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勇者パーティを追放された最強縛りプレイヤー、素手と裸で世界を救う  作者: uru
第一章 旅立ち~魔法国エルダールーン編
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第6話 勇者パーティー、ボコられる

 銀狼の騎士、アルト・ルプスレーナ。

 薄絹のような銀の長髪。アイスブルーの怜悧な瞳。驚くような美貌を携えながらも、彼女は威風堂々とした立ち姿を崩さない。

 長身を覆う鎧や手にしている盾と剣はいずれもPvPのランカー報酬たる最高級のもの。

 

 銀騎士は無言でアレクたちを見つめていた。完全なる無表情。そこにはいかなる感情も読み取れない。

 一方のアレクたちは混乱の極みにあった。


「な、何故あなたがここに……? あなたも、この世界に召喚されたんですか?」


 アレクが問う。

 返答は、しかし彼が求めていたものとは遠く離れていた。


「……お前たちは、ああ。«四輝将»か」

 

 それは会話というよりは、自己に向けた言葉だったのだろう。

 アルトは冷徹にアレクたちを睥睨している。まるで値踏みするかのように。

 そこに友好的な色は微塵もなかった。アレクたちはようやく遅まきながら理解する。


 ――この女騎士は、敵だ。


 アレクはすぐさま両手剣を構えた。と同時に、アルトもまた盾と剣を構えて言い放つ。


「どれ、一つ貴様らの実力を見せてもらうとしようか」

 

 そしてその鉄面皮を崩さぬまま、ゆっくりとアレクたちへと歩み寄ってくる。

 あまりの威圧感と圧迫感に苛まれながらも、サクラとリリアが必死に声をあげた。


「ちょっと、なんなのよコイツ……! 頭おかしいんじゃないの!?」

「あ、あなたも元プレイヤーなんですよね? どうしていきなり戦う必要があるんですか!?」


 が、アルトはやはり答えない。沈黙を保ったまま、ただ移動要塞の如き威容で突き進んでくる。

 

「サクラ、リリア、構えろ! 話し合いが通じる相手じゃなさそうだ! やらなきゃこっちがやられる!」


 怒声を放ちつつアレクが疾走。戸惑いながらもサクラとリリアもそれに呼応する。

 アレクはサクラとリリアから支援魔法が飛んできたのを確認すると、勢いを殺さず両手剣を振り上げた。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 咆哮と共に、竜をも両断するであろう必殺の一撃が閃き――


「……は?」


 は、しなかった。

 一体、いつ移動したというのか。銀騎士の動きは、アレクの知覚能力を遥かに凌駕していた。

 アルトは神速でアレクの懐に潜り込むと、両手剣の一撃が振り下ろされ始めたその瞬間に、盾をもってその動きを止めていた。


 剣とはその重みで敵を断ち切る武器である。速度が乗り切らない段階で攻撃を止められては、なんの威力も発揮しない。

 故に、片手で持った盾であろうと、アレクの攻撃を受け切るには十分に足る。必然、アルトの右手は自由となる。


「がっ、は――!?」


 アルトの片手剣がアレクの胴を打ち払った。派手な金属音が鳴り響き、アレクの体が紙細工のように吹き飛ばされる。

 まさに圧倒的。予知能力じみた対応力によって、この世界においては間違いなく最強の一角であろう勇者アレクを子供扱いだ。

 これがかつて世界最強の名を欲しいままにした騎士。特にPvP、対人戦闘においては群を抜いた怪物である。


「そんな、嘘でしょ……アレク!?」


 サクラが慌てて回復魔法を唱える。幸い、アレクは派手に吹き飛ばされはしたが致命傷ではない。

 だが、それを許す銀狼ではなかった。

 アルトはサクラに向かってまたもや神速で駆ける。彼我の距離は一瞬で詰まっていく。


「させないよ……!«ヘルフレイムランス»!」


 リリアはアルトに向けて最上級魔法を放つ。回復を図るヒーラーが攻撃されるのは目に見えている。だからこそ、彼女の読みは正しかったと言えるだろう。

 ――相手が、通常の相手だったなら、の話だが。

 アルトは魔法が放たれるのを予見していたように回避すると、突如として方向転換しリリアへと向かう。

 

(――フェイント!?)


