言わぬが花 第八回 長さと設計
小説には多くの形式があり、分類法も様々です。
その一つに、長さによる分け方があります。
ショートショートや掌編、短編、中編、長編、大長編などです。
実は、小説の長さと内容には深い関係があります。
それについて考えてみようと思います。
さて、物語を作る時、どれくらいの長さにするかは重要な問題です。
特に制限がないこともありますが、あらかじめ決まっていることも少なくありません。
小説で文学賞に応募するなら、指定された長さの範囲に収めなくてはなりません。
一年間の大河ドラマの脚本なら、放送回数と一回の長さに合わせて、全体と各回を構成する必要があります。
この時、重要なことは、長さに合わせた物語を作ることです。
掌編・短編・長編には、それぞれにふさわしい内容があるということです。
例えば、列車の旅を書くとしましょう。
東京を出発し、目的地まで三日かけて向かい、到着したら終わりです。
この場合、目的地は遠くなければなりません。
大阪や広島、鹿児島でもいいでしょう。
そういう場所なら、新幹線を途中下車して名古屋や京都を観光し、神戸や福岡で一泊しても不自然ではありません。
もし、目的地を横浜や成田や八王子に設定したら大変なことになります。
快速に乗れば一時間かからない場所に三日かけて行くのですから、一駅ごとに下車したり、日光や松本や浜松に行って戻ってきたりといった非常に不自然な行程を取らなくてはならなくなります。
逆に、半日で着かなければならない予定で、目的地が熊本だったり釧路だったりするのも問題です。
一部分は飛行機を使うといったルール違反の行動をしないと到着できません。
また、全体を見通して計画を立てることも大切です。
でないと、神戸を目的地に設定したのに、一日で大阪まで行ってしまって、あと二日どうしようということになるかも知れません。
このように、長さに物語の大きさを合わせることは非常に重要です。
ちゃんと予定の枚数に収めながら、流れが急すぎたり淀んだりしないように設計します。
しかし、これが難しいことがあります。
例えば、恋愛物のアニメを一クール十二話で作ることになったとします。
主人公とヒロインの恋自体は丁寧に描いても七話程度にしかなりません。
こういう時は、他の登場人物の恋模様を描いたり、二人の過去の体験を入れたりします。
中心の物語がかすまない程度に印象的なエピソードを作ります。
第一回で書きましたが、起承転結の形式で作ると「承」の自由度が高いです。
ですので、こういう構成になります。
起 第一話 主人公とヒロインの紹介と出会い
第二話 主要な人物も勢ぞろい
承 第三話~第七話 主人公以外の登場人物の恋模様などのエピソード。
転 第八話~第九話 主人公とヒロインの関係を大きく進める。
第十話~第十一話 波乱
結 第十二話 クライマックス、最後はハッピーエンド
重要なことは、承の部分でも二人の関係を少しずつ進展させることです。
途中下車して観光している部分ですが、わずかでも目的地へ近付いていく必要があります。
このように、物語の構成というのは、必要なエピソードをリストアップして、自然な流れになるように並べ、エピソードを追加したり削ったりして長さを調節することです。
物語を作ると、目的地に到達するためにはどうしても必要な場面や入れた方がよい場面が出てきます。
書きたい場面、加えたら面白そうな場面も思い付くかも知れません。
物語全体を俯瞰して、これらの場面を適切な場所にはめ込んでいきます。
そして、それらを接着します。
あの場面の次にこの場面が来ることを自然に見せるにはどうすればよいかを考えるのです。
接着剤は因果関係です。
あれがあったからこれが起こった、という事件同士のつながりのことです。
無理なくつながるように時系列を調整して並べます。
時間は先に行くほど進むのが原則で、時間を戻す場合は丁寧な配慮が必要です。
中に存在する要素で結び付ける方法もあります。
つなげるための要素を後から加えて場面を設計します。
伏線もその一つです。
因果関係を上手に作れると、物語に自然な流れが生まれて分かりやすくなります。
テーマを設けて全体に統一感を持たせるのもよい方法です。
物語を作るのがうまい人とは、長さに合わせた旅行計画の立て方と接着剤の使い方が得意な人のことです。
多少の増減はあるとしても、毎回予定の長さで物語を作れる人は、創作技術の基本が備わっていると感じます。