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こちら声優探偵団  作者: MikBug
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リコは芸能界好き〜!



 シェフがそう言いながら部屋を出て行くと、小野寺は指をきながら小さな声で微笑んだ。


「いゃ〜、浦上シェフは気に入ったお客さんが来ると、いつもコレをやるんですよ」


 しかしリコは目を輝かせながら堀井の方を見ている。


「なんか〜、結子さんてば女優さんなんですか〜?」


 リコの質問に堀井はちょっと戸惑った風を見せ、


「え? ええ、シェフは女優って言ってましたけれど、どちらかと言うと声優が多いんです」

「ええ〜? 凄い凄い〜! どんなのやってるんですか? アニメとか?」


 どうやら斯波の情報は正しかったらしい、リコの目の輝きが違う。


「そうですねえ、まだ新人ですから大した役はいただけないんですが、例えばテレビの『フェイタル・ファンタジー』とか『その先にあるもの*』とかに、ちょっとだけ出てるんですよ。本当は舞台女優志望なんですけど、いつの間にか声優さんにっていう人は結構多いんですよね。先日、皆さんとレストランで会った同級生のミマちゃんも同じ事務所で声優とか舞台の仕事とかをやったりしてるんですよ!」

「ウァ〜、どっちも見てるし〜! 私もそういうのやりたいんだけど、どうやったらいいのか分かんないんですよぉ」


(注:フェイタル・ファンタジー、その先にあるもの』:共に2018年秋アニメ。フェイタルはゲームメーカー『トライアングル』の人気 RPG シリーズのアニメ化で、すでに3期目に入る好調作。その先に〜は、ほのぼのとした日常アニメとしてスタートしたと思っていたが、いつの間にかイジメ問題は出てくるわ、家族は崩壊するわ、異次元の扉は開くわで、今後目が離せません!)


 リコは少し言葉使いが、まともになって来た。

 小野寺が興味深そうなフリをして答える。


「ほぅ〜、リコさんは、そう言った方面に興味をお持ちですか? 結子が劇団に入ると言い出した時は、反対したんですがね、幸い私の懇意こんいにしている方が声優さんの事務所や学校を経営しているので、そこに通わせるようにした所、今のようなお役をいただいたんですよ」

「そうなんですよ。お父様の知り合いの方が色々と面倒を見てくださって... そうでなければ、なかなかアニメの声優なんて成るのは難しいでしょうしね」


 堀井が控え目に言うと、シゲルが身を乗り出しながら言った。


「リコ、いいじゃんか! お前も三枝さんに頼んで事務所に入れてもらえや」

「えぇ〜? 私なんかで大丈夫なのかなあ?」

「リコさん大丈夫っすよ。リコさん可愛いじゃないっすか!」


 ショウの応援に謙遜けんそんするリコに小野寺は明るい声で答えた。


「ああ、大丈夫ですよ。後ほど私が事務所の方へ紹介して差し上げましょう。それにしても今日は、お互いに色々なつながりが出来る日ですねえ!」

「よろしくお願いします」


 リコが軽く会釈えしゃくするとシゲルは、


「そいで、リコだけじゃなくてオレらも、さっきのビジネスの方をなんか考えたいんすけど...」


 と、どうやら小野寺の話に乗り気のようだ。


『シゲルは乗って来たようですね。小野寺さん押し過ぎないように興味を持たせてみましょうか。ターゲットを煙に巻く言葉を選んでお願いします』


 上森の指示に小野寺は微笑みながら、


「そうですね。弊社の業務に興味がおありでしたら、明日にでもドキュメントをお送りしますから、それをご覧になってご検討ください。ちょうど先日から新しいセキュア・ディヴァイスのロケーション・テストを始めた所でして、関連業界の方々にも注目をいただいているんですよ!」

「ハァ〜、セキュアのロケーションねぇ...」


 例によって生返事のシゲルに酔っ払って呂律ろれつの回らないショウが小声でささやいた。


「アノ〜、先輩... 大丈夫なんすか? なんか色々話し進んじゃってますけど〜...」

「バカヤロ、お前らはオレに任しときゃいいんだよ。今までだってそれで上手く行ってただろうが!」


 シゲルにビシッと言われるとショウは、


「え、え〜と... ウス...」


 と、答えると黙り込んでしまった。


『シゲル俺様>ショウ下僕。微妙な力関係ですね。使えそうです、もう少しネタを振って様子を見てみましょうか...』


 上森の指示を受け、小野寺は笑いながら言った。


「ハハハ、ご心配なさらずに。今回の弊社最新ディヴァイスへの一般投資は一口80万円と大変低価格に設定していますからね。今までの大口投資とは一線を画し、一般の主婦の方々にも興味を持っていただけるよう、ローリスクなスタンスでプロモーション展開してみてはどうか? とアドヴァタイジング・エージェンシーさん*とも話し合っている所なんですよ。ですから皆さんにも心配せずに気軽に出資していただけるというわけなんです!」


(注:アドヴァタイジング・エージェンシー:広告代理店のこと。日本語で言えっての!こういう言葉使う人、時々いて、できればあまり関わり合いになりたくない。このパターンの人がセットで使う言葉で『逆に言うと...』ってのがある)


 小野寺の強引な英語混じりの説明に、シゲルは知ったかぶりに答えた。


「ふ、ふ〜む、確かにローリスクで良さそうっすね。80万円でアドヴァタイジングだし...」

「なんかホント大丈夫なのかなぁ〜...」


 ショウが心配そうに独り言を言ったが、シゲルは聞こえないフリをしているようだ。

 小野寺はたたみ掛けるように言った。


「分かります分かります。こう言った金銭に絡む事は心配なさる方も多いのが現状です。そこで、弊社のプロモーションでは投資家の方への信頼を担保するため最新ディヴァイスを無償で保有していただく事にしています。プロパープライスの20%で出していますから、コントラクトがエスタブリッシュした後には、それを hamazon などを通じて売っていただいても投資額の5倍の儲けが出る計算になります。このプランでしたら、一般の方にも安心して投資していただけるのではないか? と考えております」


(注:プロパープライス、コントラクト、エスタブリッシュ:プロパープライス=定価、コントラクト=契約、エスタブリッシュ=成立。英語圏で育った日本人と話していると割と頻繁に出る言い回し。困ったもんだ...)


「ローリス...プロパープラ...エージェンシー...5倍の儲け... ビジネスとしても、いいっすね」


 シゲルは酔っ払って座った目をしながら独り言のように、つぶやいていた。まあ、多分5倍の儲けしか理解できていないんだろうが...


「さらに皆さんのようにトラスト・リレーションシップ*を築ける方々には、弊社のストラテジック・パートナーシップ・プログラム*にも参画していただき、会社運営にも大いに関わっていただく事が可能になっています」


(注:トラスト・リレーションシップ、ストラテジック・パートナーシップ:トラスト〜=信頼関係、ストラテジック〜=戦略的な提携、みたいな? ああ、面倒くさい!)


 ほとんどよく分からない日本語だ。怪しいテクノロジー解説サイトを読まされた一般人のように、シゲルは、ほぼトランス状態に入ったように見える。上森が言った。


『小野寺さん。情報のインプットは、この辺で大丈夫じゃないでしょうか? この話題はそろそろ切り上げましょうか』


「まあまあ、しかし明日にはこちらの資料も届くようにしますから、是非ご覧になってご検討ください。リコさん、なんだかビジネスの話ばかりして申し訳ありません。ささ、話し込んでばかりいないで食事を楽しみましょう!」


 小野寺は、そう言いながら自分も次の料理を食べるのだった。


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