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第14話 次なる旅へ

 赤茶けた夕陽が谷間の向こうで恥じらうように沈んでいく。世界が黄昏に染まる頃、俺達はアルドラシルの街を出発していた。

 あれからギルドの新メンバーとは食事をともにし、親交を深めたのちに別れた。

 俺とロベリア、ローザは馬車に揺られながら次なる目的地を目指す。


 ローザはミザリィのことを親戚と研究所のスタッフに任せてきたらしい。来年は一緒にパレードを見れるね、と約束を交わして。

 姉妹の絆は固い。俺たちの旅に同行させるのは気が引けるが、彼女もまた必要な人材だ。

 «インバーサス・オンライン»のメインストーリーは基本的にNPCを含めて四人パーティーでの攻略が基本となる。


 ギルドのメンバーを連れて行かないのは、大所帯になりすぎるとクエストの流れが変わってしまう恐れがあるからだ。

 俺は一度このゲームをクリアしたという圧倒的なアドバンテージがある。それを最大限に活かすためには、なるべくゲームと同じ行動を取ったほうがいい。


 よって、次もまた仲間集めだ。

 目指すは亜人連合国レギオーン。その名の通り、亜人種たちによって構成された国家群である。

 獣人に魚人、竜人など様々な種族がひしめく国となる。


 位置関係としては、大陸の西側に人間たちの治める国、聖王国ミルガース。

 東側にはエルフたちの国、魔法国エルダールーン。

 そして北側に位置するのが連合国レギオーン。


 魔王城が存在する極北と隣接するだけあって、レギオーンは軍事大国だ。

 亜人たちは身体能力に優れた種族であるが、数が少ない上に種族間の対立が多く、元々は弱小国家の集まりだったという。

 それを纏め上げたのが竜人王ザハード・フォン・トゥガーリン。弱小国家たちは竜人の王家のもとに団結し、魔王の軍勢と戦いで急速に成長を遂げた。


 そしてザハードは魔王を封印した者の一人。故にトゥガーリン王家は今でも多くの亜人たちを統治している。

 ――というのがロベリアの語った内容である。

 彼女は語り部だ。ストーリーや設定については聞かなくても彼女が説明してくれる。

 

「レギオーンか……私も行ったことはないわ。噂を聞く限り、強力な魔物やダンジョンも多いのよね」

 

 と、ローザが顎に手を当てて言った。

 転移魔法は一度行った場所にしか使うことが出来ない。俺もロベリアも行ったことがないので、こうして馬車で向かうしかないわけだ。

 

