表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/39

言わぬが花 第一回 起承転結と構成の基本

 はじめに


 私は「吼狼国(くろうこく)物語」という架空歴史小説を書いています。


 架空歴史小説とは、架空の世界や地域を舞台にした歴史小説です。

 史実に基づかず、歴史そのものを創作します。

 登場する土地も国も民族も人物も、起こる出来事も、全て作者の創作です。


 魔法などファンタジー要素があったり、宇宙や未来が舞台などSFのようだったりすることもあり、分類が曖昧なジャンルでもあります。


 私が書いている「吼狼国(くろうこく)物語」は、和風文化の島国を舞台にしたシリーズです。

 魔法や妖怪、超科学は出てきません。


 第一部 『嵐の歌に、花は舞う』

  公家政権の末期、武家が台頭する時代の、武将と姫君の恋の物語。


 第二部 『花の軍師と白翼の姫』

  軍師の青年と大将の姫君の戦いの記録。


 第三部 『狼達の花宴(かえん) ~大軍師物語~』

  このシリーズの大元になった物語。大軍師の少年が仲間と天下統一を目指す。

  本一冊分の長編の連作。


 第四部 『花の戦記』

  大封主家の美人三姉妹の愛と戦い。三人主人公形式。


 各部は時代と主人公が違っていて別なストーリーです。

 全てを読むと吼狼国の歴史が分かるようになっています。

 どれも合戦があります。

 売りは合戦の奇策と、他の人が書かなそうなストーリーだと思います。 


 これらの執筆過程で考えたことを随想風に書いていきます。

 拙作をお読みでなくても分かるようにしています。


 題名通り、言わずもがなの内容ですが、楽しんで頂けるとうれしいです。

 第一回 起承転結と構成の基本



 私は長編を書く時、起承転結の形式を使います。

 ()(ろう)(こく)物語も全てそうです。

 多くの場合、こうなります。


 起 第一章

 承 第二章、第三章

 転 第四章、第五章(クライマックス)

 結 第六章


 この六章構成が基本です。

 「転」の後半、第五章が「クライマックス」です。吼狼国物語には必ず合戦シーンがありますので、ここで決戦が行われます。


 実際に書くと、「転」の前半が二章になったり、「承」が一章だったりします。

 また、「起」の前に序章が、「結」の後にエピローグが付くこともあります。


 なぜこういう構成にするのでしょうか。

 答えは単純です。

 初めて書いた小説を起承転結で構成し、その後も同じやり方を続けているからです。


 その作品はB5用紙二十枚分の執筆設計書を作り、一ヶ月半かけて書き上げました。

 十万五千字でした。

 以後も長編ばかり書いてきたので、自然と同じやり方を踏襲したのです。



 ところで、起承転結という形式は使いにくいと考える人がいます。

 小説の構成には序破急や三幕構成の方が適しているという主張のようです。

 インターネット上で公開するには、上記のどれとも違うふさわしい書き方があるという意見も目にします。


 私は起承転結は実作に役立つと思います。

 また、他の構成法と比べることにはあまり意味がないと感じます。

 起承転結は形式というよりも、もっと基本的なことを表しているだけだからです。


 物語とは何でしょうか。

 それは、「変化」の過程です。

 例えばこういう変化です。


 孤独だった人物が、ある経験を経て孤独でなくなる。

 子供だった人物が、ある経験を経て大人になる。

 悩みを抱えていた人物が、ある経験を経てそれを克服する。


 物語とは、その人物の人生の中から、この「ある経験」だけを切り取ったものです。

 そして、「変化」を語るには、「変化する前」を提示して、「変化した後」と比較する必要があります。


 つまり、物語とはこうなっています。


 一、変化前の状態の提示

 二、変化の始まり

 三、変化の過程

 四、変化の終わり

 五、変化後の状態の提示


 これを起承転結に当てはめるとこうなります。


 起 変化前の状態の提示

   変化の始まり(始まったきっかけのエピソード)

 承 変化の過程(途中のエピソードや変化の準備)

 転 変化の終わり(最後のエピソード。変化達成または失敗)

 結 変化後の状態の提示


 起承転結は物語の構成法というほど高度なものではありません。

 物語を、変化の始まり、過程、終わり、その後に分けなさいと言っているだけです。


 よって、基本的には、全ての物語に当てはめることができます。

 実際には、「結」を省略するものや、いきなり「承」から始まる物語もありますので、きれいに分けられるとは限りませんが、ストーリーを分析すれば起承転結の全ての要素が含まれているはずです。


 これを吼狼国物語に当てはめると以下のようになります。

 先述の通り、吼狼国物語は各巻に必ず合戦があり、そこで全てが解決します。

 つまり、一つの合戦をめぐる物語になっています。


(序章 本編理解のために知っておいて欲しい過去の出来事など)

 第一章 起 基本設定の提示・主人公の紹介。物語の始まり

 第二章 承 合戦への布石。敵味方双方の紹介と事情説明と動き。また、主人公たちの(いくさ)以外の日々のエピソード

 第三章  同上

 第四章 転 流れが一気に決戦へ向かう。激突が避けられなくなる。準備完了。

 第五章 クライマックス 合戦

 第六章 結 合戦後の主人公たちの様子

(エピローグ 主要人物たちのその後の人生)


