エピローグ1-4
「ロッテさんも心配していました」プライはいった。「ネイリンさんにどう思われるか。彼女は、そのことだけを気にしていました」
「どう思われるかなんて、決まってるじゃない!」ネイリンは語気強くいった。「許せない。そんなの、絶対、絶対……」
なにが腹立たしいのか分からなかった。
なにが悲しいのか分からなかった。
ロッテになにがあったのか、行動に移す前になにを考えたのか、想像するのが辛い。
裏切られたことが、嘘を吐かれたことが、悲しい。腹立たしい。
違う。そういう次元じゃない。
もう、ロッテは、ネイリンの中でずいぶん遠いところにいた。
本当は、悲しくも腹立たしくもないのだ。
友達ではないのだから……。
「でも、ロッテさんは、ネイリンさんのことを友達だと思っています。ネイリンさんに、やさしかったでしょ?」
「そんなの、当たり前じゃない! そうやってやさしく接して、手懐けて、利用しようとしてたんだもん……」
「利用されたことが嫌なんですか?」
「違うよ……」ネイリンの目から涙がこぼれた。「違う。そんなんじゃない。友達じゃないんだから、べつに利用されたって、」
「ネイリンさん、よく聞いてください。ネイリンさんの見ていたロッテさんは、どんな人でしたか?」
「…………」
「ネイリンさん、その人がロッテさんです」
「違う」ネイリンは首を振る。「それ、嘘だったんでしょ。全部、嘘だったんでしょ?」
「ネイリンさんに見せていなかったロッテさんも、本当のロッテさんです」
ネイリンは顔を上げ、プライの顔を見た。
「どちらもロッテさんなんです。そしてロッテさんは、その自分から抜け出すことができません。どちらも抱えながら、生きていくことしかできないんです」
「知らない。知らないよ、ロッテのことなんか」
「ネイリンさんには、秘密が一つもありませんか? すべてを、わたしたちに、ロッテさんに見せていますか? 違うでしょ? 隠していることもあるでしょ?」
「そりゃ、あるわよ。あるに決まってるじゃない!」
なんでプライはこのようなことをいうのだろう。
プライの口調は、まるでロッテをかばおうとしているみたいだ。
自分の家族を殺す計画に関わっていた人なのに。
「どうして、隠すんですか?」
「そんなの、」
――どうしてだ?
秘密があるのは当たり前だ。だれしもある。でも、当たり前のことだからこそ、訊かれるとその理由が分からない。
「理由はね、怖いからです」プライはいった。「嫌われるのが怖いからです」
ネイリンは目をこすってプライを見た。
「だれしも、知られたくないことはあります。だれに知られてもいいことだけをしているわけじゃないからです」プライは悲しそうな顔をしている。「だから、他人には隠す。でも、自分から隠すことはできません。人は、その他人に知られたら嫌われるかもしれない自分も含めた自分で、生きていくしかないんです」
その本当の自分を――とプライはいった。
「知られたら、そのときネイリンさんはどう思いますか?」
「どうって……」
「今回は、殺人事件です。わたしは、その謎を解いてしまいました。わたしが石を見つけたことを知ったとき、彼女たちは、いずれ真相を知られることを覚悟しました」プライの声が低く感じられる。「どうして、彼女たちだけが、本当の自分を隠した人に、本当の自分を評価されなくてはいけないんでしょう」
ネイリンはなにもいえなかった。
なにをいっていいのか分からない。
「自分の秘密も公開しなくてはいけない、といおうとしているわけではないんです」プライは首を振る。「すべてを知り、正しい評価をしつづける、なんてできません。すべてを知る必要なんてないんです。知っていいところは、自分が知られていいところだけなんです」
「…………」
「迷いました。石を見つけたことを知らせるかどうか。知らせたら、遅かれ早かれ、ネイリンさんは真相にたどりつくと思いましたから」プライは目を細める。「でもね、わたしも、一人で抱えきる自信がなかったんです」
――だから、みんなでいるときに、真相をお伝えしようと思ったんです。
そういってプライは泣き出した。