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第2稿

すっかり忘れてました。投稿すること

「全く減った気がしないんだけどそれについてコメントがある人は居る?」

「刻臣君の言う通りだと思いますよ。宿題や洗い物と違って見て分からないので達成感がゼロです」


 刻臣一行は元々結界の外縁部付近で凌子による指導を受けていた。実践で試してみようという段階に入り、外縁部に到着して戦闘を開始したのは良かったのだが群がっている数が多すぎて自分たちが何をしているのか分からない状態に陥っていた。


 少し時間を戻して外縁部到達時にも多少の混乱はあったが今ほどのものではなかった。便宜上魔族としてカテゴリーされた敵は実際の大きさの三倍から五倍程度にサイズが拡張されるという話はきちんと新人退魔師の二人は聞いていた。外見の変化はそれだけではなく、悪意が暴走状態で凶悪化していく途上で外見もそれに相応しくなるという話も聞いている。刻臣のイメージではここは異世界扱いでファンタジーの定番の最初の敵とされるゴブリンやスライムなんかをイメージしていた。


「ミノタウロスじゃん!」


 牛が体長八メートルクラスのミノタウロスになっているのでかなりのショックを受けた。中盤以降の定番のモンスターと認識していたので最初から見る事になるとは思っていなかった。

 食肉関係で言うと牛はミノタウロスに、豚は三メートルのオーク、にわ鳥は外見的な変化が乏しく大きさが二メートルに肥大している程度だが口から炎を吐いている。

 愛玩動物として親しまれている犬と猫はコボルトといって良いんだろうか? 犬と猫の顔を持っている人間の様な姿をしていた。サイズもバリエーションが豊富で一メートルから四メートル超えまで様々だ。ベースになっているのがチワワやシベリアンハスキーならサイズにもばらつきが出るのは当然だが、異常なまで剥き出しにされた攻撃本能を持ったチワワを見ると感慨深いものがある。

 競走馬などもミノタウロスの亜種の様な感じに変化しており、中にはよりいっそう毛深い種類もいた。ばんえい競馬の馬なんだろうと予測が付くが毛深さよりも大きさが目に付いた。

 様々な種類の人間の犠牲になった生き物がクリーチャーに変貌を遂げているのを見ると何とも言えなくなるが、揃いも揃って巨大化して殺意を向けてくると芽生えかけていた善意の心も払拭される。なにより刻臣もフランもそういった感情に疎い。後日聞かされた話では見た目で戦意を喪失する退魔師もいるそうなので二人は最初の試験を合格したとも言えた。生まれ持った感情の起伏の少なさに救われた。


「さっそくだが二人ともスタッフ出して。二人のスタッフのスロットに渡した札を全部さしてね。転送の札の設定はここまで来る最中にしてあるから問題ないはず。じゃあ最後に自分の身分証を吸収させようか。スタッフに接触させるだけだから迷う事はないはずだ。それと後で回収できるから戸惑ってないでさっさと吸収させろよ。」


 凌子の指示に従ってスロットに差し込んでいく。そこまでの数はないので札はすぐにスタッフに刺し終えた。最後に身分証をスタッフにくっつけると身分証は消滅する様に消えた。

 身分証が消えた段階で視野の右上に自分の霊力と霊圧がバーで表示される。バーの上には現在値と最大値と思われる数字が表示された。その下にはスタッフの詳細データが表示され刺した札のリストが表示されている。


