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勇者パーティを追放された最強縛りプレイヤー、素手と裸で世界を救う  作者: uru
第一章 旅立ち~魔法国エルダールーン編
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プロローグ 縛りプレイヤー追放される

「お前、クビな」


 いきなり発せられた言葉に、しかし俺は驚愕も動揺もしなかった。

 むしろ、ついにこの日が来たか、とも思う。納得はいかないが。


「何故だ?」

 

 俺は目前の勇者に問うた。絶対零度の視線がさらに冷ややかなものになる。

 本気で分からないのか、とでも言いたげだった。勇者は憤慨したように声を荒げる。


「お前、戦士だよな? なんでほぼ裸なんだ。伝説の鎧はどうした」

「捨てた。オワタ式こそ最高のスリルと緊張感をもたらしてくれる。防御なんて飾りだ、当たらなければどうということはない」


 俺は端的に答えた。勇者は絶句していた。

 彼の背後にいた女魔法使いが病気の人を見る目で聞く。


「あの、じゃあ雷神のハンマーは……?」

「捨てた。最強武器で無双なんて単調で飽きる。素手での闘争こそ究極の削り合いだ」


 今度は女魔法使いが顔を覆った。手遅れの患者を前にした医者のようだった。

 その横にいた女僧侶が半眼でこちらを見やる。呆れと諦観が混ざった絶妙な表情だ。


「……レベルマックスなのに、パラメータ振らないの?」

「最低ステータスクリアにこそ価値がある。レベルを上げて物理で殴れ、ではクソゲーだ」


 女僧侶が盛大なため息を吐いた。これ見よがしに。

 そして我が盟友たるパーティーメンバーの三人が、一斉に疑問符を口にした。


「「「なんで?」」」

「俺が、縛りプレイヤーだからだ」


 何を隠そう、俺はドMだ。

 別に縛りプレイヤー全員がマゾヒストだと言うつもりはない。が、困難や窮地を前にしてこそ奮い立つ人間も存在するのである。

 最高レベルで、最強装備で、強くてニューゲーム。俺はそれを楽しめる部類の人間ではないのだ。


 故にこそ、自分で縛る。アイテム使用禁止、装備は裸に素手、パラメータは割り振らず実質レベルは最低値。

 これだ。これこそ縛りプレイヤーたる俺を高ぶらせてくれる環境。自信の培った経験とスキルのみが物を言う、究極の舞台。


 しかし、どうやらその崇高な理念は理解されないらしい。おかしい、何故だ。

 別にパーティーメンバーにまで縛りプレイを強要したわけではない。他人のプレイスタイルにまで口出しするつもりはないからだ。


 だというのに、どうして俺がクビになる。理不尽だ。


「いやいやいや、なんで勇者パーティーに素手で半裸の男が混ざってるんだよおかしいだろ! せめて服着てくれよ!」

「む。それは出来ん。この世界では服にも防御値が設定されているからな。それに、戦闘が発生しないエリアでは着ているだろう」

「そういう問題じゃねえよ! 助けた村人からドン引きされるのはもう懲り懲りなんだよ!」


 勇者は半泣きだった。割と本気で。

 それに関しては申し訳なく思う。だから渋々戦闘外エリアでは服を着るようにしたのだ。


「その、物理の火力も足りなくなるし、武器も装備してくれたらなぁって……」


 女魔法使いが頬を掻きながら言う。


「勇者がいるから問題なかろう。戦士職はタンク寄りだ。ヘイト管理は怠っていないつもりだが?」


 実際、後衛職に危険が及ぶ場面はそうそうなかったはず。きっちり自分の仕事は行っていたのだ。

 しかし、女僧侶が首を横に振りつつ言った。


「もういいわ。何を言っても平行線みたいだし。この際だからはっきり言ってあげるわ。いい?」


 すう、と三人が息を吸う。それは皮肉にも、これまで戦ってきた中で最も完璧な連携だった。

 見事に、彼らの声は唱和する。


「「「縛りプレイならソロでやれ!」」」


 ……ごもっとも。


 こうして、俺は勇者パーティーから追放されることと相成った。

 いやあ、まあ仕方がない。縛りプレイという奴は、時に理解されないものなのだ。

 しかし俺は自分を曲げるつもりは毛頭ない。これを辞めたら、俺は俺でなくなってしまう。


 去り際、俺は手持ちの金を全て彼らに渡した。装備もアイテムも必要としない俺には不要だからだ。

 その時勇者が発した言葉は、ひどく軽蔑に満ちていた。


「お前、どうしてゲーム気分でいられるんだ? ここはもうゲームの世界じゃない、立派な現実なんだぞ。俺たちが最速で魔王を倒せば、それだけ犠牲になる人が減る。それなのにお前は……!」


 俺は、答えなかった。

 答えるべきではないと思ったから。

 当然分かっている。ここがVRMMORPG«インバーサス・オンライン»に酷似した異世界であることも。俺たちがこの世界に召喚され、魔王討伐の任を与えられたことも。


 全て理解した上で、縛りプレイを行うことを選んだのだから。

 俺は、独りになった。では、これで旅は終わりなのか。虚しく隠居を選ぶべきか。


 いいや、否である。いずれ来る戦いに備えねばならないし、勇者たちとも、必ずまた会うことになるだろう。

 勇者の言葉は正しい。世界を救いたいという彼の想いも、信条も、決意も、何一つ間違ってはいない。


 だが、それでは駄目なのだ。この«インバーサス・オンライン»では。

 この世界においては、正しいことが正解だとは限らないのだから。


 俺には――俺だからこそ、一つ断言出来ることがある。

 彼らに、この世界は救えない。


 故に、俺が追放されたのは必然だったのかもしれない。 

 ならば、さあ始めよう。世界を救う戦いを。

 

 ――俺の縛りプレイは、ここからだ。


 

 

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