高野と梶宮行動開始!
小笠原のミッションが終了して、マイクロバスが白金に向かうより30分ほど前、白三プロの声優研究所、研究科の高野と梶宮の二人は上森の指示に従って待機中のワゴン車を降り、三笠山公園に向かっていた。
背が高く痩せ気味だが精悍な雰囲気の高野は、少し髪の毛を金色っぽく染め、白っぽいダウンジャケットに身を包む。眼は悪くないのだが、一応変装の意味もこめてメガネをかけている。
一方、小柄な梶宮は、ちょっとフリルの入った薄いブルー系のワンピースにモコモコのオーバーを着ている。少し頼りなさ気に見える彼女の容姿、そしてそのロングヘヤーは、歩くたびに風に流れ、妖精のような雰囲気だ。
二人とも小笠原が使っていたのと同じようなイヤフォンを耳にかけている。ただ、彼らのイヤフォンは小笠原のものとは違い、白を基調にしたお洒落なデザインだ。
二人は公園に向かう途中、周囲に誰もいないのを確認すると独り言のように喋り出した。
「上森さんお疲れさまです。Bチーム、研究科の高野です、今日はよろしくお願いします」
「同じく研究科、梶宮です、よろしくお願いします」
イヤフォンからは白三プロ分室にいる上森からの声が聞こえてきた。
『はい、二人とも今日はよろしくね。それで今日の二人のお役目だけど、昨日ちょっと説明したみたいに小笠原さんがお金を渡す予定の自称 "権田原" という男の追跡です。お金は赤いバッグに入れて渡すんで、これを目標に追ってください。バッグを捨てて現金だけ持って行く事も考えられるので、追跡が大変になるかも知れませんけど、頑張ってくださいね』
「できれば、バッグを持ったまま移動して欲しいですねえ!」
高野の意見に上森も同意する。
『まったくです。で、ターゲットの移動方法は、まだ分かっていません。車か電車のどちらかを使うと思います。もし、ターゲットが駅方向から公園に入れば電車移動、それ以外なら車移動と考えています』
「わかりました。それで、私、Google Map で調べたんですけど、公園の真ん中に噴水があるみたいなんです。そこからだと、どの方向も見渡せそうなんで、私達、その噴水の縁に腰掛けて愛を語り合いながらターゲットの来る方向を確認しようと思ってます」
今度は梶宮はコロコロ転がるような声で言った。
『いいですね、それでお願いします。今、C/Dチームは駅前の喫茶店で待機していますが、ターゲットが駅方向以外から来るようであれば、両チームはその方向に移動してもらい、車でターゲットを追跡してもらいます。逆に電車の場合は、駅前までターゲットを追跡してから、C/Dチームにミッションを受け渡してください。二人の設定は軽い恋人同士が公園で楽しく話すって感じだけど、ネタは考えてもらえたかな?』
上森の質問に、高野が答えた。
「ええ、大丈夫です。去年のスーパーセンチュリー研究科公演でやったアキラとメグミの雰囲気で行ってみようと思ってます」
『ああ、ヤマケンさんが脚本書いた話だね。OK それじゃその設定で...』
『なるほど分かりました。もし周囲に人が来てしまったら、会話を止めてスマホのメッセンジャーで分室のセキュアサーバーのボードに書き込んで下さい。こちらでも常時チェックしてますから...』
「退屈した二人が黙り込んでスマホをいじる構図ですね」
梶宮の言葉に上森はちょっと苦笑しながら言った。
『そうですね、人前でスマホでラインとかやってても不自然じゃない時代ってのも不気味だけど、探偵には便利な世の中だね。一応試しに何か打ってもらえるかな?』
「はい、それじゃ...」
梶宮と高野はスマホに文字を入力すると、上森の目の前にあるサーバーマシンの画面には次々と文字が現れた。
テキスト送信者/高野:高野です。テストメッセージ、読めますか?
テキスト送信者/梶宮:梶宮です。私もテストテスト! いかがですか?
