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第二章 28

      28


「それにしても、結局石はどこにあるんだろうね」ネイリンはつぶやいた。

 空腹と暇をもてあまし、二人はしばらく事件以外の話をしていた。疲れから、少しこの話題を忘れたかったのだ。

 だが、なかなか食事に呼ばれなかった。

 口を動かすのも億劫になって、ネイリンはぼんやりしたが、すると頭に浮かぶのは事件のことばかりだった。今朝からの出来事が、ランダムに浮かぶ。

 で、ふと思い出したのだ。

 何の気なしに、独り言のようにでた言葉だった。

「石なぁ」ラパルクが、力の抜けた声で応じる。「ジーナスさんは、本当は頭がいいから、本気で隠したら自分たちには見つけられない、みたいにロッテはいってたけど、これだけ広い家だしな。だれだって、隠し場所にはそう困らないだろうな」

「例えば……天井裏とか?」

「あるいは庭に埋めた」

「木の幹にたまに穴開いてるじゃん? ああいうとこに入れといても絶対見つかんないよね」ネイリンはいう。「そもそも、鏡の中とか、絶対入らない場所に入れるより、そういったとこに置いておいてもよかった気もするけど。簡単だし」

「石を取りにくる智者がきたとき困るんじゃねぇの?」

「ああ、そうか」絶対入れることのできない鏡の中から石を取り出すことで、真の智者と認められるんだった。「……鏡の中から取り出すのと、鏡以外の場所から探し出すの、どっちが難しいだろうね」

「鏡から出すのも難しいけど、今考えると場所が限定されてる分ましだった気もするな」

「ましっていっても、まあ、取り出し方、分かんないけどね」

「まあな」ラパルクは、ため息をついた。「石、あるとしたらジーナスさんの部屋だと思ったんだけどな」

 ネイリンも、石を実際に探しはじめるまでは、ジーナスの部屋でまず間違いないと思っていた。ロッテもそう思っていたことだろう。ふつう、なにかを隠すときってのは、目の届く場所に隠すのが心理というものだ。

 そこまで考えて、ネイリンは、あっ、と思った。

「そういえば、ジーナスさんの部屋にも鏡あったよね?」

「ん? ああ。あったけど……」

「ジーナスさん、その中に隠したんじゃないの?」

「ああ……」こぶしを手のひらに打ち付けて、ラパルクがうなづく。「そうか。ジーナスさん、石を鏡から取り出せたんなら、べつの鏡に入れることもできるって話か」

「でも、遅いんだけどね。ジーナスさん、埋められちゃったし。もう生き返らせることはできないだろうね」ネイリンは肩を落とした。

「間に合うんだとしても、鏡の中に隠されてるんじゃ、お手上げだしな」ラパルクは肩をすくめる。

「どうやって、取り出したんだろ、ジーナスさん」ジーナスの顔と、封印された部屋にあった鏡を頭の中で思い浮かべる。

「鏡の中なぁ。取り出せるわけはないんだけど。っていうか、そもそもそんなとこに、入れられるわけないんだけどな」

「お手上げだね」ネイリンは、実際に手を上げた。

「そうだな」ラパルクが、考えながらいう。「で、どうする? 鏡の中が隠し場所かもしれない、ってロッテに伝えるか?」

「やめときましょう。それきいたって、ロッテにもどうしようもないわけだし、動揺するだけだと思う」

「そうだな」

 ラパルクがうなづいたときだ、ノックの音がした。

「はい」ネイリンが答える。

「お食事の用意ができました」ルイの声だった。「あと、プライ様のお食事とお薬をお持ちしました」

 ネイリンは扉を開けた。

「ありがとう」といって、ルイからお盆を受け取った。「これを飲ませてから、下に行くんでも間に合うかな」

「はい。大丈夫かと思います」ルイはそう答えると、振り返り立ち去ろうとした。

「ねえ」ネイリンは彼を呼び止めて訊く。「ロッテの様子はどんな感じ?」

「さきほど、お部屋にうかがいましたが、やはり、憔悴しておられるようでした」そういうルイの顔も、悲しそうで憔悴もしているように見えた。

「そっか。うん。ありがと」

「いえ」ルイは短く答え、廊下を戻っていった。

 ネイリンは盆を手に戻った。ベッドの横に立ち膝になり、プライの胸辺りに手をかける。

「プライ。ご飯だよ」

 プライはうっすらと目を開くと、ネイリンの手をかりて上半身を起こした。

 ネイリンは、スプーンでプライにスープを食べさせる。

「ルイ君って、ロッテとはどういう関係なんだろうな」ラパルクがいった。

「お嬢様と使用人」ネイリンは言葉少なに答える。

「そっか……」

 プライは食事し、薬を飲んだ。だが、依然意識ははっきりしていない様子で、何もはなさず、無言だった。


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