボディースーツ姿だったので、そのままワンピースを上から着てスニーカーを履く。

その他は彼らが見つけてきた非常袋の袋を拝借して詰め込んだ。

ちなみに若い方がカシワ、渋い声の方がニレと名乗っている。

カシワは20歳くらいで、どうも学生だったようだ。星間旅行中に何かの襲撃をうけて何とか生還したのだとか。

ニレに確認を任されるくらいにはアンドロイドの知識は豊富のようだし、機械系が専攻だったんだろう。

金髪で青の瞳、口調はやんちゃだが結構ひょろい。

ニレは30歳くらいで、がっしりとした体系。あまり語ってくれなかったどころかカシワの身の上話を遮っていたが、銃を持て余している感じもないのでその手の仕事をしていたんだろう。黒髪で黒目だが顔立ちは日系じゃないのが何とも違和感を感じる。

「よし、いくか」

「あいよ」

二人の視線に頷いて答えると、金属製の両開きのスライドドアを抜けて、通路を抜けて右へ左へ。

5分ほど歩いてようやく外に出ることができた。

「うん、でっかいですね」

「……なんでお前が知らないんだよ」

振り返って見上げるとごつい旅客機のような感じのボロボロの船体がそこにあった。

「でっかいなぁ」

ニレの突っ込みをスルーして再度呟く。

こういうボロボロのデカブツというのはやはりロマンを感じる。

カメラでもあればと思うとなんか保存されたなという感覚があった。

成程、スクリーンショット機能もあるのか。覚えておこう。

足首ほどの高さの草むらが見渡す限り続いている。たしか、地球では平地からなら4キロ弱くらいが地平線だったかな。

「適当なところで一泊することになる。念のため、夜間は拘束するからな」

「あ、はい」

そうだろうな、と一抹の寂しさを感じながら二人に挟まれて、草むらを行く。

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