「ゲームっぽいな。便利機能だが現実感が薄れるよ」

「最初からこうやっておけば良かった様な気がしますね」


 そんな感想が出るが、このバーがなくなると死ぬと思うと多少は緊張する。緊張の度合いはトイレに行きたいが先客がいる程度のものだったが。


「身分証を吸収させた段階でスタッフは二人の身体の延長として認識される。しかも変形可能だ。頭のイメージがそのまま反映されるから手間も要らないしな。イメージが上手く伝わらない時はスタッフに命令する感じでいいはずだ。今までに出来なかった奴はいないはずだから大丈夫だろ。出来ない場合は対処方法が他にないから何とかしろ。最後に注意事項を言っておくが、君らも私も霊体だ。精神体と言ってもいい。その影響か大抵ことは気合いで何とかなる。無理な事もあるが気合いで何とかなる場合が多い。霊力と霊圧もその部類だ。残り少なくなっても気合いがあれば何とかなる。その時はと注釈が付くがね。簡単に言うと残りの霊力と霊圧が一になった場合、気合いで百くらいまで増やせる。その状態で五十くらいダメージを受けても死には至らないよな。でも戦闘が終わって気合いが抜けた瞬間に気合いで増えた分が減るんだわ。そうなると当然即死だな。こっちではどうしようもない。予防法もないからな。戦闘中は冷静な精神状態を維持しろ。ミスで死にたくないだろ? じゃあ試射でもしようか。今日は結界内から外に向って撃ってみよう。危険性もないし練習だからな。」


 気合いで何とかなるのか・・・ ゲーム的な視界を手に入れて緊張感が薄れ、気合いで何とかなるとかって言われたらもうどうしようもないな。冷静になるとかっていうよりもドン引きだ。しかも今日のところは危険が無い。どうやって緊張感を出せと?


「あいあい。勝手に始めるぞ?」

「好きにやってみろ。的は結界に群がってる恨み抱えて馬鹿やってる奴らだ。」


 スタッフを使っての初めての作業。皆無と言っていいほどの緊張感の中でリラックスしながら射撃のイメージを思い浮かべる。あれだけの群れを相手にするんだから、ガトリングガンとかバズーカの方が良いか。段幕を張れる様な物がいい。そんな事を考えた時だった。刻臣の柄しかないスタッフの周辺に大小様々なパーツが出現した。出現したパーツはスタッフに接続されていく。ちょっとしたファンタジーの世界だった。今までにこういったエフェクトは無かったから食い入る様に見てしまった。刻臣もやはり男なのでこういう演出は好きだった。

 再構築したスタッフを周りの目を気にしないでじろじろ観察する。重さは柄だけの状態と同じ、長さは百六十センチくらいだろうか? 先の方には銃身と言っていいのか不明だが先端に穴の開いていない成人男性の腕を二本重ねた楕円状の銃身らしき棒状の物がある。全体の形は銃身が縦に二つ重なっているライフルに持ち運び用の取っ手が付いている感じだろうか。ライフルと言っても銃器にある様なグリップもトリガーもない。取っ手の部分がスタッフなので何とも言えないが、あえて言葉にするならアルファベットの小文字のエイチだろうか? ずばり<h>だ。短い部分が元々のスタッフだと思って貰えれば良い。薬室があるのかは不明だがコッキングレバーが付いているので単発式なんだろうか? とりあえず武器が出来たと思えば良いか。フランは上手くいっただろうか? 変なところでミスをする癖があるので生前から様々なところでカバーしてきた刻臣なので当然の思考の流れだったが。


 横には戦車(?)があった。さらにサイボーグっぽい奴が三人戦車の横で直立していた。戦車自体はアメリカ軍の形に近いがフランはヨーロッパの方の小国で生まれたはずなんだが、そこら辺の拘りはないんだろうか? あまり軍関連に興味が無かったのかも知れない。


「なにがあったの?」

「刻臣君は鉄砲ですね。大きいです! でも銃っぽくないですけど」

「俺の事はどうでも良いとしてこれは?」


 あまり聞きたくない事ではあるが刻臣はフランにこの質問をする義務を感じた。刻臣とフランの後方では静乃をはじめとしてここまで来た連中が口を開けてその状態で静止している。この連中の外見が高齢者であれば生死を確認して救急車を呼ばなければならない様な感じだった。特に元々静観な顔つきだった武文の顔の崩れ方がやばい。


「私のステッキの先に付いていた星が落ちて、半分に割れて、さらに中からいろいろ出てきてこうなりました。質量的におかしいんですけどファンタジー色が強くなりましたね」


 確かにフランが持っているのはフランのスタッフで、星の付いていたステッキの持ち手だけだ。戦車をよく見ようと刻臣が戦車に近づいていくとサイボーグっぽい奴らが跪いてきた。