 アルトは初めからヒーラーのサクラではなくリリアを目標に定めていたのだ。そうでもなければ、あれほどまで華麗な回避と転換を同時に行えなどしない。


 リリアは自身に向かってくる銀色の悪夢を眺めながら、その時ふと脳裏をよぎる声に気がついた。

 それはとても軽薄かつ朗らかで、しかしこの上なく有用なものだった。


 ――PvPではまずヒーラーを狙う。これは定石だ。しかしそれは誰もが理解していること、よってヒーラーに対する守りは非常に硬い。

 ――そこで上級のプレイヤーは、二番目に脆い後衛を狙ってくるものだ。まず相手との人数差を作ることが最優先されるべきだからな。

 ――だからリリア、君はもう少し自分の身を守ることにも意識を割いた方がいい。


 アルトが盾を振るう。シールドバッシュの一撃を、しかしリリアはギリギリのところで回避することに成功していた。


「くっ……!?」


 だがそれは無様にも地面に身を投げ出すような回避方法だった。リリアは咄嗟に起き上がろうとするが、そんな暇をアルトが与えてくれるはずもない。

 ない、というのに、追撃は来なかった。リリアが顔を上げると、アルトの鉄面皮が崩れ、そこには僅かな驚愕が浮かんでいた。

 そして、アルトは何かを理解したかのようにふっと薄く笑うと、構えを解き踵を返した。


「貴様らは弱いな、話にならん。特に勇者、貴様だ。あっさり後衛を危険に晒す前衛など論外極まりない。そんなザマで魔王に挑むなど、死にに行くようなものだ」


 振り向いたアルトの眼光は鋭くアレクの胸に突き刺さった。

 サクラの回復を受けた彼はどうにか立ち上がると、必死に声を上げる。


「待て、なんなんだよ、お前は! いきなり襲ってきて今度は説教か? 聞きたいことは山程あるんだ、答えてもらおうか」

「……馬鹿か貴様。何故敗者の質問になど答えなければならんのだ。真実が知りたければ、それなりの実力を身に着けてからにしろ」


 アレクは言葉に詰まった。そう言われてしまえば返す言葉もない。

 アルトは懐から禍々しい形状をした鍵のような物体を取り出すと、無造作にそれを放り投げた。


「もっと強くなりたければ、それを使って魔界ゲートから«アビス・ダンジョン»に挑め。それが魔王へと至るための最短の道だ」


 そう言い残して、アルトは転移アイテムを使ってどこかへ去っていった。

 出現も唐突なら、去り際もまた唐突。アレクたちはたっぷり一分ほど言葉を失っていた。


「……結局、なんだったんだ一体。あいつは何がしたかったんだ?」

「さぁ……分からないわ。何者なのか、何が目的なのか、ホントに謎。そもそもどうしてこの世界に? 私達の他にも召喚されたプレイヤーがいるってこと?」

「でも、完全に悪い人、ってわけでもなさそうだよね……見逃してくれた上に助言とアイテムまでくれたわけだし」


 疑問は尽きない。が、リリアの言う悪い人ではない、という評価は全員に共通した認識だった。

 

「ねぇ……やっぱりさ、ヴィンデンに戻ってきてもらうわけには、いかないのかな」


 と、リリア。


「それは……難しいでしょうね。今更どの面下げて、って話だし。向こうだって了承するとは思えないわ」


 サクラが溜息を吐く。

 彼がいたならば、今回の戦闘もこうまで一方的な展開にはならなかっただろう。

 ともすれば、フル装備の彼ならばあの銀騎士にさえ届くかもしれない、と三人は思う。


 失ってから気付くものというのは案外多いものだ。逃がした魚は大きい、ということである。

 

「すまない、皆。前衛の俺がもっとしっかりしていればこうはならなかった。俺は――もっと強くなりたい。たとえここが虚構の世界だったとしても、苦しむ人々を救いたい。俺は、アビス・ダンジョンとやらに向かおうと思う」


 きっと強くなれば――銀狼も、変態のあいつも、認めてくれるだろうから、と。

 アレクはそう胸に秘めて、アルトが残した鍵を手に取ったのだった。


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