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エピローグ1-2

「え、ちょっと待って。どういうこと? 石はやっぱりあったの?」

「はい。生き返りの力があるなんて信じられませんけど、とりあえず、生き返りの力があるとガードナー家で信じられている石はそれのようです」

「ほんとに?」ネイリンは、あらためて石を見る。

 小指の先ほどの、小さな石だった。色は黒く、形は楕円形だ。宝石のような石である。

「いや、ちょっと待てよ」ラパルクが頭をかきむしる。「石があったって……さっき鏡の中から取り出したっていわなかったか? それはどうやった? そもそも、鏡の中に物を入れることなんてできるのか?」

「鏡の中に物を入れるなんて、そんなことできません」プライは吹きだす。「鏡の中っていうのは、鏡の後ろっていう意味です」

「後ろ?」ネイリンは訊く。「ってことは、鏡がずれるとか開くとか、そういう仕掛けがあったの?」

「はい」

「嘘だぁ。だって、あたし鏡面にも触ったし、そのときちょっと力入れたから、動くんだったら、そのとき気づいてたはずだよ」

「力づくで動かそうとしてもだめなんです。仕掛けがあって、それは、あの部屋を正しい方法で開けたときに作動するんです」

「え、なになに?」いっていることが分からなかった。

「つまり、あの部屋を鍵をつかわずに開けたときに、その動きに連動して、鏡が自動的にずれる仕掛けなんです」

「鍵をつかわずにあの部屋を開ける?」ラパルクは復唱した。「そんなことできるのか?」

「はい」プライがこともなげにいう。「仕掛けを動かすスイッチは、扉にありました」

「扉って、あのでこぼこしたやつか?」

「そうです」

「やっぱりな!」ラパルクは、一際大きな声でいった。「絶対あの扉は怪しいと思ってたんだ。やっぱりそうだったのか」

「やっぱりって二回いってることが、やっぱりじゃない感じだよね」ネイリンは冷たくいう。「なんか恥ずかしいからいわないで、そういうこと」

「おまえだっていいかけたくせに」

「だからよけい腹立たしいのよ。ってそんなことはどうでもいいわ。それよりプライ、どうやってスイッチを押すの」

「押すんじゃないんですけどね。ずらすんです、あのでこぼこを」

「ずらす? 動くの?」ネイリンは驚いた。そういう発想がなかった。

「はい。あのでこぼこは、一枚の板を削ったものじゃないんです。たとえば、ドアノブのついているブロックは、横に動きます」

「いや、横にって、横にも……ブロック? あるじゃない」

「はい、それも動くんです。こっちは縦、というか前後にです」

いってからプライは荷物を下ろし、しゃがみこんだ。足元に落ちていたとんがった石を拾う。それで地面に図を描くようだ。

「ドアノブのついたブロックを上から見ると、こんな形をしています」そういって、『匚』と地面に描いた。「で、隣のブロックはこうです」といって、『コ』の字型を描いた。「まず、隣のブロックが、部屋の外から見てこちら側に動くんです。ブロックは台形をしていますから、非常につかみづらく、分かってはいても動かしにくかったんですが、よく見ると、爪が引っかかる傷のようなものがありました」