「フラン、こいつらは?」

「戦車と一緒に出てきましたよ。さっきまで気をつけをしていました。動くんですね~」

「ってことは戦車とこいつらがフランの武器ってことで良いのかな? 良い事にしよう! うん」

「疲れなくて、攻撃されても大丈夫で、楽で、刻臣君をサポートできる様に考えたらこうなりました」

「・・・だからこいつらは俺に跪いたのか・・・ お前らフランの言う事をちゃんと聞けよ」


 刻臣の前で跪いていたサイボーグは直立姿勢になり敬礼をしてくるがこの敬礼は見た事がない。言葉が通じるだけ良いとしておこう。

 刻臣はフランと一緒に戦車の中を見てみたが、特別な機器など一切無く椅子があったり物見用の窓が設置されているだけだった。動かそうと思ったがエンジンが入っているかも不明なのでサイボーグA(見分けが付かないのでおでこにA、B、Cと書いた)に動かせと命令してみたらABCが乗り込み戦車にエンジンが掛かった。


「音声認識で操作端末があいつら三人なんだな。楽で良かったね」

「刻臣君も乗り込むといいですよ。この戦車は結構大きいですから。それに席も余ってますよ?」

「今日のところは遠慮しとくよ。何があるか分からないからさ。」


 刻臣としてはスタッフの初運用で変なリスクは抱えたくない。下手をするとこっちがリスクになりかねない。フランを巻き込む訳にはいかないだろう。ご時世には背く事になるが女性を守るのは男でありたいと思う。このことをフランに直接言ったら一日何も出来なくなるだろうけど。あと貞操の危機だな。話を切る為にも試射しておこう。撃とうと思ったらグリップ部分が変化してトリガーが出来た。便利なんだが、自分の想像力の無さを見せつけられている様な気持ちになる。説明された通りに撃つとするなら三工程が必要になる。作って、変化させ、飛ばすだったはず。使用する霊力と威力の調整も必要になるだろうから一工程ずつに、1ずつ消費する事にした。後は気合いで何とかなるはず。ドッキリにしては手が掛かりすぎているし、今までの事も説明できない。腹を決めてコッキングレバーを引く。引いた時に視界に表示されている霊力が計算通り三減った。そしてトリガーを引く。スタッフの銃身に当たる部分の先端から、握り拳程度の炎が歩く速度くらいでミノタウロスに向って飛んでいく。重力に引かれて放物線を描かなくて良かった。


「なんで実験しているはずなのに申し訳ない気持ちになるんだろう? 最初は出てきたら困ると思っていたけど魔方陣とか出てきても良いとさえ思う」

「刻臣君、私でもそれは駄目だと思うよ。普通によけれるじゃない」

「フランにまともな事を言われるとなんか凹むわ」


 未だに刻臣の撃った炎はミノタウロスに届いていない。僅かな希望は威力だが速度がアレなので期待できそうもない。


 結論から言うと消費霊力五十くらいの攻撃で倒せない魔族はいなかった。新人にして刻臣とフランは無双している状態になったが冒頭の様に敵の数が多かった。雲霞の如くという表現の正しい使い方を初めて実践できたほどと言えば正しいだろう。戦闘の緊張感が皆無に近いのは凌子と小牧が倒した魔族から回収しているスフィアに対して黄色い歓声を上げているからだ。刻臣は一度振り返って確認してみたが、こちらを見ていなかった。キャーキャー言っているがこちらにではなく回収物に対してだっったので気が抜けた。


