~援交少女(仮)~
援交少女(仮)と呼ぶことにしよう。名前も分からず、お互いの素性も知らず、家に女の子を上げるなんてことになるとは思ってもいなかった。
人生、何が起こるかわからないものだな。と改めて思う。
「おじさん、お風呂借りていい?」
ドキっとしてしまったことは内緒だ。部屋に女の子がいると言う状況が久しぶりなのに、お風呂とか言われたらそりゃ想像しますよ。年甲斐もなくドキドキしても可笑しくない。
「いいよ。着替えとかある?」
「ない!」
まぁそりゃそうか。どうすべきか…。俺の着替え貸してやっても良いけど、若い子におっさんの下着を貸すのも微妙だな。下着は買いに行くか。
「了解。タオルは置いとくから使って。適当に下着コンビニで買ってきてやるから、あとは俺のジャージで我慢しといてくれよ」
「あいあいさ〜!ありがとね!おじさん」
なんだろう。少し楽しいと感じてる自分が居る。他人とこうして、会話をすることも楽しいのだが、家に女の子が居るという状況に少し浮かれてしまってる感じだ。
女の子の下着を買うという、ちょっとした羞恥プレイを感じつつ戻ってくるとなんともまぁ…魅力的なお姿で待っていらっしゃる。上だけジャージを着つつ、下は履いてないとか分かってるな。こいつ。
「ほら、買ってきてやったから着替えこい」
「早かったね。おじさん。ありがとうー」
目に毒だな。いや、毒ではないんだけども。眼福ということにしておこう。さて、援交少女(仮)はご飯食べたんだろうか。とりあえず、そろそろ質問タイムの時間だな。
「はい!とりあえず、こっち来て」
「ん?どしたの?」
軽いなーこの子。まぁ、とりあえず話し合いスタートだな。
「とりあえず、お家がないってのは家出したってことなのかな?」
「違うよー」
「別に話ししても良いから、怒らないし、親に電話もするつもりはないからな」
「親は…いるのかな?ごめん!わからないや!笑」
満面の笑み。おじさん泣いちゃいそう。親居るかも分からないのに笑顔になれるものなのか。施設から抜け出して…なんな色々と考えてしまうな。
「まぁ、親の話はわかった。それは置いておこう。とりあえず君のことは援交少女(仮)ということで、俺はなってるんだけど名前聞いてもいい?」
「援交とかしてないけどー。別にその名前で良いけどね。なんか不良っぽくてカッコ良い」
あかん。これあかんやつや。本当、言葉も軽いし、どうなってるんだろうか。不思議な子だ。
「流石に呼びにくいからね。名前教えてもらいたいんだよな。俺のも教えるからさ」
「交換条件だね。それならいいよ」
ちょっとイラっとした。ここは大人な対応をしないとな。大きく見せたがりたい年頃なんだろう。
「山口亮介だ。ほら、次援交少女(仮)の番な」
「吾輩は援交少女(仮)である。名前はまだない」
名前ないのに、そんな有名な小説の言葉を、引用するとか可笑しいから。ツッコミたいけど、ここは笑うとこなんだろうか。若い子の感性が俺には分からん。
「冗談はさておき、そろそろ教えてくれないか?」
「本当だよ。私には名前がないの。だからさ、おじさん名前つけてよ」
「まじ?」
「まじ」
まじかー。まじなのか。これは嘘なのか。本当なのか。言いたくないだけだとは思うけど、無理に聞き出して面倒なことになるのも嫌だからな。仕方ないか。
「分かった。じゃあ、俺が名前つけてやるよ」
「やったーーー!!なになに?どんなのつけてくれる?」
満面の笑み。あぁ可愛い。なんだろう。この無邪気な感じ。おじさんなのに若返りそうな勢いだ。
「そういえば、その髪の色って地毛なのか?綺麗な銀色の髪だけど」
「うん。そうだよ。地毛!!」
「うーん…そうだな。顔のパーツもハーフみたいな感じだからな。シルってのはどうだ?シルバーのシルで」
「安直ー」
批判。圧倒的、批判。確かに安直ではあるものの、身体的特徴以外で名前つけるとか。ほら、なんか恥ずかしいから。
「まぁ、シルでいいだろ。援交少女(仮)とか外では言えないからな」
「受け入れよう」
「いや、なんでまぁたまにそんな上からなの!?」
「カリカリしない。とりあえずなんかご飯ないー?お互いの名前も知ったんだからさ。おじさん」
「おじさんはやめてくれよ。俺はまだ三十路手前。29歳だ!」
「正直、29も30も同じだけどねー。りょうさん?りょーすけさん?りょーすけ?りょう?」
「そこは好きに呼んでくれ」
「じゃあ、りょうだねー」
こうしたやり取りを得て、手軽にカップラーメンを食べて…とうとう就寝。もしかしたら、もしかするかもしれない。
「りょう布団1組だけみたいだから、一緒ね」
「う、うん。そうだな」
「どうする?」
「…え?」
「またまたぁーとぼけちゃって!」
こんな美味しい出来事が起こるのか。否、断じて否。性欲だけ突き進むのは獣の所業。俺は理性ある大人として、援交少女(仮)改めて、シルと対等で居たい。ここで手を出してしまったら、何か違う気がする。据え膳食わぬは男の恥だけども、そんなの知らないよ。俺は俺が正しいと思ったことをしたい。
「まぁ、俺も男でシルは魅力ある女の子だ。したいと思わないわけではない。でも、ここで手を出すのはなんか違う気がする。だから、一緒に布団で寝ても俺は手を出さない」
「あはは、りょうはムッツリ紳士だね。でも、私はりょうがそう言うことは分かってたよ。安心はしたけどねー。私も女の子だからさ」
少し意味深い発言をしつつも安心してくれたようだ。とりあえず電気を消して就寝。背中にシルの体温を感じて、なんか落ち着いた気持ちで寝れそうだ。まだ会って数時間。起きたら、財布があるのか心配ではあるものの、この子はそんなことはないだろう。
たった数時間、でも今日はとても長く充実した1日だった気がする。