「ヴィンデンさん、次はどなたを仲間に引き入れに行くのですか?」

「私も興味あるわね。わざわざレギオーンに向かうからには亜人の方なんでしょうけれど」

「ああ、まだ話していなかったか。いやまあ、あまり声を大にしては言えないのだが……」


 俺は少し言い淀んだ。相手が相手なだけに、どうしても躊躇してしまう。

 ゲームで仲間に出来るNPCであることを知っている俺だからこそ、こんなバカげたことを口に出来るのだろうから。


「――お目当てはプリムラ・フォン・トゥガーリン。トゥガーリン王家のお転婆お姫様だ」


 そう告げると、二人は驚愕してしばらく声も出せないようだった。

 ようやくフリーズから復帰したロベリアたちが慌てたように迫る。


「プリムラ姫を仲間にするって、そんなの無茶でしょヴィンデンさん! 何を考えてるんですか!?」

「……流石に私も驚いたわ。王家にツテでもあるの?」

「いや、ない。そういう反応になるだろうから伏せていた面もあるが……」


 まあ普通は無茶だと思うだろう。しかし、姫が仲間になるなどRPGでは王道中の王道だ。

 プリムラ姫は竜人種で、身の丈を超える大剣を使う竜騎士だ。その見た目と性格から、一部のマニアに凄まじい人気を誇る。

 彼女を選んだ理由は複数ある。


 プリムラ姫のサブイベントは『堕ちた竜人』と呼ばれる。

 そう、『黒魔女の献身』と並ぶ鬱展開を迎えるイベントだ。それも、かなり規模の大きなイベントとなる。

 プリムラ姫の父である現国王が病に倒れ、時期国王の座を巡っての骨肉の争いに巻き込まれる、というのが『堕ちた竜人』の内容だ。


 『堕ちた竜人』というだけあって、プリムラ姫もまた悲惨な結末を迎えてしまう。

 彼女は最終的に大罪人の判子を押され、国を追われることとなる。

 今回もまた、その結末を変える。だが、難易度は非常に高いものになるだろう。


 なにせ相手は国を治める竜人の王家だ。国家を巡る陰謀を食い止めるというのだから、ただ俺が強ければいいという問題ではない。

 しかしこのイベントの流れをも変え、バッドエンドを回避出来るのなら、よりこの世界の流れを変えられることだろう。

 最終目標はメインストーリーのラストを変えることだ。そのために、必要な手は全て打つ。


「ローザの時のように、プリムラ姫を救う。そして彼女を仲間にする。俺が今言えるのはそれだけだ」

「……まるで、見てきたように言うのね。ヴィンデン、あなたは一体……いえ、いいわ。あなたが言わないというのなら私も聞かない。私はあなたに従うだけ」


 ローザが己に誓うように言った。俺を信じてくれるのは、ミザリィのことがあったからだろう。

 ロベリアは俺がこの世界について詳しいことを既に知っている。しかし、お姫様を仲間にするというのはどうしても信じられない様子だった。


「お姫様なんて、そもそも私達のような者を相手にしてくれるんでしょうか。無礼を働いて縛り首とか、そういうことにならないといいですけど……」

「いやいや、彼女に限ってそんなことはない。というかむしろ、底抜けにお人好しというか、人間大好き竜人というか……」

「はぁ、優しい人なんですか? 私が心配してるのはヴィンデンさんが失礼をしないかという一点なんですけどね」


 信用されていないのは俺の態度だった。反論できない。

 

 と、御者のおっさんから声がかかった。エルダールーンに向かう時にも世話になったあの人だ。

 名前はマックスというらしい。

 くたびれた中年といった出で立ちだが、堀りの深い顔立ちはダンディズムを感じずにはいられない。


「お客さんがた、暗くなってきた頃だしそろそろ野宿にしようと思うんだがどうかね?」


 連合国までの道のりは長い。今日が野宿になるだろうことは既に話し合い済みだった。

 馬車の中で全員が寝れるスペースはないので仕方がない。馬車が停止し、俺達は箱型の荷台を降りた。

 街道の外れには整えられた場所があった。薪や火を起こした後があるところを見ると、ここでキャンプするのが常のようだ。


 ロベリアがアイテムポーチから魔法テントを取り出した。こんなこともあろうかと、アルドラシルでお使いを頼んでおいて良かった。

 魔法テントが独りでに展開。中は空間拡張の魔法がかけられており、見た目よりずっと広い。ビジネスホテルの一室くらいの面積はあるだろう。

 今ばかりはマジックアイテムの設定を作り込んでくれた、ゲームの開発スタッフを褒めちぎりたい。


 マックスは傭兵と交代で馬車とテントを見張ってくれるらしい。至れり尽くせりである。

 料理はローザが振る舞ってくれた。ミザリィ用の食事も自分で作っていたというだけあって、彼女の料理スキルは非常に高い。

 本日の献立はトマトとチーズのリゾット、ベーコンサラダにドライフルーツの盛り合わせ。


「お、美味しい……すっごく美味しいですローザさん! わ、私料理なんてほとんど出来ません……」

「そんなに落ち込むことないわよ。料理なんて魔法薬の調合と変わらないもの。私で良ければ、教えましょうか?」

「いいんですか? 是非お願いします!」


 ロベリアがちらりと俺を見た。どうやら料理が出来ないのを気にしているようだ。

 

「いや、それにしても美味いよローザ。君は良いお嫁さんになるな」

「よ、嫁……!? そ、そんなことないわよ。でも、あなたがそう言ってくれるなら……嬉しい」


 頬を赤らめるローザ。普段クールな彼女が恥じらいの表情を浮かべると、とてつもないインパクトがある。

 つまり可愛い。人気投票でいつも上位なのも頷けるというものだ。

 料理も食べ終わり、リラックスした空気になっていた。そろそろ寝る時間だろう。


 俺が魔法テントから退散しようとすると、ローザが外套の端を摘んで止めた。


「どこへ行くのヴィンデン。もしかして、一緒に寝てくれないのかしら?」

「……はい?」


 俺は思わず馬鹿みたいな声を出していた。

 ロベリアがすかさず異議を唱える。


「ちょっとぉローザさん!? いいい、いけませんそんな! 男女同衾なんで不純です不潔です! 神官の私がそんなこと絶対に許しません!」

「ふふ、冗談よ冗談。でも、魔法テントは使い捨てでしょう。節約することを考えたら、ここで一緒に泊まった方がいいんじゃないかしら」


 確かに節約を考えるならその通りではある。俺は別に魔法テントを使わずともいいのだが、そうすると彼女たちが遠慮してしまうだろう。

 だから、俺は一人で魔法テントを使うつもりでいたのだ。

 ローザは怪しい笑みを浮かべて囁く。


「どう、ヴィンデン。私、あなたと一緒のベッドでいいわよ」

「ああああああああああああ駄目です駄目です! ヴィンデンさんはただでさえ変態なんですから何されるか分かりませんよローザさん!」

「私は別に構わないわ」

「構って下さいよぉおおおおおおおおおおおおお!」


 悲痛な叫びを上げるロベリア。なんだか頭痛がしてきた。

 ローザはロベリアをからかっているだけだ。事実、自分で言っている癖にちょっと恥ずかしそうにしている。

 ここは男として、断固反撃しておくべきだろう。


「よし、じゃあ一緒に寝ようか」

「えっ」

「えっ」


 俺が外套を脱ぎ捨ていつもの格好になると、二人は顔を真っ赤にして顔を背けた。

 

「……ごめんなさい、やっぱり恥ずかしいわ」


 ローザが消え入りそうな声で言った。

 

「だったら初めから言わないで下さいよぉ!」


 まったくだ。ついでに言うと俺も大変恥ずかしい。

 そんなこんなで、騒がしい夜は更けていくのだった。

 

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