「本当に何してるんだかわからなくなるね」

「私は立っているだけだからもっと酷いよ?」


 フランのスタッフは戦車と三名のサイボーグなのだが勝手に戦闘している。フランが攻撃を指示したら敵に向って特攻して行った。以後はフランの指示無しに手当たり次第に戦闘しておりスフィア回収のためだけの機械の様になっている。スタッフ発生の際に霊力をかなり消費しているが、戦闘に関してのの消費は少ないようだ。戦車は縦横無尽に戦場を駆け回り、サイボーグ三人衆は近接、中距離、遠距離と対応距離が違うらしく個体差によってブレード、弾幕、狙撃と器用に戦闘をこなしている。戦車だけでも轢殺が可能となれば行動時間によって殺傷数が跳ね上がるだろう。攻撃されても効いている様な気配はない。


「フランは明日からアレに乗るのか?」

「酔いそうだよね。あれだけ動いていると酔うよね? 乗りたくないなぁ。刻臣君が代わりに乗ってみたら?」

「解決策になっていないし、さらに俺に戦車の固定武装になれと? 戦車にはねられた奴にぶつかって戦車から落ちる結末しか見えないよね」

「改良しないと駄目だね。サイボーグは役に立つけど、戦車はちょっと駄目だったかも。私的にはもっと可愛いのが良かったのに強いっていうイメージだと戦車になったのかな?」

「定番だと魔法少女的なイメージじゃないのかな? 俺が読んだ異世界物でも女性キャラが戦車召喚とかは無いと思うよ?」

「魔法使いは良いんだけど、少女っていう年齢じゃ無いと思うんだよね。私個人としても痛いよ」

「いっそ効率のみを求めてみるのもありかも知れないけどね。今も自動で駆除活動をしている訳だし」

「困ったら変更する事にするよ」


 初日は、結界内の安全地帯から一方的な戦闘訓練、二日目からは結界の外に出て戦闘を体験。慣れてきたらその都度結界から離れて戦闘を継続。そんなことを繰り返して七日目でスフィアの利益だけで刻臣とフランは現金で家が買える程度の資金を貯めることに成功した。手持ち在庫としてスフィアも複数確保してあるので現在の状況では困る可能性は低いと言ってもいいだろう。


 さらにフランの戦車と歩兵を自分でも作れないかやってみると案外簡単に生成する事に成功した。持ち前の霊力と霊圧にものを言わせて大量投入した次点であの世の優劣が決定したと言ってもいい。戦況はさっくりこちら側に傾き、傾いたということで大量のスフィアと残留物による物資欠乏の状況を改善させ、ついでとばかりに飽和させる事に成功した。閻魔からの依頼という形で各地へ兵を派兵させた段階に入るまでに一週間程度、その他の地域を開放させるまでに一ヶ月程度の時間を要したが刻臣もフランもたいした労働をした感覚が無い。実際に兵器や兵隊を作った時は働いた充実感があったが後は維持するだけなので特に苦労していないし、現地に行かなくてもスタッフとは感覚を共有しているので移動する必要が無い。海外に行けると喜んだ刻臣にとっては失望感に襲われた。閻魔も行動は馬鹿な事ばかりしている印象だったが金になる木をわざわざ危険地帯に送るようなことはしなかった。このことで刻臣は失望感を、フランは刻臣と一緒に居れると幸福感を、閻魔は各地の代表に対して優越感を、静乃は初の担当が歴史に残る様な偉業を遂げた事により達成感を、あの世の人々はフランを称えたが刻臣に対してはフランの二番煎じという印象を各自に与えていた。


 いつの世も、どの世界でも最初に発想した人間を称える傾向にある。発展させたとしても発明者には及ばないというのは共通の感覚と言える。エジソン然り、ノーベル然りという具合だ。

 このことによりフランの二番煎じ扱いの刻臣は落ち込んだ。見た目は中の下であり、佇まいは平凡そのもので特別外見については突出している個性はない。このことについてはあまり気にしていなかった。生まれについては差があっても仕方が無いと思っていたが、発想力や想像力が皆無という自体についてはかなりのストレスをため込んだ。刻臣も男の子でありファンタジー世界には憧れはあった。才能があると言われた時は怪しかったが嬉しかったし、指導役に筋が良いと言われた時も嬉しかったが終わってみれば想像力が皆無と言われる。ファンタジー世界に置き換えるのであれば単体の性能は良いが使いどころが限られたパーティーメンバーの様な扱いだ。物語の後半でレギュラーを外れるキャラクターの気持ちが痛いほど理解できた。刻臣は汎用性のあるものを作れはするが所詮は二番煎じに過ぎず、あの世の生活水準を上げてみたが結局世論を左右するほどの印象を与える事には失敗した。しかも自分で裏付けまでした形になったので知らん振りも出来ない。フランや静乃にも優しい言葉をかけられたがこういった場合はさらに辛くなるという事も体験した。さらには閻魔にも「ドンマイ」的な事を言われたのでさらに激しく落ち込んだ。


