~戦いの準備~
正式採用されたおかげで、冒険者へとランクアップを果たした。実際のところは、今からが本当の冒険者ライフがスタートするということになる。思ったよりも気軽に、冒険者になることが出来るのだなと思いつつも、新たな冒険に心が躍っている自分がいる。
とりあえず、正式採用されたということもあり。今後の方針をシルと話会うことにした。
「冒険者になることが出来たわけだ。思ったよりも早く。生活基盤が整ってきたと、思った矢先だったからな。とりあえず今後どうするか話をしよう」
「イエッサー」
「冒険者になることが出来たおかげで、狩猟クエストなども受注することが出来るようになったわけだ。今の採取クエストなんかに比べてはるか高額な金額の収入を得ることが出来るようになった。そこで聞きたいんだけど、俺とシルって本当に戦うことが出来ると思うか?」
「うーん。難しいね。戦ったこともない段階じゃ、戦えるとは言えないなー」
うん。最もな意見だ。確かに俺とシルは戦ったという経験がない。むしろまだモンスターと出くわしてもいない。あの山の中で1泊したときに、出くわさなかった方が奇跡だと知ったのはつい先日だ。
あの辺りは強いモンスターが出るところらしく、駆け出しの冒険者などは近づくこともしないような場所らしい。そんな場所に俺とシルは放り出されたことになる。俺とシルの幸運に感謝だ。むしろ、無知であってよかった。もしも、あの山に強いモンスターが出ると知っていれば、まともに寝ることだって出来ずびくびく怯えていただろう。
「とりあえず、今後モンスターと戦うにあたってどういうポジションでやっていくのかを考えよう。俺はとりあえずオーソドックスに剣や盾とか買って前衛のポジションでやっていこうと思う」
「じゃあ、私は後衛かなぁー魔法とか使えると思うしー」
そう魔法だ。この世界には魔法がある。俺はまだ使えない。試しにファイアーと言葉に出したら、横にいたシルが大笑いしていた。そんなことで魔法が使えるわけがないとのこと。試しに使おうとするくらい良いだろうとは思うが、こっちと元居た世界を知っているシルにとってはただの馬鹿な行動だったのかもしれない。
「魔法だよ。俺魔法があるってのは知ってるけど、ほとんど魔法使ってる人見たことないんだよ」
「あーまぁねー。魔法ってこの世界にもあるのはあるけど、魔法使うことが出来る人は一握りだからー。すっごい重宝されるんだよー」
初耳だよ。そういう大切なことをどうして言わない。それよりもシルが魔法を使うことが出来るということは、この世界においても重宝されるということだろう。それじゃ魔法も使えない。ろくに戦うことが出来ない。採取でさえ、シルに勝てない俺という立場は一体…。
「なぁ、シルさんや」
「どうしたんだいリョウさんや」
「俺ってこの世界に本当に必要だった?シルのほうが圧倒的に活躍してるのを見せられてしまっている気がするのだけど」
「うん。私大活躍ーもっと褒めてくれてよいと思うの」
確かに褒めるよ。確かに凄い。でも、そんな凄いシルさんよりも活躍できるからこの世界に来たはずの俺の立場ってないよね。ただただ、シルのおこぼれを貰っているだけみたいで、なんとなく申し訳ない気持ちになってしまうんだよ。
「シルって今も普通に魔法って使うこと出来るのか?」
「ううん。使えない。覚えたら使うことできると思うー」
「覚えるって、レベルが上がったらとかか?」
「違うねー。魔法書を読むと覚えることが出来るんだぁー。だから、魔法を覚えたいなら魔法書を読まないとだねー」
「その魔法書って俺も読んだら覚えられる?」
「魔法適正があれば、魔法書を読んだら覚えられるはずだよー」
シルは知っていないようで、この世界のことを知っているな。間違いなく、俺よりは知っているのは確実だろう。とりあえず、シルが後衛で生きていくためには魔法書が必要だということが分かった。
「とりあえず、今日はその魔法書と俺とシルの装備を整えるか。今日1日はとりあえず、街で色々と買い物だな。久しぶりの休暇という感じだ。この1週間永遠と採取クエストを行ってきたおかげで、お金にも若干余裕がある。これできちんと身なりを整えよう」
「うん~りょうかい~!」
そして、再度ギルドへ行きシルの魔法適正を見てもらうことにした。ついでに俺も魔法適正を見てもらったのだが、判定結果が良く分からないとのこと。
魔法適正を行った際には、適正に属した色が表示されるとのこと。シルは、土・火・風・水の4属性が適正という診断結果が出たらしい。これは非常に珍しく、基本属性である全ての属性をシルは使いこなすことが可能だという。
まーた、ここでも置いてけぼりを食らったような気分だ。シルが主人公で、俺がわき役感が半端ない。
「シル。凄いんだな」
「まぁねー。でも、リョウも診断結果が出ないとかいうわけわからない感じですごいんじゃないかなぁー」
「わけわからなくても、何も使えないんじゃ意味ないからな」
とりあえず、魔法書を購入するために魔法屋さんに行くことにした。色々な魔法書が販売されていたが、とりあえずはお金にも余裕がないため初級の火・水の魔法書を購入。二つの魔法書を購入するだけで、金貨10枚もの値段がした。普通に高級宿に連泊することが可能なレベルだ。貯蓄の半分は、シルの魔法書で消えた。
そして攻撃よりも、防御からという俺の強い意志の元、お互いの装備を購入。一番安い革製のものしか購入することが出来ず、皮のローブを2着。皮の手袋を2つ購入。とりあえず、最低限の身を守るものだけしか購入できずじまいだった。
最後に、武器を購入なのだが手持ちがかなり寂しいことになってしまっている。武器の中で安く、機動性に優れている短剣を俺は選んだ。ロングソードなどに憧れてはいたものの、実際使うことが出来ないと判断した為、短剣を選ぶことにした。シルは魔法使いっぽいのが良いとのことなので、魔力が増強される効果がある杖を購入。
こうして、俺の手元にあったお金はほとんど綺麗さっぱりなくなってしまったのであった。これも先行投資。いずれ、この装備で費やしたお金が倍以上の金額になって返ってくると信じている。もちろん、シル様にはこれまで通り頑張って貰おう。
何せ今まで、シルのおかげでここまで生活を安定することが出来ているのだから。
「シル、明日から頑張ろうな」
「うん。シルちゃんに任せてよー魔法使いシル。なんか響き良くない?」
「うん。どこかのアニメとかで出てきそうだな」
「だよねー魔法少女シルちゃんでも良いかも」
明日からモンスターを退治する。命を奪うという行為を行うわけだ。今まで、動物さえ殺したこともない俺が出来るのだろうか。目の前で命を奪うということに対して、不安はあるものの生きていくためには頑張らなければいけない。
「とりあえず寝るか。明日に備えて」
「ほーい。リョウおやすみー」
「おい、一緒に寝るなって」
「まぁ良いじゃん。明日不安だしー一緒に寝たいー」
相変わらず、何かにつけては一緒に寝ようとしてくるシル。明日は俺も不安だからな。とりあえず今日は一緒に寝て、安からな夜を迎えようではないか。