挟まれた二人!
「ヒロです。今、店を出て目黒通りから車に向かってます」
『お疲れ様でした。それでは氷室さんと合流して車で移動してください』
ヒロ&カイジが連絡を取りながら歩いていると、前方に、車へと向かう氷室が目に入った。氷室も気配を察して後ろを振り向くと、軽く笑顔を見せる。
「フゥ〜、これで今日のミッション終了」
ヒロがボソッと言うとカイジも、
「ウス、最後にちょっと顔を見られたけど、なんとか...」
氷室に追いついた二人は、
「お疲れ様でした」
と言いながら、かけ子シゲルのアジトであるマンションを見つめ、
「こんな普通のマンションが犯罪の拠点になったりもするんっすねえ」
と言った。
「へ〜、あの奥のマンションのどこかから、詐欺の電話をかけてるんですね! 犯罪なんて手軽にできちゃうもんなんですねえ」
氷室はそう言いながら、興味深そうにメゾン・グランドエンペラー目黒へ入る薄暗い路地に足を踏み入れた。
「氷室さんヤバいっすよ。ターゲットが戻ってくるかもしれないし...」
「そうですね。折角誘い出しに成功したんだから、気をつけなきゃネ! エヘ!」
カイジの言葉に氷室は小首を傾げながらペロッと舌を出した。
"ウ、カワイイかも... 寄生虫ヤだけど..."
カイジはちょっと心ときめいてしまった。
その時ヒロが、
「ヤバ! ターゲットがこっちに来てるぞ!」
と慌てて、しかし小声で言いながら車内に飛び込んだ。
それを聞いたカイジと氷室は一瞬戸惑い、マンションの方に駆け出してしまった。
カイジは駆け出しながら言った。
「ヒ、氷室さん、ここ袋小路っす。隠れるとこないっすよ!」
カイジの言葉に、
「そうか、じゃ急いで車に戻りましょう!」
氷室は立ち止まって向きを変えながら言ったが、イヤフォンからは、
『ダメだ、今道を戻ったら角でターゲットとハチ合わせるぞ! その先のマンションに隠れるとこないか?』
と言うヒロの無情の声が聞こえた。
カイジと氷室は再びマンションの方に向きを変え、一目散に走り出した。
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数秒でマンションのエントランスにたどり着いた二人。
「これってオートロックですよ! 入れません。どこかに隠れないと二人一緒の所を見られたら...」
氷室が慌てて左右を見る。カイジは左手のドアを見つけ、
「ここ、ここ。この自転車置き場に隠れれば...」
とドアノブを回したが鍵がかかっていて開かない。
今度は氷室が右手にあるドアに行き、
「こっち、ゴミ置場みたいです。ここに隠れましょう!」
と、ドアノブを回したが、こちらも鍵がかかっていて開かない。
「まあ、なんてセキュリティのしっかりしたマンションですこと!」
「氷室さん! そんな呑気な事言って場合じゃないっす。あ、じゃ、こ、この宅配ボックスはどうっすか? こん中に体縮めて入るとか?」
「無理〜! サーカスじゃないんだから!」
「あ〜、もう〜、このオートロックのドア、暗証番号さえわかれば...」
そういう二人のイヤフォンにはヒロから、
『間もなくシゲルとリコが、角に差し掛かるぞ。とにかくどっかに隠れろ!』
と叫びのような声が聞こえた。
「か、隠れろったって... ドアはオートロックで開けられないし〜!!! じゃ、宅配ボックスに片足だけでも入れるとかどうっすかね?」
「ダ〜メ〜で〜す〜!」
ドアの暗証番号キーの前で錯乱するカイジのイヤフォンに、上森からの指示が飛んだ。
『ドアの暗証番号は、非常用にわりと解りやすい番号が設定されてる事があるんですよ。例えば1−2−3−4−開とか、1−1−1−1−開とか、0−0−0−0−開とか試してもらえますか?』
「『1・2・3・4・開』ダメだ。じゃ『1・1・1・1・開』ダメ! 『0・0・0・0・開』こ、これもダメっす。じゃあ『1・0・2・5・開』」
「なんですか、その番号?」
「俺の誕生日っす!」
「も〜、そんなのダメでしょ〜! 上森さん、こっちに緊急用のボタンっぽいのがありますけど、これどうですか?」
『それは恐らく救急車とかが来た時用の非常ボタンなんですが、ドアが開く代わりに非常ベルが鳴ったり、場合によっては管理会社に通報が行きますからダメです』
『ターゲットは、もう角を曲がるとこだぞ! なんとかしろ!』
ヒロからの非情の声...
「な、なんとかったって『5・1・9・3・開』、『3・7・6・0・開』、『4・2・6・8・開』ってメチャクチャ打ったって当たるわけねぇよなあ〜!」
氷室はスマホで暗証番号の機械を写しながら、
「上森さん、これがパネルなんですけど、何か思いつく事ありますか?」
『う〜ん、このタイプは各戸の部屋番号の他に、住人が自分でも暗証番号を設定できるタイプの物かも知れません』
「んな事言っても〜!」
『ターゲットは角を曲がったぞ!』




