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言わぬが花 第七回 面白いストーリーとは

 すぐれた物語の魅力の一つに、引き込まれるストーリーがあります。

 そういう作品を夢中になって読むのはとても楽しいことです。


 では、面白いストーリーとはどういうものなのでしょうか。

 考えてみようと思います。



 ストーリーの面白さには、いくつか種類があります。


 例えば、キャラクターの魅力を引き出しているものがその一つです。

 そういうストーリーは、そのキャラクターたちが好きなら繰り返し読んでも楽しめます。


 時間の流れが複雑に入り組んでいて、謎を解くように読み進めていき、最後に全てがつながるといったものもあります。

 書くには高い技術が必要ですが、成功すれば読み応えのある作品になります。


 ですが、もっと根本的に、読んでいて面白く感じる条件があります。

 それは、先が読めないことです。

 次の展開が大体分かってしまうと読む意欲が半減します。


 例えば、物語の中で恋仲の男女が大喧嘩をしたとします。

 しかし、ストーリーの流れから、誤解はすぐに解けて仲直りするだろうと簡単に予想が付きます。

 すると、二人の対立や言い合いが茶番に見えてしまい、どうせ結果は分かっているのだから、だらだら引き延ばさないで早く終わらせて次のエピソードへ進んで欲しいと思うかも知れません。


 スポーツの試合や戦闘場面などでは、結果は想像できてもどのように勝つかが分からなければ、面白く読めることもあります。

 ですが、そういう場合でも、結果が予想できない方がより楽しめるでしょう。

 物語の鉄則は、読者が知らない新しい情報を書き連ねることです。

 既に知っているお話を語られてもつまらないのです。


 意外性は絶対に必要というわけではありません。

 期待に応えることを書けば、読者はおおむね満足するものです。

 男性同士の友情や絆を読者が見たいのなら、そういう場面を作ればびっくりする要素はなくても喜んでくれます。

 はずさない、がっかりさせないことがねらいなら、そうした書き方もあります。

 しかし、「ストーリーが面白い」と感じてもらうためには、読者が期待しているものを意外な形で見せる必要があります。


 それに、読まなくてもストーリーをほぼ予想できるのなら、作者以外の人の頭にも浮かぶ物語ということですので、オリジナリティーに欠けています。


 ですから、典型的なストーリーの型をそのまま書いてはいけません。

 驚きの展開、意外な結末という言葉もあります。

 土台はよく知られたパターンを踏襲していても、それからはずれそうに見せたり、新しい要素を入れたりする必要があります。

 主人公がしようとしていることが失敗しそうになったり、別な人の動きで邪魔されそうになったりというのも定番です。

 「あれ、予想と違うのかな」と思わせて、読者の興味を引き付けるのです。

 既存のストーリーをまねるのは非常に楽ですが、それでは創作とは言えません。


 このように、小説の読者は読みながら先を予想します。

 次はどんな面白い展開かしらと期待もしています。

 主人公たちはどうするのだろう、どうなるのかしらというのは先を読み進みたくなる原動力なので、予想や期待をしてもらわないと困ります。


 ですので、意外な展開にしようとすれば、読者の予想と違うことを書く必要があります。

 予想されていることを前提に、それをずらすのです。


 つまり、面白いストーリーとは、読者に予想させておいて、それをはずすことです。

 後から振り返ればちゃんと因果関係がつながっているのに、導かれる結果を予想されないように隠すのです。


 右へ行く流れと思わせて左へ行く。

 こういう意味だと思わせてああいう意味だった。

 何気ない物や言葉が伏線やきっかけとなって物語が結び付き、動いていく。


 このように、読者に本当のねらいを見抜かれないように予想を制御し、時にはうまく勘違いさせる技術が、ストーリー構成には必要です。



 さて、意外なストーリーを作るためには、読者がどう予想するかを予測しなければなりません。

 こう書いたらこう思うはずという制御が必要になります。


 もし、予想の制御に失敗すると、読者はがっかりします。

 例を挙げます。


 王宮の広場に軍勢が集まって出陣の支度をしています。

 緊迫した雰囲気の中、将軍や幕僚たちが慌ただしく行きかい、次々に伝令が到着して迫りくる敵軍の動きを報告しています。


 いきなり場面が移って、朝、主人公の姫君がベッドの上で目を覚ますと、美貌の王子が微笑んで見つめていて、頬におはようのキスをします。

「ば、ばか! 勝手に部屋に入らないでって言ってるでしょう!」

「僕たちは幼馴染で婚約してる。今更照れなくてもいいじゃないか」

「そういう問題じゃないの! 胸がばくばくしてるよ、もう……」

 甘々な会話が始まり、その中で戦いから三十年が過ぎていることが語られます。


 あれ、なにこれ、と驚きませんでしたか。

 戦いはどうなったのかな、と思うでしょう。


 読者は最初の記述で激しい戦いが語られるのだろうと予想します。

 しかし、実際はそうではありませんでした。

 肩透かしを食らった気分になります。


 これは確かに読者の予想をはずしています。

 しかし、読者の期待もはずしています。


 読者は読みながら、この物語でどんな面白さが得られるかを予想し期待します。

 この期待に反することを書くと、がっかりしたり、腹を立てたりします。


 読者が予想を間違えたのであって、作者は始めからそのつもりでストーリーを計画していたのだから、文句を言われても困ると思う人もいるでしょう。


 確かに、本を読み慣れている人なら、「ああ、そういうお話なんだね」と思考を切り替えて楽しむこともできるかも知れません。

 しかし、大抵の読者は、自分の予想が間違っていたと認めて考えを改めるよりも、だまされたと作者を責めることを選びます。

 読者の方が作品に頭を合わせてくれることを期待してはいけません。


 作者には出しておきたい情報や言わせたいセリフなどがあり、それを優先したくなります。

 ですが、読者がどう受け取るかを予測した上で書く必要があります。

 頭を絞った奇抜なストーリーが読者に理解されなかったら悲しいです。


 特に重要なのが冒頭です。

 そこでこの物語がどのような傾向や内容なのかをきちんと示す必要があります。

 緩急をつけるために、緊迫した戦いの合間に穏やかで平和な場面を挟むのはかまいませんが、冒頭で読者に与えたイメージの範囲を越えないことが大切です。


 これは場面だけにとどまりません。


 ある小説で、女主人公の好きな相手が軍師だと紹介されていました。

 戦いがあるのかなと思いましたが、全くありませんでした。


 小説で軍師といえば、奇策で敵を破ったり、内政や外交や謀略で鋭い助言をして味方を勝利に導いたりする存在です。

 しかし、この作品は恋愛物で、作者は彼が軍人で腕が立つ上、とても頭がよいということを伝えたかっただけのようでした。


 これは名探偵も同じです。

 名探偵には難事件と名推理と驚きのトリックが欠かせません。

 探偵という肩書きが付くだけで、読者は事件を期待するのです。


 ジャンルについても同じことが言えます。

 推理小説と名乗って謎解きがなかったら読者はだまされたと思います。

 歴史小説と書かれていて史実に無関係のファンタジーだったら怒ります。


 このように、どのような情報を示すと読者はどんなイメージを持ち、どういう期待をしてどんなストーリーを予想するかを予測することが、書き手には必要です。


 面白いストーリーを書くには、作品を読む人の思考にも想像力を働かせなくてはならないのです。

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