「手前に動いてどうなるんだ」ラパルクが、プライの描いた図形にかぶさるようにしていう。「あ、そうか。噛み合うのか?」

「そうです。互いの隙間にでっぱりが入り込むことによって、隣の、つまりドアノブのついたブロックが、今度は横にずれるんです」

「横にずれたら……」ネイリンは口に手を当てた。「一緒に、鍵をかけたときに出るあのでっぱりも引っ込む」

「はい。鍵はかかった状態で、扉が開くようになるんです。そして、その方法で開けると、連動して鏡が横にずれるんです」

「すごい!」ネイリンは思わずプライの肩を二度三度と叩いた。

「痛いです」

「あ、ごめん。でも、なんでそんなこと分かったの? っていうか、いつ分かったの?」

「寝ているときに、夢の中で考えて……」

 寝ながら謎を解いたのか――。

「やっぱ、どっかの誰かさんとはレベルが違うね」

「おれのことか? 自分のことを棚に上げて、おれのことをそういうふうにいうのか?」

「べつに、ラパルクがどうこうなんていってないじゃない」

「いってるじゃねぇか。おまえあれだろ、おれの推理が外れたこと、ばかにしてんだろ」

「しつこいな。いってないじゃない、そんなこと。それよりプライ」ネイリンはラパルクを無視してプライにいった。「どうして、そのことに気づいたの?」

「それは、すぐに分かりました。やはり、でこぼことした扉、というのが怪しいですからね。それらは独立しているんじゃないか、と思ったんです」

「ふつう思わねぇよ」ラパルクがいう。

「思っちゃったら、いつか石を取りにくるっていう智者になっちゃうんだから、そう簡単に思いつかないのは当たり前なのよ。プライは特別なんだから……」そこまでいってネイリンは気づいた。「あれ、その石を鏡から取り出して、その石を今もっているっていうことは……」

「はい。わたしが、智者と認められたんです。違うとは思うんですが、まあ、せっかく石をもらえるということですし、いただいておこうかなと」

「…………」ネイリンは絶句した。

 そのことが、一番の驚きだった。

 プライが、ガードナー家で、言い伝えられていた、いつかくるという智者だったのか。

 それも驚きだが、彼がくることを予言していた言い伝えにも驚いた。

「プライ、屋敷を出るとき、じいさんとロッテとなにかはなしてただろ? あれって、イボーのことじゃなく、そのことをはなしてたのか?」

「はい。イボーさんがどうかしたんですか?」

「いや、イボーを探してくれって頼まれてたのかな、って思ってたんだ」

「ああ、そんなことはいわれてませんし、いうはずがないです」

 プライの断言が気になったが、今はそれどころじゃない。

「すごいじゃない、プライ、ほんとに当たっちゃうぐらいのすごい言い伝えに出てくるような人だったなんて。やっぱり、只者じゃなかったんだね」

「そんな、違います。わたしは、言い伝えにでてくるような人間じゃないですよ。そんな器じゃないのは、自分でよく分かっています。ただね、めぐり合わせかな、とは思うんです」

「めぐり合わせ?」

「はい。トーイさんと知り合いのわたしがここにきた、というのは、これを渡せ、っていうことなんじゃないかなって。いや、言い伝えというものを頭から信じているわけじゃないんですが、でも、そんなふうに感じたんです」

「トーイに……」

「なんであんなやつに渡すんだよ。いっとくが、あれはただの馬鹿だぞ」

「馬鹿はあんたよ」ネイリンはラパルクの頭をはたいた。「そっか。トーイにね。あたしは、プライこそが言い伝えに出てくる智者なんだと思うけど、でもプライが渡したいっていうなら、それもいいんじゃないかな。これで、トーイを探す理由がもう一つ増えたね」

「そもそも、トーイを探さなくちゃいけない、もともとの理由がなんなんだよ」

「うるさい」もう一度はたく。

「それにしても、見事な仕掛けでしたよ。あの扉」プライが、目を細めていう。「鏡が音もなく動きましたし、今もしっかり動力が生きているというのも見事です。できることなら、分解して中を見たかった」

「だれが作ったんだろうね。言い伝えが昔からあったっていうことは、扉だって昔からあったわけでしょ?」

「腕のいい職人さんは、昔からいたんですね」プライは感心していう。

「しかしなぁ、分かってみると現実的な方法だったよな。鏡に入れる方法」ラパルクがつまらなそうにいう。

「現実的な方法じゃないと入らないじゃん」とネイリン。

「そうだけどよ。でも、鏡の中、っていう絶対入らない場所にあったなら、生き返りっていうありえない能力を持っててもおかしくない気がするけど、こういう方法で入れたんなら、生き返りの話も怪しいもんだよな」

「ううん……」ネイリンはうなる。

「ま、今のとこは、その能力については保留ですね。今論じても、答えは出ません」プライはクールにいう。

「そうだな……」ラパルクはうなづきかけて、その動きを止めた。「あれ? 鍵がなくても、あの部屋は開くのか? ってことは……」ラパルクはネイリンを見た。そしていう。「じゃ、話違ってこないか?」