 物語が突然始まり、いろいろな経験をしながら進行し、主人公が成長して終わるというよりも、その合戦がどうして起こり、なぜそのような結果になったのかを順を追って説明しているような組み立てなので、ストーリーとしてはやや特殊かも知れません。


 なお、「結」には二種類の解釈があります。

 私の場合は「変化後の状態提示」なので、物語の中心的な事件は終わっています。

 「クライマックスと変化後の状態提示を合わせたもの」と解釈する人もいます。この場合は、最も盛り上がる場面とその後の主人公たちの様子の両方を含みます。


 また、「承」も二種類あります。

 一つは、「起」を受けて始まった変化の過程のエピソードを複数並べ、そのまま「転」へなだれ込む場合です。私の作品はこれです。

 もう一つは、「承」の終わりに小解決を置く形です。「承」で活動した結果物事がうまく行き、主人公の問題がほぼ解決したと見せかけておいて、「転」に入ると急に状況が悪化する場合です。


 恋愛物で例を挙げます。


  一つ目の「承」の例


  起 青年と少女が出会い、恋に落ちる。

  承 幾度かの出会いや経験で互いに思いが募るが、どちらも言い出せない。

  転 二人が些細なことで喧嘩をする。少女をねらう男が現れる。

   (クライマックス)少女はやけになり男に連れ去られそうになる。そこへ青年が現れて思いを告げる。

  結 結ばれてハッピーエンド。


  二つ目の「承」の例


  承 幾度かの出会いや経験で互いに思いが募り、告白して恋人同士になる。

  転 幸せな二人だが、青年が遠方に引っ越す必要が生まれ、二人はそのことで喧嘩をする。少女をねらう男が現れる。

   (クライマックス)同じ



 こうした「変化」に着目した起承転結の分析の他に、「目的」の面から見た考え方もあります。


 必ずというわけではありませんが、しばしば物語の主人公は目的を持っています。

 それを達成する過程が物語です。


 物語開始時点では、主人公は目的を持っていません。

 目的を持つことで物語が動き出します。

 ですので、持ったきっかけの出来事、持ってから達成を目指して行動する様子、達成、その後に分けることができます。


 起 目的を持つ前の状態の提示

   目的を持ったきっかけの出来事(最初のエピソード)

 承 目的を達成しようと行動する様子や達成の準備(途中のエピソード)

 転 目的の達成または失敗が決まる出来事(最後のエピソード)

 結 目的達成後の状態の提示



 以上が起承転結の構成の基本です。

 これは私のやり方ですが、かなり有効だと思います。


 ただし、注意点があります。

 起承転結は基本的な発想として、最も盛り上がる部分を後半に持ってくる書き方です。

 「承」や「転」の前半は、文化祭にたとえれば準備している期間です。少しずつ作業を進め、クライマックスの開催当日に一気に発動させます。準備も楽しいですが、一番はじけるのは当日です。


 つまり、この形式通りに作ると、前半部分があまり盛り上がらなくなります。

 よって、冒頭で引き込む工夫と、「承」のエピソードを面白くするアイデアを別に考える必要が出てきます。

 「承」の終わりに小解決を持ってくる書き方は、この問題の対策だろうと思います。

 一章で終わる面白いエピソードを積み重ね、その中に伏線や伝えておきたい情報を入れていくのが理想ですが、なかなか難しいです。



 なお、物語の起承転結は論説的文章のものとは別物です。

 といいますか、起承転結は論理的に読み手を説得する文章にはあまり適さないと思います。


 その理由は「転」にあります。

 漢詩の絶句を元にした説明によりますと、変化をつけて流れを変えることになっています。

 しかし、論説的文章で流れを一度切って話題を変えるのは、あまりよいやり方とは言えません。

 伝えたいこと、論じたいことに集中し、全ての記述がそれに関することであることが重要だからです。

 エッセイなら、話題をずらして雰囲気を変えて落ちへ持っていくのは、技術がいりますが一つのやり方だと思います。


 一方、物語の「転」は、話題の転換ではありません。

 上記の通り、「変化の終わり」と「クライマックス」です。

 つまり、「起」で始まり、「承」で続けてきた物語が、いよいよ終わりに向かい始める部分です。


 「転」に入ったら、物語を終えるため、解決すべき問題や作品のテーマに焦点を当て、それに主人公を向き合わせます。

 そのため、重大な事件が起きたり、危機に陥ったりして雰囲気が変わります。


 人は大変な状況にならないと、なかなか自分の課題を直視しようとしません。苦境に陥ってこそ生き方や信念が浮き彫りになり、成長するのです。

 そして、張っておいた伏線を「クライマックス」で回収して大いに盛り上げ、主人公の変化を明示します。

 「転」とは「変化」を終わらせる最後のエピソードなのです。


 起承転結形式は、「起」の変化開始と主人公の目的提示の中規模エピソード、「承」のしばしば複数個の小エピソード、「転」の変化終了と目的達成の大エピソードで構成されていると言えます。


 この形式のよいところは、「承」の内容に自由度が高いことです。

 物語の都合に合わせて書きたいエピソードを並べ終えたら、「転」に入って終わらせれば形が整います。


 これは短編や長編一作の構成にとどまらず、長い物語にも当てはめられます。

 長編連作形式の『狼達の花宴』や八十五万字もある『花の戦記』も、物語全体で起承転結になっています。



 物語の構成法はいくつもあります。

 自分に合った方法を見付けることが最も大切だと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