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言わぬが花 第十五回 構成と成長

 徳川家康の幼名は竹千代といいます。

 さらわれて捕虜になりましたが、吉法師といった織田信長と知り合い、鷹狩などに連れ出されて野山を共に駆け回ったという伝説があります。


 この竹千代少年の役を任されたとしたら、どのように演じますか。


 アニメを見ていると、少年少女の役には決まった演じ方があることに気付きます。

 子供らしく親に甘えたり、駄々をこねたり、叱られて頬をふくらませたりしょげたりするのが定番のようです。


 では、竹千代少年も同じように演じてよいのでしょうか。

 答えは(いな)です。

 なぜなら、この少年はいずれ征夷大将軍になるからです。

 将来そういう偉人に育つような資質や才能の片鱗を示す必要があります。


 子供時代しか描かれないとしても、物語で語られないその先の人生まで見越した演技が求められるはずです。

 与えられた脚本のみを見て、そこに書かれたセリフや動きを一生懸命演じればよいわけではないのです。



 物語について構成と言った時、多くの場合思い浮かべるのは起承転結や三幕構成です。

 それは間違っていません。

 ですが、登場人物や舞台となる世界などの変化を段階的に描いていくことも構成のうちです。

 物語の中で登場人物は成長しますから当たり前のことです。

 気持ちや考え方といった内面も変化しますし、恋愛など他の人物との関係も進展します。


 もっとも、大抵の物語は期間が非常に短く、せいぜい高校三年間程度です。もちろんその中でも成長はありますが、がらりと人格が変わるわけではありません。

 しかし、大きな事件で人柄が一変するような作品の場合、それを効果的に示すため変化前後の描きわけが必要になります。

 また、将来すぐれた人物になったり恐ろしい事件を起こしたりするのならば、数十年後を想像させる表現をする必要があります。


 まして、大河ドラマのように少年・青年・壮年・中年から老年や晩年まで描く作品なら、その時期に合わせて描き方に変化を付けなくてはなりません。

 老年にこういう人柄に変化するから壮年や中年はこう表現しようとか、その原因になる事件を配置しておくといった配慮や計画が求められます。


 そのためには物語全体の計画を事前に立てなくてはなりません。

 拙作『狼達の花宴』の登場人物たちも、最終話やその後の姿を思い浮かべて、そこへ至る通過点としての現在を描いています。


 とはいえ、現実には人生の先は分かりません。一年後自分がどうなっているかを正確に予測するのは不可能です。

 ですから、敢えて先を決めない書き方もあるでしょう。


 予定された運命に向かって進めていく物語。

 筆に任せ、登場人物の成長や行動に応じてその都度決めていく物語。


 どちらでもかまわないと思います。

 ただ、先を決めない場合は意図的であるべきです。

 面倒だから、よい案が浮かばないから計画を立てないのは構成の放棄です。

 この二つが根本的に違うことを忘れてはならないと思います。

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