演技開始!
『それじゃ氷室さんターゲット接触お願いします』
テキスト送信者/氷室:氷室、いきます!
氷室はゆっくりと席を立つと、権田原改めアキヒコ達の席に向かった。
彼らの席の横を通過しながら、
「アレ? あの〜... もしかしてさっき私の友達を助けてくれた人じゃないですか??? ほら、酔っ払いに絡まれてた...」
氷室がビックリしたように目をクリクリさせながら言うと、アキヒコも思い出したように言った。
「あぁ〜、さっきの女の子のダチだよね?」
「やっぱり! そうですそうです! こんな所で会うなんて奇遇ですねえ〜!」
シゲルが小声で、
「おい、誰だよ? ゲロマブでね? 紹介しれ、紹介!」
「あ、先輩、この人はっすね...」
ネズミ男改めショウが先ほどの顛末を話すと、氷室は嬉しそうに言った。
「あ、どうも... さっきの事をユッコがお父さんに電話で伝えたら『是非お礼がしたいが、名前とか分からないのか?』って言ってましたよ。ちょっと待って下さいね、せっかくだからユッコパパに連絡してみます」
氷室はそういうとスマホを操作した。
「あ、ユッコパパですか? ミマです。さっきは電話でどうも。実はですね、今すごい偶然なんですけど、さっきユッコを助けてくれた人に会っちゃったんですよ! そうそう、目黒のファミレスで... ええ、ええ、あ、そうですか? じゃちょっと電話代わりますね!」
氷室はそういうと小声で、
「さっきのユッコのお父さんで三枝祐一さんです」
と、強引にスマホをアキヒコに手渡した。アキヒコは少し戸惑ったが、
「え、あ、ハイ...ハイ、そうっす」
と何やら対応している。電話の声の主は分室に待機していた小野寺なのだが...
「ウィッス、そうすか? え〜と、4人、いいんすか? そりゃすげーっすけど。分かりゃした、それじゃ明後日の夜7時に...」
アキヒコは何やら話しを決めたようでニヤニヤしながら氷室にスマホを返した。
「なんだよ、アキヒコ言ってみそ?」
シゲルが急かすと、
「俺らスゲ〜ついてる的な? 今よ、このミマちゃんの携帯で話してたのが、さっき俺らが助けた女の子の親父さんなんだけどよ。明後日、お礼にフランス料理おごってくれるってよ。リコも入れて『4人でおいで下さい』だと!」
「ウォ、すっげじゃん! おフランス料理ってなんだよ? 何食わしてくれんの?」
「ああ、ユッコのお父さんが良く使ってる青山のレストラン『1934』でしょ? 一軒家みたいな建物なんですよ。じゃあ、フルコースですよ! 正装してかないと。いいですねえ〜!」
氷室がそう言うと、
「清掃? ちゃんと風呂入って来いってか?」
「アキヒコ、オメぇバカ? ちゃんとしたカッコして来いって事だろがよ」
シゲルが同意を求めるような目で氷室を見た。
「そうですね。まあ一応ネクタイ締めてった方が良いかもしれないですよね」
「ええ〜? メシ食うだけなのにネクタイしなきゃいけないんすか? ってかオレ、ネクタイなんて持ってねっすよ... 先輩は?」
「オ、オレだって持ってねえよ。なんだじゃ買いに行くか? 俺ら金持ちだしよ」
「そうっすね。青山でメシなら、やっぱ洋服の青山でネクタイ買ってくのがいいんでねっすか?」
「ヘヘン、オメーらダセーな。オレは今日も背広とネクタイ姿だったんだぜ!」
「そりゃオメーの役が受け...」
「ウケ?」
リコが聞くとシゲルは咳き込むフリをして、
「い、いや、こっちの話。ウケっつたらボーイズラブだろ... と、とにかくだな、明後日は正装を買ってから青山でおフランス料理を食うざます!」
「あたしもアメリカのご飯なんて初めてだし〜!」
「リコさん、ちゃいます。フランスったらヨーロッパ... っすよね???」
今度はショウが同意を求めるような目で氷室を見る。
「そうですね。まあでもカジュアルな店だから、そんなに気にし過ぎないでいいんじゃないですか?」
「火事がある? ってなんなんすか?」
「バ、オメー、カジュアルだろ」
「で、カジュアルってなんだよ?」
「ウルセェウルセェ、カジュアルっつたらカジュアルなんだバカヤロ」
「おう、それな。カジュアル」
テキスト送信者/ヒロ:頭悪くなって吐きそうです
テキスト送信者/カイジ:品性下劣っす
『明後日の誘い出しも成功しましたし、氷室さんにもそろそろ撤収してもらいましょう』
上森はそう言ったが、ターゲット達は氷室と盛り上がっているようだ。
「え〜! ミマさんもこういうの好き〜〜? 」
「うん、好き好き! 可愛いよねえ」
「ミマちゃん、こいつと趣味あうの? やめてくれよなあ、気持ち悪ぃじゃん!」
「そんな事ないですよ。ニュルニュル〜ってしてて可愛いですよ。リコちゃんの持ってるキーホルダーとか私も好き!」
「ほら〜! 聞きなよアキヒコ〜! 好きな人いんじゃん〜!」
「だってオメエ寄生虫だろ? オレは無理!」
「そんな事ないし〜〜! お尻からピョロピョロ出てたら可愛いし〜!」
向こうのテーブルから聞こえて来る会話を聞いて、カイジは顔をしかめた。
「また、その話っすか。なんか今日は祟られてるっすね」
そう言いながら頭を抱えたカイジは、うっかりテーブル脇に置かれているナイフやフォークの入ったプラスチックトレイを押して、通路に落としてしまった。
"ガシャガシャン!" 大きな音に店内の人の目がカイジ達に注がれる。慌てて散乱した食器を拾おうとするカイジに駆け寄ってきた店員が、
「お客様、お怪我はございませんか? あ、大丈夫です、食器類は私どもで拾いますから...」
と、通路の掃除を始めた。
「ウス、申し訳ないっす...」
下を向いていたカイジは、そう小声で言いながら、上目使いでターゲットの方を見ると、運悪くアキヒコ達と目が合ってしまった。
テキスト送信者/ヒロ:少々トラブル。カイジがターゲットに顔を見られました
『今の音は聞きました。まあ、Cチームがターゲットに接触する機会はありませんから、大丈夫でしょう。平静を装ってその場を離れてください』
テキスト送信者/カイジ:申し訳ないっす、では店を出るっす
二人が店を出る準備をしていると、ターゲット達の席から声が聞こえて来た。
「それじゃ明後日は美味しいもの食べて来て下さいね! ユッコのパパは『フィジカル・ロック・ソリューションズ』って会社の役員をやっててお金持ちだし!」
氷室はそう言うと席を立ち、ゴソゴソやっているヒロ&カイジ達の横を通り抜けると、一足先に店を出た。
氷室が会計を終わるのを見計らってヒロ&カイジもレジを済ませ、落ち合い先の車に急いだ。




