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プロローグ〜白昼夢〜

プロローグ 闇、だった。

その闇の中、水音によく似た音が響く。

オネガイ、ワタシヲヨバナイデ!アナタハ、ダレ?ワタシヲヨバナイデ  メザメナンテ、ノゾンデイナイノニ!!  樹々を伝う、赤い雨。

あれは、なに? ムカエニ、イクカラネ… おかしな夢をみた。

凍えそうなほどに、寒く真っ白で、もしかしたら、雪だったのかも知れない。

その中、自分は、血に濡れながら泣いていた『メザメルノハ、イヤダ』と。

それは、妙に生々しく、はっきりと明瞭に思い出すことができた。

(なん、だったんだろう?) ベッドに座ったまま、呆けていた彼女を、母親の怒号が殴った。

「ちょっと、なにボケッとしてるの!?学校遅刻するわよっ」


「あぁ…はぁい!今下行くぅっ」

ベッドから、立ちあがったその時、枕元の目覚まし時計が床に落下し、アラームが鳴り響いた。

「あぁ、もう、うるさいなぁ…どうして今頃鳴るんだか」

 制服に着がえ、着がえのために閉めてあった、薄藍色のカーテンを開ける、夏の、曇ひとつなく、青く晴れた空が、目に痛かった。

「今、夏…だよね?なんだったんだろ、ま、いっか、朝ごはん食べ〜よ」古びた階段を軋ませながら、彼女は降りていった。

「おはよーう」

台所の暖簾をくぐり、椅子に座る。

「ほら、早く食べなさい、遅刻するわよ?」

目の前に、ベーコンエッグとトーストが出される。彼女はトーストを頬張りながら言った

「はいはい、だーい丈夫だって。いただきまーす」

「あなた、最近、顔色が悪いようだけど、ちゃんと寝てるの?」

彼女は、質問には答えず、トーストを咥えたまま、廊下をせわしなく右往左往する

「お母さんっそんなの、話してる暇ないんだって!」

毎朝の光景に、彼女の母親は、溜め息をついた。

「忘れ物は?お弁当持った?」

「ないないっ、行ってきまぁーす!」

玄関のドアが、勢いよく閉まる音を遠くに聞いて、彼女は走り出した。

あたし、早瀬氷魚(はやせひお)市内の高校に通う、普通の高校生だけど、最近、どうも夢見が悪くて、寝不足気味なんだ。

っといけないっ、遅刻だーっ!氷魚は、三回目の予鈴を遠くに聞いて、言葉どおりに飛びはねた。

1章:白昼夢 校内に、予鈴が木霊する。

氷魚は、息も絶えだえに、机に突っ伏していた。

「セ…セーフ」

「ひーちゃんてば、今日は自習って言ってたでしょー?聞いてた?」

死にかけている氷魚を、後ろの席の友人がからかった。

「たぶん寝てたわ…」

と氷魚。

「うん、分かる…担任の授業って、眠くなるよねぇ」

「なるなる」

「ヒマだよねぇ…課題めんどくせー」

「だよねー…ふあぁ」

氷魚は、欠伸を噛み殺しきれず、大欠伸した。

「なした、寝不足?」

「そうなんだ、最近…ヘンなんよ」

「ヘンて、悩みごと?親とか?」

「ううん、夢を見るの…」

「夢、どんな?」

「言っても、笑わない?」

「笑わない笑わない」

「ホントかなぁ」

「話してよ、気になるじゃない」

「うん、何かね…夢の中で、なぜかまわりが真っ白で、寒くて…もしかしたら、雪だったのかも知れないけど、あたし…血まみれで泣いてるんだ?」

「う〜ん、血まみれかぁ。疲れてんだよ、きっと。休めばよくなるさ、元気だしな!」

「そ、そうだよね?サンキュー」そう言うと、氷魚はもう一度欠伸をして、机に顔を伏せてしまった。

「こりゃ、相当ひどいね…可哀想だし、ほっとこうっと」

初夏の、生ぬるい風が、氷魚の髪をそっと撫でた。

擽ったさに目を覚ました彼女は、二、三回瞬きをする。

放課後の教室には、静寂が満ちていた。

「あれ、あたし…寝てた?もう、それにしても、起こしてくれればいいのにさ。仕方ない、一人で帰るか」

(ホントに、誰もいない、おかしーなぁ…そんなに、遅い時間じゃないのにねぇ) 靴箱をしめ、氷魚は、外へ歩きだした。

(やっぱりヘンだ、何かが、おかしい) いつも賑やかな商店街、しかし今は、死に絶えたかの様に静まりかえっている。氷魚は、大通りに出、携帯で自宅に電話をかけた。

「あれ、やだ、ちょっと…どうして!?繋がんない?」

氷魚の背中を、一筋、いやな汗が伝う。

(どうしたんだろう、もしかしたら…何かあったのかも!)携帯を閉じる氷魚、通り抜けていく風の音が、いやに、大きく聞こえた。

(とっ、とりあえず、家に急がなくちゃ!なにか、あったのかもしれないっ)氷魚は、走り出した。

橋を渡り、砂利道を走り抜け…しかし、そこにあるはずの、自宅はなく、茶色い土を剥き出しにした、ただ広い敷地が広がっていた。

「ウソ…なんで、何でウチがないの!?いったい、なにがっ」

背中に、強い衝撃を感じて、氷魚は、怪訝そうにふり向いた。

「石…じゃなかった、なに、祠?何で、ウチの敷地にこんなのがあるんだろ」

その時、どこからともなく、男の笑い声がする、もう、可笑しくて仕方がない、といった風の声だ。

「ねえ!誰かいるの?!」

氷魚は、せわしなく周囲を見まわす。が、しかし。くつくつ、と笑い声はやまない。

「ねぇってばっ!」

血が上って、怒鳴り散らした彼女に、やっと気がついたように、声が、答えた。

「あ、あぁ…すまない。気を悪くしないでくれ」

「どこにいるの!?」

きょろきょろと、見まわす氷魚。

「すぐ傍にいるぞ?氷魚、お前の足元にね」

「え…黒猫、どこから…」

黒猫は、氷魚を見上げて一声鳴くと、笑い始めた。

「迎えにきたよ、氷魚。あぁ可笑しい、おまえの、あの時の顔ときたら、腹が捩れるかとおもったよ」

「ね、ね、ネコが喋ったぁっ?!」

氷魚は、後ずさった。

「やっぱり、この姿はマズかったか…これが気にくわんなら、何にでもなるぜ?」

猫は、祠に飛びあがると、黒いノースリーブに、ジーンズを着た男にかわっていた。

「あんた、一体!?」

おそるおそる、氷魚は男の方に近づく。

「お前を迎えにきた、それはさっき言ったな?」

いきなりペースがずれ、氷魚は瞠目した。

「いや、そうじゃなくて…」

「あぁ…自己紹介してないのか。俺は、瑪瑙(めのう)だ、ヨロシク」

「あ…あたしを迎えにって、どうゆうこと?」

(何なんだ、こいつ…いきなりペースがずれたし)

「なにも覚えてない、か。まぁ、仕方ないよな、小さかったし」

「え?」

(ますます分かんないっ、なに?こいつ)

「えーっとな、つまり、あんたは、人間として育ってきたが、それが、全部嘘だってことさ」

「え、なに?なに言ってンのか、さっぱり意味分かんないんだけど?」

「お前は人じゃねえって事」

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