 ネイリンは考えた。今までは、寝ている主からケースの鍵を盗んで、その鍵であの部屋を開けたのだと思っていた。だが、鍵なんか盗まなくても、あの部屋は簡単に開くなら……。

「話は……」ネイリンは考えながらいった。「かわんなくない? だって、もともとの案だって、それで犯人を特定できたわけじゃないんだし、扉の開け方が分かっても、じゃあ部屋を開けたのはあの人じゃないんだ、って話にはならないし」

「そうか……」ラパルクは眉を寄せながらうなづく。「プライはどう思う?」

「わたしは……そもそも不自然だと思います」

「ん、なにがだ?」

「いつだってよかったのに、あの日にあの部屋が開けられたことです」プライは二人を見ていう。「このことは考えましたか?」

「それは……」考えていなかった。

「いや」とラパルクも首を振る。「だが、予期していなかったんじゃないか? 部屋を開けた段階では、犯人も殺人を犯す気はなかった」

「それは、殺人のことですよね。ではなくて、石を盗む日のことです」

「石を盗む日は……そうか。開け方知ってたんなら、いつでもよかったんだよな。なんであの日だったんだろ?」ラパルクが首をひねりながらいった。「逆に、あの日じゃなくちゃだめだったってことか?」

「するどい。最近のラパルクさんは一味違いますね」

「どういう意味だよ。普段鋭くないみてぇじゃねぇか」

「あ、そういう意味じゃなくて……」

「からまないの。あんた、推理が外れてからひがみっぽくなってるよ」ネイリンは仲裁し、いった。「ねえプライ。今ラパルクがいった、あの日じゃなくちゃだめだった、っていうのが当たってるの?」

「はい。そして、石を盗むのがいつでもよかった以上、あの日部屋が開けられた理由は、殺人に関係したものだと考えられます」

「……え、殺人を、あの日あの場所で行う必要があったっていうの?」驚きながら、ネイリンはいった。「あの部屋を開けた目的は石じゃなくて殺人だったっていうこと?」

「そう考えるのが自然だと思いました」プライはうなづきいう。「もしそうなら、まず、なぜあの日じゃなくちゃいけなかったのか?」

「ほかの日とは違う、あの日の特徴は……」背筋に冷たいものが走った。「もしかして、あたしたちがいたから?」

「では、あの場所じゃなくちゃいけなかったのは?」プライは、ネイリンの問いかけに答えずいった。

「あの場所の特徴は、石があることだよな?」ラパルクがいう。

「はい。しかし、さきほどいったように、盗む盗まないという話じゃありません。なら、石はどう絡むのか?」プライはいう。「話を変えます。あの部屋では、殺人が起きました。特徴は、部屋が密室状態だったことです。なぜ密室状態だったのか?」

 気づけば、プライに誘導されてものを考えている。

 そしてそれは、前進している気がした。

 それを先導しているプライは……。

 なにかに気づいているのか?

「密室にした理由は……」ラパルクが答える。「死体を隠したかった?」

「なぜ隠したかったんでしょう」

「それは……」

 ネイリンは考える。隠し通せるなら、殺人そのものを隠蔽できる。だれだって、もし殺人を犯してしまったら、死体を隠そうとするだろう。

 逆に、もし隠されていなかったらどうだろう。

 殺人そのものの露見も大きなことだが……。

 ネイリンは、思わずびくりとした。あの日起きたことは、トーナスさんの殺害だけじゃない。ジーナスさんも殺されているのだ。関係するのか?