『はい、問題ありません。それでは、これでよろしく!』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
高野、梶宮の二人は急ぎ足で歩きながら、公園中央の噴水前に到着した。
「今、噴水の前まで来ました。30メートルくらい先のベンチに小笠原さんが座っているのが見えます。オシャレなおバアちゃんスタイルですね。今のところ、周りには誰もいないみたいです。とりあえず梶宮さんと座って恋人の会話を始めたいと思います」
高野がそう言うと上森は、
『分かりました。周囲に注意していて下さい。小笠原さんがターゲットと接触したら、その会話を高野君たちのモニターにも垂れ流すんで参考にしてください。気をつけて!』
と、言葉を切った。高野と梶宮はアキラとメグミになり切って会話を始めた。
「アキラ君と会って一年くらいだね。あの時も結構寒かったよね」
「そうそう。メグミちゃんったら公園の猫に話しかけちゃってさ! な〜んかドキ〜ンと感じるものがあったんだよ!」
「アキラ君も公園猫好きだよね」
「うん、前は家でも飼ってたんだけどさ、去年死んじゃったら家で飼うのが辛くなっちゃって... それで公園の猫さんを眺めて楽しむようになったんだ」
「分かる分かる、動物って喋れないだけに死んじゃうと『自分はこの子を精一杯可愛がってあげてたかな?』なんて自分で自分をさばいちゃったりして...」
「そうだよね。そういうペットロスの人って結構いるらしいし...」
二人がここまで会話するとモニターから上森の声が聞こえた。
『そろそろ指定の時刻になりますからモニターつなげます』
『高野と梶宮行動開始!』:
小笠原のミッションが終了して、マイクロバスが白金に向かうより30分ほど前、白三プロの声優研究所、研究科の高野と梶宮の二人は上森の指示に従って待機中のワゴン車を降り、三笠山公園に向かっていた。
背が高く痩せ気味だが精悍な雰囲気の高野は、少し髪の毛を金色っぽく染め、白っぽいダウンジャケットに身を包む。眼は悪くないのだが、一応変装の意味もこめてメガネをかけている。
一方、小柄な梶宮は、ちょっとフリルの入った薄いブルー系のワンピースにモコモコのオーバーを着ている。少し頼りなさ気に見える彼女の容姿、そしてそのロングヘヤーは、歩くたびに風に流れ、妖精のような雰囲気だ。
二人とも小笠原が使っていたのと同じようなイヤフォンを耳にかけている。ただ、彼らのイヤフォンは小笠原のものとは違い、白を基調にしたお洒落なデザインだ。
二人は公園に向かう途中、周囲に誰もいないのを確認すると独り言のように喋り出した。
「上森さんお疲れさまです。Bチーム、研究科の高野です、今日はよろしくお願いします」
「同じく研究科、梶宮です、よろしくお願いします」
イヤフォンからは白三プロ分室にいる上森からの声が聞こえてきた。
『はい、二人とも今日はよろしくね。それで今日の二人のお役目だけど、昨日ちょっと説明したみたいに小笠原さんがお金を渡す予定の自称 "権田原" という男の追跡です。お金は赤いバッグに入れて渡すんで、これを目標に追ってください。バッグを捨てて現金だけ持って行く事も考えられるので、追跡が大変になるかも知れませんけど、頑張ってくださいね』
「できれば、バッグを持ったまま移動して欲しいですねえ!」
高野の意見に上森も同意する。
『まったくです。で、ターゲットの移動方法は、まだ分かっていません。車か電車のどちらかを使うと思います。もし、ターゲットが駅方向から公園に入れば電車移動、それ以外なら車移動と考えています』
「わかりました。それで、私、Google Map で調べたんですけど、公園の真ん中に噴水があるみたいなんです。そこからだと、どの方向も見渡せそうなんで、私達、その噴水の縁に腰掛けて愛を語り合いながらターゲットの来る方向を確認しようと思ってます」
今度は梶宮はコロコロ転がるような声で言った。
『いいですね、それでお願いします。今、C/Dチームは駅前の喫茶店で待機していますが、ターゲットが駅方向以外から来るようであれば、両チームはその方向に移動してもらい、車でターゲットを追跡してもらいます。逆に電車の場合は、駅前までターゲットを追跡してから、C/Dチームにミッションを受け渡してください。二人の設定は軽い恋人同士が公園で楽しく話すって感じだけど、ネタは考えてもらえたかな?』
上森の質問に、高野が答えた。
「ええ、大丈夫です。去年のスーパーセンチュリー研究科公演でやったアキラとメグミの雰囲気で行ってみようと思ってます」
『ああ、ヤマケンさんが脚本書いた話だね。OK それじゃその設定で...』
『なるほど分かりました。もし周囲に人が来てしまったら、会話を止めてスマホのメッセンジャーで分室のセキュアサーバーのボードに書き込んで下さい。こちらでも常時チェックしてますから...』
「退屈した二人が黙り込んでスマホをいじる構図ですね」
梶宮の言葉に上森はちょっと苦笑しながら言った。
『そうですね、人前でスマホでラインとかやってても不自然じゃない時代ってのも不気味だけど、探偵には便利な世の中だね。一応試しに何か打ってもらえるかな?』
「はい、それじゃ...」
梶宮と高野はスマホに文字を入力すると、上森の目の前にあるサーバーマシンの画面には次々と文字が現れた。
テキスト送信者/高野:高野です。テストメッセージ、読めますか?
テキスト送信者/梶宮:梶宮です。私もテストテスト! いかがですか?
『はい、問題ありません。それでは、これでよろしく!』
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高野、梶宮の二人は急ぎ足で歩きながら、公園中央の噴水前に到着した。
「今、噴水の前まで来ました。30メートルくらい先のベンチに小笠原さんが座っているのが見えます。オシャレなおバアちゃんスタイルですね。今のところ、周りには誰もいないみたいです。とりあえず梶宮さんと座って恋人の会話を始めたいと思います」
高野がそう言うと上森は、
『分かりました。周囲に注意していて下さい。小笠原さんがターゲットと接触したら、その会話を高野君たちのモニターにも垂れ流すんで参考にしてください。気をつけて!』
と、言葉を切った。高野と梶宮はアキラとメグミになり切って会話を始めた。
「アキラ君と会って一年くらいだね。あの時も結構寒かったよね」
「そうそう。メグミちゃんったら公園の猫に話しかけちゃってさ! な〜んかドキ〜ンと感じるものがあったんだよ!」
「アキラ君も公園猫好きだよね」
「うん、前は家でも飼ってたんだけどさ、去年死んじゃったら家で飼うのが辛くなっちゃって... それで公園の猫さんを眺めて楽しむようになったんだ」
「分かる分かる、動物って喋れないだけに死んじゃうと『自分はこの子を精一杯可愛がってあげてたかな?』なんて自分で自分をさばいちゃったりして...」
「そうだよね。そういうペットロスの人って結構いるらしいし...」
二人がここまで会話するとモニターから上森の声が聞こえた。
『そろそろ指定の時刻になりますからモニターつなげます』