カイジ君の恋心、玉砕...
「カ、カイジさん、じゃ、た、た、試しにですね『2・5・6・4』は?」
「『2・5・6・4・開』ダメっす!」
「じゃ『3・8・1・1』!」
「『3・8・1・1・開』ダメっす!」
「じゃ『3・7・6・4』!」
「『3・7・6・4・開』あ、開いた〜!」
ドアは微かなモーター音と共にゆっくりと開いた。まだ半分くらいしか開いていないが、二人は大慌てで飛び込むと、正面に見えるエレベーター脇にある階段を駆け上り、1階と2階の間にある踊り場に身を隠すと、息を潜めた。
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静まり返ったマンションの中...
10秒ほどするとドアの開く音が聞こえ、シゲルとリコが談笑しながら歩いて来る音がした。
足音はエレベーター前で止まる。
ドアの開閉音の後、鈍いモーター音が数秒聞こえると、あたりは再び静けさを取り戻した。
「フ〜〜...」
カイジと氷室は大きな溜息をつくと、その場で階段に腰を下ろした。
緊張でガチガチに固まっていた身体中の筋肉組織が一気に緩んで力が抜けて行く気がする...
「上森さん、カイジです。マンションの階段に隠れて、シゲルとリコをやり過ごしました。大丈夫です」
カイジの報告に上森もホッとした声で、
『フ〜、それは良かった。ご苦労様でした。それでは、この後車で移動してください。お疲れさまでした』
「氷室です。ご迷惑おかけしました。これで安心です。緊張しちゃったんで、ほんのちょっと休んだら車に移動します」
『ヒロです。お疲れ! じゃ、車で待ってるからな。連絡終了!』
それを聞くと二人は安堵の表情でちょっと見つめあった。
氷室は、
「ア〜、ホントに良かった。私がマンションの方に行っちゃったから、こんな事になっちゃって、カイジ君ホントごめんね! ちょっと休憩...」
そう言いながら、体をクタッとカイジの方にもたれかけた。
カイジは思わず、
”こ、コレはイケルかも!?"
そう思って、左手を氷室の肩にかけようかどうしようか悩みながら聞いた。
「でも、凄かったっす。氷室さんなんであの時、暗証番号が分かったんすか?」
氷室は思い出したように語り始めた。
「え? ああ、あれね。ほら、ファミレスで帰り際にリコちゃんと私が盛り上がって話してたでしょ? あの時、リコちゃんがキーホルダー見せてくれたの」
「へ〜、キーホルダーを?」
カイジの左手は後30センチほどで氷室の肩にかかりそうだ。
「そうそう。さっき上森さんがドアの暗証番号が自分で設定できるかもって言ったでしょ?」
「ああ、そうっすねぇ」
「でも、自分で設定した暗証番号って忘れちゃったら困るから、大概好きな趣味に関する数字とかペットの名前を数字に置き換えたりとかに、するんじゃないかって思ったの。例えばコミックスを読むのが趣味なら539とか、ペットがミーシャって名前なら348とか...」
「ヘェ〜、氷室さん凄い推理力っす! カッコイイっす!」
”イ・ケ・ル!”
カイジは思わず氷室の洞察力に尊敬の念を抱きつつ、かなり本気になって肩に手を近づけた。
「そうそう。でね、リコちゃんが見せてくれたキーホルダーって、寄生虫館の記念グッズだったのね」
「き、寄生虫...っすか?」
カイジは左手を止めた。
「うん。寄生虫って言えば、やっぱりフタゴムシかミヤイリ貝かサナダ虫じゃない?」
「そうなんすか? 自分、寄生虫詳しくないんで...」
カイジは左手を少し下ろした。
「そうか、そう言ってたよね。でね、フタゴムシだったら、フ=2、ゴ=5、ムシ=64かと思ったのね。ミヤイリ貝だと、ミ=3、ヤ=8、イ=1、カイ=1ね」
「するとサナダ虫だから、サ=3、ナ=7、ムシ=64ってわけっすか?」
カイジは左手をコンクリートの床に下ろしながら聞いた。
「そうなの! やっぱり日本人はサナダ虫だな〜って! お尻の穴からピョロピョロ〜ってね! 今度リコちゃんと寄生虫館に行ってみたいなあ〜! あ、カイジ君も来る?」
「い、イヤ、自分はいいっす...」
「そっか〜、残念。布教失敗だね〜! サナダちゃん可愛いのに〜!」
氷室は屈託のない笑顔で言った。
”やっぱ、氷室さんは俺的には無理っす”
カイジの恋心はあえなく玉砕したのであった。