 自分の中で検証すればするほど自分の発想力の無さに打ちのめされていく負のスパイラルから抜け出したのは閻魔からの呼び出しであった。


 閻魔に呼び出され閻魔の自室まで刻臣はフランと静乃の三人で向う事になった。


「よく来たね。刻臣は随分やさぐれた感じだけど、どうなの?」


 このとき閻魔は刻臣以外の二人に目を向けている。刻臣は自分の才能について日々悩んでいるので目の下にはクマができており、食欲も落ちているので頬もこけ始めていた。さらに話しかけても反応が鈍い。話を進める為にはフランに話す方が効率的であり、刻臣の状態については二人の世話係的なポジションに落ち着いた静乃に効くのが早かったためだ。


「刻臣君は夜な夜な何か作ってますけどあまり喜んだりしてないよ」

「健康状態については最低ラインでしょうか、もう死んでますから病気になったり死ぬようなことはないのですがメンタルは致死レベルかと思います。スランプに陥った陶芸家という感じでしょうか、寝食を忘れて物作りに没頭していますね。まだ魔族の方が健康的だと思います。フランさん以外話しかけても無反応ですし」

「魔族に落ちる事はないだろうけど二人でフォローも無理か・・・。この世界じゃどうにも駄目っぽいね。いっそ違う世界に行ってみるい?」


 閻魔が言うには現世と霊界の他にも多種多様な世界があるという。現世とあの世ほどではないにしろ、実際は現世の無意識の集合体とでも表現するのが適切だろうが現世の妄想、想像、中二病が幾つもの世界を形成しているらしい。勇者と魔王、異世界人とその世界の創造神や邪神の対決、惑星間同士の戦争などが実際にあるとのこと。妄想は世界を超えるという事の一端かも知れないとは閻魔の談である。


「ここは刻臣君を抜きで話を進めるけど、それって大丈夫なの? 私死んでるんでしょ?」

「フランの指摘は正しいけど実際はそんなに難しい話じゃないんだよ。実際にこの世界に失望して違う世界に移住する奴はいるからね。普通であれば移住に関してはこっちからは言わないんだけどこの世界を解放してくれた功労者だからね。そこはサービスってことで良いわ。ただ条件として肉体がないと駄目なのよ。現世に戻ってちょっと肉体を回収してきてくれる?」

「普通に考えても火葬もすんでると思うけど大丈夫なの?」

「そこは大丈夫。君達が死んだ時に二人ともミンチみたいになったでしょ? 刻臣の方は良いんだけど、君の方の親が自分の娘の遺体を要求していてね。二人分のミンチでは困るみたいな事になったのよ。実際は総理の息子が刻臣はこの国で弔うっていうことにこだわったみたいだけど世論がそれを支持してね。二国間で交渉が決裂していてミンチの分別作業も進んでないみたいだから大丈夫。骨格も全て改宗している様だから問題ないね。改宗が終わったらいったん戻って貰えればこっちからの文句もないわ。」


 意外に現世についていろいろ調べている閻魔について評価を上げようとしたが尻をボリボリ音を出しながらの説明だったので微妙だったために閻魔については現状維持とフランを決めた。


