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言わぬが花 第三回 テーマと目的

 物語について語る時、重視されるのがテーマです。

 この作品のテーマは何ですかという問いが、小説読解の基本とされることは多いです。

 しかし、テーマを作品の中心と考えるのは、場合によっては間違いのもとです。

 執筆の経験をもとに、その理由を語ってみたいと思います。



 テーマについて述べる前に、必要なことがあります。

 テーマという言葉を定義することです。

 この言葉は複数の意味で使われるので分かりにくいからです。


 テーマという言葉は、一言で言うと、「書きたかったこと」という意味です。

 これをもっと細かくすると、四つの意味に分かれます。

 多くの場合、そのどれか、もしくはいくつかが複合したものとして使われます。


 一つ目は、中心的に取り上げて語っている題材です。


 「田舎に移り住んだ若い女性の恋と結婚」といったものです。

 「~について書いた小説」と言った時の、~の中身です。


 二つ目は、作者がやりたかったことです。


 沖縄の小島に引っ越した女性の日々を語る中で、「自然の豊かさや人々の温かさ」「その環境で主人公が生き方を見つめ直し、本当にやりたいこととふさわしい伴侶を見付けていく姿」を書きたかった、といったものです。

 ここが違うと、同じ題材でもどんな面白さになるかが変わります。


 三つ目は、作品の基本コンセプトです。


 「南国の小島ののどかで平和な暮らしを強調して明るいお話にし、重く暗くなり過ぎないようにする」といったものです。

 どういう雰囲気・傾向・方向性の物語なのかといった執筆の基本方針です。

 これも作品の味わいにとても大きな影響を与えます。


 四つ目は、その作品で追求し、深めたい問題です。

 哲学的な内容を持つ文学作品などに多く、物語で中心的に考察され読者に問いとして投げかけられます。

 結論を示す場合は教訓的になる場合もあります。

 「田舎の真っ正直な人間と、都会のずるい人間では、どちらがより幸せになれるか」といったものです。

 文学的テーマと呼ばれることもあります。


 このうち、「題材」は全ての小説にあります。

 「やりたいこと」と「基本方針」はあることが多いですがないこともあります。

 一方、「追求したいこと」はない作品も少なくありません。


 しかし、小説の読解で問われる「テーマ」は大抵四つ目です。

 他の三つの中に四つ目のようなものがぼんやりと感じられることもありますが、それは作者の思想や登場人物の考え方であって、「追求したいこと」ではありません。

 読者に対して意識的に投げかけられ、考えるように仕向けられないものは、四つ目のテーマとは呼べません。


 私の作品の場合、吼狼国物語の現四作のうち、三作に「追及したいこと」がありません。

 例えば、『花の戦記』は八十五万字もありますが、これを設定していません。

 ですが、友人は「今までで一番内容がある」と最も高い点をつけました。

 彼はかなり本を読んでいて、小説を見る目のある人だと私は思っています。


 このように、文学的テーマのない作品が面白かったり高い評価を得たりすることは珍しくありません。

 ないのですから、それを読み取ることは当然ながらできず、何をもってその作品を理解したと言えるのかは議論の余地があります。


 私は、物語を楽しめたら、そう考えてよいと思います。

 ほとんどの作者にとって、自分の作品は面白いものです。

 その面白さを感じ取れたのなら、作者が作品に込めた願いの最も基本的なものは受け取れたのだと思います。



 さて、テーマは四種類あると述べました。

 これ以外に、テーマと混同されやすく、かつ全ての作品に必ず存在するものがあります。

 それは「執筆の目的」です。

 つまり、書いた理由です。


 これはいろいろな場合が考えられます。

 例えばこんなものです。


 〇ひまつぶし。

 〇友人を楽しませたい。

 〇とにかく書くことが楽しい。書くこと自体が目的。

 〇出版してお金を稼ぎたい。

 ※自分の妄想を形にしたい。自分好みの美少女や異世界や冒険を生き生きと書きたい。