 嫌な予感がした。

 頭のどこかは、すでに真相に行きついてる感じだった。その結論を、意識のどこかで恐れている。

「ジーナスさんの死と関係ある?」ネイリンはいう。

「そっか」ラパルクがいう。「トーナスさんが死んでいるのが見つかったら、ジーナスさんは警戒するかもしれない。イボーの目的は、兄弟二人を殺すことだった。だから、ジーナスさんを殺すまでは、絶対に見つからないようにと……」

「イボーさんのことは置いておきましょう。今は、先入観を捨てて、表にでてきていることをつなげましょう」プライはいう。

「あの、ちょっと待って、プライ」ネイリンはいう。「プライは、なにか分かってるの?」

「はい」彼はこともなげにいう。「はなすべきか、少し迷いましたが、今終わらせたほうがいいと判断しました。遅かれ早かれ、気づくでしょうし、」

「分かってる……?」ラパルクがプライの話をさえぎっていう。「犯人は、イボーさんじゃないってことか?」

「違います。イボーさんが犯人なら、なにもあの日に殺人を犯す必要がないはずなんです」

「そりゃ、まあそうかもしれないけど……」ラパルクがいう。「しかし、ならなぜ逃げた。なぜいなくなったんだ?」あっ、とラパルクは声を上げた。「もしかしてイボーも……」

「それは後でいいます。まずは、表に出ている現象から」プライは結論を急がない。「殺人を犯したら、死体を隠したくなるのが人間心理です。しかしこの場合、直後にジーナスさんが殺されていることと合わせて類推することで、先ほどラパルクさんがいったように、ジーナスさんを殺すために、トーナスさんの死体を隠したと考えられます。つまり、トーナスさんの殺害は計画的だったんです」

「計画的……に、あの日トーナスさんを殺した」ラパルクがつぶやく。「そしてジーナスさんを。いや、まて、ジーナスさんが見つかった部屋も密室状態だったんだ。あれはどうなる? イボーにしか、あの密室は作れないぞ」

「本当にそうでしょうか?」プライはいう。「ジーナスさんお部屋も見てきました。おそらくラパルクさんたちがそうしたように、窓の外から」

「窓は閉まってたんだ。それは確認している」

「こちら側の窓は閉まっていましたか?」

「ああ。鍵のすりかえは思いつかなかったから、鍵は調べられなかったが、窓なんかはさすがに調べたんだ。だから断言できる。窓の錠はかかっていた」

「外に面している窓は、本当に錠がかかっていましたか?」

「かかっていた」

「どうして断言できます?」

「それは、部屋の中に入ってから、確認したからな」ラパルクが、自慢げにいう。

「部屋に入る前は? 向こうの窓の外に、ご主人とイボーさんがいたんですよね。窓を開けて中に入るようにといいましたか?」

「いや、いわねぇよ。だから、錠がかかってたんだって。それは、廊下からも見えたし、それに部屋の中におれたちが入ってから、錠にふれたやつもいねぇ。その辺は、抜かりなく見てたんだ」ラパルクは、おっと、といってつけたす。「もちろん、じいさんは部屋に入るために、ガラスを割ってからはさわったぞ。でもそれだけだ。錠にふれたやつは、他にいねぇ」

「ネイリンさんはどうですか? 異論はないですか?」

「うん、ない。あたしはラパルクと違って、部屋の中に入ってから詳しく調べたわけじゃないけど、こっちの窓は開かなかったし、向こうの窓の錠もかかってた」

「向こうの窓の錠も見えますよね。わたしも確認しました。で、ご主人はそれを確認しましたか?」

「え……?」頭の中が空白になる。

「どうです? ご主人は、窓に錠がかかっているかどうか確認しましたか?」

「それは……」

 ネイリンはあのときのことを思い出した。

 主は――確認していない。

 なのにどうして、窓を壊したんだ?

「もしかして……」ラパルクも思い出したようだ。口元を手で押さえる。「いや……だがそんなはずはない。じいさんが犯人のはずはないぞ」首を振ってつづける。「たぶん、じいさんはおれたちの様子から、錠が下りていることを推察したんだ」

「錠は、廊下からも確かに見えました」しかしプライは、ラパルクの言葉を無視してつづける。「注意して見れば、なんとか見える距離でした。ですが、」プライはいう。「窓はどうでしょう?」

「窓?」ネイリンとラパルクが同時にいう。

「窓枠すべてに、ガラスははまっていましたか?」


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