第二章 33
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結局プライは一人で部屋を出た。まあ、ずっと寝っぱなしだったのだ、食事のほかにも、トイレにだって行きたいだろうし、一人でいるほうがいいのだろう。
プライはなかなか戻ってこなかった。食堂かどこかで、きっとたっぷりとご飯を食べているのだろう。
彼が戻ってくるまでの間、ラパルクと二人、無言の時間を過ごした。
プライが起きていなければ、まだ事件のことをなんだかんだとはなしていたかもしれないが、もう、そんなことをはなす気分ではなくなってしまった。
イボーが逃げた、という出来事よりも、プライが起きた、という出来事の方が、ネイリンたちの中の事件を終わらせた感じだった。
プライが起きた。つまりそれは、ネイリンたちがこの屋敷にいる必要がないことを意味している。
屋敷を出なくてはいけない。
気分は、もう旅人のそれに戻りつつあった。
ロッテのことを、ネイリンは思い出した。
故郷を出て、初めてできた友人の顔を。
ここをでても、今後また彼女に会うことはあるだろうか。
ネイリンの胸に、切ないものがこみ上げてきた。
ロッテは、もっと切ないだろうな。
心細いだろうな。
もう少し、ここにいたっていいのかな。
「ねえ、ラパルク……」
ネイリンが口を開いたときだった。ロッテが部屋に戻ってきた。
「ご挨拶をすませてきました。わたくしはもう出られますが、お二人は?」
「あ、出るって屋敷を?」
「はい」プライがうなづく。
ロッテのために、もう少しいてあげたい気持ちもある。しかしプライが起きた今出なければ、今後きっかけをつかみにくくなってしまうかもしれない。別れにくくもなるだろうし、そもそもネイリンにだって目的のある旅だ。
「行こうか……」ネイリンはいった。「でももし、ロッテが帰らないでっていったら、」
「そのときは、もう少しいましょう」プライがやさしくいった。