 〇読んだ人に教訓を()れたい。他人の考えを変えたい。自分の頭のよさを誇示(こじ)したい。

 ☆自分にとって重大な問題を、書くことで深く考えてみたい。


 こうした目的を実現するために、作者は物語を書きます。

 ※マークは「やりたいこと」、☆マークは「追求したいこと」でもあります。


 しかし、思い付くまま筆の進むままにだらだらと書いたものは、他人に見せても高い評価は期待できません。

 まともな作品を仕上げようとすると、どうしても形式感や統一感が必要になります。

 各場面を筋が通るようにつなげ、全体に一定の方向性を与えなくてはなりません。

 美少女のあんな場面、美少年のあんな行動や発言、それらを順番に並べた上で、ずぶりとまっすぐに貫き通す焼き鳥の(くし)のようなものが求められます。


 これには二つの種類があります。

 一つは、「形式」やジャンルの約束事です。

 例えば推理小説は、謎が提示され、それが解決されると物語が終わるという決まりがあります。

 ストーリーが謎を解くという目的で貫かれ、基本的には登場人物たちの行動や記述されることは全てそれに関連しています。

 ジャンルによってストーリーの流れや全体の構成がしばられることで、物語が迷子になることを防ぎ、読者を安心させます。


 そしてもう一つ、焼き鳥の串の役目を果たすのが「テーマ」です。

 このよい例が歴史小説です。

 面白い物語にするには、事実や起きた事件をただそのまま書くだけではいけません。

 一貫した視点やその作者独自の切り口から記述する必要があります。

 いわば色眼鏡で眺めることで、物語に色を付けるのです。


 例えば、『平家物語』は歴史の事実を「諸行無常(しょぎょうむじょう)」という観点から描いています。

 平家の没落していく様子はもちろん、力を増し栄えていく源氏すら、盛者必衰(じょうしゃひっすい)の定めからは逃れられない者たちとしてとらえられています。

 それでも必死に生きて戦い続ける人々の姿を、むなしさやそれゆえの(あざ)やかさで()()りにしています。


 このように、物語を創る時には、ある色に染め上げる必要があります。

 その作品独自の色や作者らしい色に染まっていない物語はつかみどころがなく、印象が薄くなり、目の()えた読者たちから高い評価を得られません。


 これが物語にテーマが必要と言われる理由です。

 二つ目・三つ目・四つ目のテーマはこの独自の視点の表れであり、ここがしっかりしているとよい作品になります。



 テーマについて語る時、しばしば「テーマを伝えるために物語を書く」ということが前提にされます。

 それは間違いです。

 テーマは物語を整えるために使う部品に過ぎません。


 むしろ、逆です。

 ストーリーを作って、そこにテーマをのせるのです。

 やりたいこと、書きたいことを実現するために、テーマをもうけるのです。

 テーマがあると軸ができて物語がぶれなくなり、書くべき場面・出すべきアイデア・演出の方針などがはっきりします。


 もちろん、テーマを掘り下げることが目的で書かれた作品もあります。

 また、食べることができておいしい串もあります。

 しかし、バーベキュー料理のように、本体は肉や野菜で串はつなぐための道具に過ぎないことも少なくありません。


 テーマとはおもてなしの心のようなものです。

 心は食べられませんが、出された料理を味わうことで客は厚くもてなされていることを感じます。

 もてなす気持ちがなくても料理は作れますが、そういうねらいや芯があった方が、統一感や流れが生まれるでしょう。


 追求するテーマがあると、問いかけられた問題が読後頭に残り、もやもやして考えさせられます。

 ないと、「ああ、面白かった!」でさっぱりすっきり読み終えられますが、作品の内容が記憶に残りにくいです。

 ゆえに、文学的テーマがある方が、一般には作品に深みを感じます。


 大切なことは、面白く、読んでよかったと思われる物語を書くことです。

 テーマを設定するのはそのための手段です。

 物語を書いた目的をはっきりと自覚していれば、テーマを設けた理由とその使い方を見失うことはないと思います。

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