「ファンタジーの世界で発想力を鍛えるってこと?」

「総人口が七十億の現世の人間の妄想の集合体だから満足いくと思うけど?」

「とりあえず刻臣君に確認しないと駄目だね。刻臣君が行かないなら私も行かないし」

「前から思っていたけどフランは寄生型だね。刻臣が消滅したら被害が出そうだよ」

「問題があるの?」

「この世界の現状を悪化させたのが寄生型の奴なのよ。行動範囲が悪化前の半分以下になった原因を作ったのね。最初はフランを始末しようとする意見が多かったんだけど結果的にはフランを始末してしまうと刻臣も荒れそうだったから現状維持ってことに落ち着いたのよ。言い出した奴らは私の方で始末したから報復は出来ないけどね。能力が無い奴ほど煩くてね。良い機会だったわ」

「まあいいけどね。刻臣君が対象なら怒ったかも知れないけど」


 そんなやり取りの後、フランは刻臣を揺すって意識を自分に向けた後に説明をした。

 最初は刻臣の目は光彩がなく俗に言うレイプ目であったが、説明を理解していくごとに光彩が復活しだし最終的には以前と同じような状態に戻った。


「じゃあ準備が終わったら肉体を回収しに現世に戻るか、こっちに戻ってくるのにはどうしたらいいんだ? おいっ閻魔!」

「刻臣、君にはいろいろ思うところがあるが結構単純だな。」

「欠点を克服する手段があるのにそれをしないのは駄目だろう。それとも全てを世界のせいにして滅ぼす方が生産的か?」

「なんか性格変わってる様な気がするが、問題になりそうだから肉体を回収しに行って。世界を渡るのはスフィアを加工すればなんとでもなるから。あと静乃も連れて行ってくれ。静乃の肉体も現世にはまだあるし、退魔課自体が現状必要なくなってしまったからね。」

「なにかリストラされた感じ化するのは気のせいですかね、閻魔様?」

「仕事無くて干されるよりはいいだろ?」

「そうですね。同行します」


 かなり落胆して肩を落としているが静乃は同行を決めた。刻臣もフランも反対意見はない。旅は道連れの考え方であり、一緒に生活して一ヶ月以上経過しているので見捨てるのもどうかと思っただけだが。


「スフィアをゲートとして移動先をイメージして使用すると異世界にいける訳だが、行った事ある世界にしかいけないし、同じ世界での移動手段としても使えないから注意しろよ」

「とりあえず現世にいくか。」

「刻臣君、すごい軽いノリで言ってるよね。結構すごい体験だと思うんだけど」

「別に現世に戻るだけだしな。閻魔、現世の人間に対して接触すると問題とかあるのか?」

「死んだ人間が復活したことによる混乱程度かな? こっちとしてはどうでも良い事だから気にするな。この世界の事を伝えても良いけど頭がおかしい奴扱いされるからそこだけ注意かな?べつに秘匿する必要も無いし、それによってどうこうなるなら現世はもっと平和だと思うぞ」

「行動に制限がないのは意外だがわかった。肉体を回収したら戻ってくるわ」


 そんな軽いノリで復活した時臣は自宅へ戻り準備をすることにした。復活した事によりフランも静乃も笑顔になる。正直に言うと落ち込んでいる人物との生活は当人以外にもストレス源となりえる。フランは普通に心配していたが静乃は刻臣から溢れる負の感情によりかなりやられていた。さらに退魔師の存在意義が失われてしまった事により不安にもなっていた。兵器や兵士の生産についてはこの世界にいる住民ならば問題なく代用がきくので退魔師自体が必要なくなってしまってからずっと不安だった。それらが解消されたのだから笑顔になるのは道理だろう。


 買ってからあまり日の経っていない自宅に戻り、さっさと支度を終えて現世に戻る事にしようと思っていたが、落ち込んでから日々作成していた物を持って行く事にしたので結局旅立ちは閻魔に呼び出されてから二日後となった。原因は落ち込んでいる時の記憶が刻臣からかなりの割合で抜け落ちていたのが原因だった。刻臣が知るファンタジー小説に出てくる様な物は一通り作成し終えているが、どれがどれだか全く分からなかった為に判別用の道具の作成とそれらの荷物の収納先が無かったので作成していた為に出発が遅れた。


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