証拠隠滅!
「ウス、カイジっす。ターゲットは現在電車通りを南西に移動。再び駅に行くようっす」
『了解、そのまま追跡続行をお願いします』
Cチームのヒロ&カイジによる追跡は続いていた。相変わらず人通りの少ないローカルな駅前まで来ると、権田原は抱えていた赤いバッグを、コンビニのゴミ箱に強引に押し込んだ。
「ヒロです。権田原が赤いバッグを駅前コンビニ『スリーセブン』のゴミ箱に捨てました」
『証拠隠滅かな? Cチームで回収可能ですか?』
「小さい投入口に押し込んだので、すぐに回収するのは無理かもしれないっす」
『なるほど、了解です。それでは後で堀井さんに回収してもらいましょう』
「ウス、現金が入ってるわけないっすよね?」
『恐らく、別の持ち物に移しているでしょう。ネズミ男が茶色いバッグをタスキがけしていると言ってましたが、それが怪しいですね』
「確かに。ネズミ男は茶色いバッグを手で守るようにして歩いてますね」
『フム、やはり。とにかく追跡を続けてください』
ヒロ&カイジの二人はターゲットを追って駅改札に入って行く...
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『堀井さん、ちょっと手伝ってもらえますか? こちらの位置情報ではまだ先ほどの場所の近くにいますよね?』
ディスプレイで堀井の現在位置を確認しながら上森が言うと、堀井はすぐに答えてきた。
「ハイ、大丈夫です。何かありますか?」
『ええ、ターゲットの一人、権田原が赤いバッグを駅前コンビニの『スリーセブン』店頭のゴミ箱に捨てたようなんです。恐らく証拠隠滅と思いますんで、コンビニに行って回収してもらえますか? 指紋も残っているでしょうしね』
「分かりました。ちょっと演技して入手してみます」
堀井は急いでコンビニ前まで行くと、ゴミ箱の穴を軽く覗いて見た。確かに赤いバッグが見える。自分でゴミ箱の蓋を開けて取るというのは、ちょっと不自然なシチュエーション...
やはり、何らかの工夫が必要そうだ。
彼女は軽く深呼吸をすると突然困った顔になり、自信なさげにコンビニに入るとカウンターの店員に言った。
「あの、あのあの、私のバッグ... 友達がイタズラして、そこのゴミ箱に捨てちゃったみたいなんですけど... すみません、フタを開けて出してもらえないでしょうか? クスン...」
堀井の少し涙ぐんだ演技にコンビニ店員は驚いて聞いた。
「え、いいけど、大丈夫? 何かイジメられたとかじゃないのかい?」
堀井はオズオズと、
「い、いえ、そんな... そんな事ないです。仲良しの友達のイタズラなんです。ホント... 気にしないでください」
「そうかい? 君がいいなら、それでいいけど... ちょっと待ってね」
店員はそう言いながら外に出ると、ゴミ箱を開けて赤いバッグを取り出し、堀井に渡した。
「はい、これ。本当に大丈夫?」
「え、ええ。ありがとうございます。一応お母さんには話してみます...」
その言葉に店員は少しホッとしたように言った。
「そうだね。それがいいよ、気をつけてね」
「はい、本当にありがとうございました」
堀井は軽く頭を下げると、トボトボと店を後にして、先ほどの路地に入った。
コンビニから見えない場所まで来た堀井は突然シャンとしたかと思うと言った。
「上森さん、赤いバッグ確保しました。私、手袋をしてるんで、指紋は今のコンビニ店員さんと権田原の物がメインで付いていると思います。中身はカラですね」
『OK、ご苦労様。やはり現金はネズミ男のバッグかな? ところで、中々良い演技でしたよ』
「ありがとうございます、でもちょっと良心の呵責を感じちゃいます」
『う〜ん、まあ仕方ないね。犯人を捕まえられれば社会のためになるんだしね』
堀井は、上森の言葉に元気を取り戻し、
「そうですよね。詐欺を告発できると良いですよね。ヒロさんとカイジさんには追跡を頑張ってもらわなきゃ!」
『うん、大丈夫、今二人は電車に乗った権田原とネズミ男を追跡中です』
「そうですか。それは良いですね。では私は離脱します。バッグはこの後、研究科の受付に預けるのでいいですか?」
『はい、堀井さんは夜、研究科でボイトレですね』
「そうです。今日は来季アニメ OP の歌 Get 目指してボイトレ頑張ります!」
『分かりました。バッグはスタッフに回収させるようにします。歌の方も頑張ってください、それでは』
「はい、また何かあったら声をかけてくださいね」
堀井はそう言うと、赤いバッグを大事そうに脇に抱えながら駅に向かった。
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堀井がバッグを回収している頃、ヒロ&カイジのCチームは追跡を続行し、JR の目黒駅を下車していた。
「ヒロです。ターゲットは目黒で下車しました」
『やはり! すると、昨日のかけ子のいる目黒通りに行くんでしょうね』
「ウス、ターゲットは、今改札を出て目黒通りに出ました。左の下り車線側の歩道を大鳥神社方向に歩いてるっす」
『了解です。こちらの予想が正しければ、大鳥神社の先の裏通りに辺りにあるマンションが、かけ子のアジトと思われますんで、注意していてください』
「分かりました。追跡を続けます」




