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第二章 27

      27


 つづいてトーナスが埋められた。その段になって、はじめてルイーザがいないことに気がついた。彼女に知らせなかったのか。それとも、知らせたが彼女がこなかったのか。

 分からない。

 との程度、彼の死が悼まれている中での埋葬なのかも分からなかった。

 結局、外様である自分は、なにも分かっていないのだ。

 葬儀はつつがなく終わった。

 あっさりとしたものだった。

 墓地には、新しい墓碑が二つくわわり、屋敷内の住人は、二人減った。

 それだけのことのように、錯覚してしまう。

 二人も死んだのに。

 今になってネイリンは、現実のものとして、うまく彼らの死を認識できていない自分に気がついた。

 一行は無言で屋敷に戻った。

 今度は正面玄関に回った。中に入る前に、神士たちと別れた。中に入って、大広間でネイリンたち二人は、この屋敷の住人たちと別れ、二階に上がった。

 なにも打ち合わせたわけでもないが、ラパルクと二人、プライの部屋に入った。

 部屋に入り扉を閉めると、知らずため息がでた。

「なんか、疲れたね」ネイリンはいう。

「まあな」ラパルクはいって、ソファに深く腰掛けた。

 ネイリンはプライの顔を真上から覗き込んだ。前に見たときとかわらずすやすやと眠っている。

「プライはいいよね、知らなくて」

「ああ。起きたら驚くだろうな」

「ここどこだ、って?」

「ああ、そうか。ここきたことからして知らないのか」ラパルクも立ち上がり、プライの横にきた。「まだ起きそうにないか?」

「いや、まあ起こせば起きるんだろうけど……」先ほど、見解を聞きたい、と思ったことを思い出す。「完治まではどうだろう、もう少しかかるのかなぁ」

「顔色はよくなっているように見えるけどな」

 ラパルクが至近距離でネイリンを見る。ネイリンはなんとなく息苦しさを覚えた。

「起こしてみるか?」

「なんで?」ネイリンは彼からプライに目を移した。

「いや、意見を聞いてみたいだろ」彼は不満そうにいう。「だいたい、考えるのはこいつの仕事のはずなんだ。なんでおれが、こんなに考えなくちゃならないんだよ」

「べつに、あんたに考えろなんてだれもいってないじゃん」

「おまえなぁ」ラパルクは呆れた顔で、ソファに戻った。「状況分かってんのか?」

「状況って?」

「やばかっただろうが」ラパルクがいぶかしげにいう。「おれたち、もう少しで犯人にされそうだったんだぞ。っていうか、犯人って思われてもしょうがないような立場だったんだぞ。だから必死こいて、おれたちから目を逸らさせようと、ふだん使わない頭をつかったんじゃねぇか」

「たしかに、まずい立場だな、とは思ったけど……」

「いいか? ジーナス犯人説の根拠の一つは、ケースのそばにいたってことだが、それはおれたちだって同じなんだぞ」

「まあ」

「それどころか、ジーナスさんが犯人だった場合、俺たち二人が寝た隙を狙って行動を起こさなくてはならない。そして、二人が起きないかと心配しながら、動かなくちゃならないんだ。だがおれたちが犯人だった場合、一人の隙だけを考えていればいいわけだし、何なら一人を言い訳用に大広間に残しておくこともできる」

 ネイリンはよく考えてからいった。

「……そういうふうにいうと、あたしたちの方が、なんか怪しい感じ」

「怪しいんだよ、実際。だから、そういった雰囲気っていうか、流れになる前に、とにかく考えられることは全部いっておかなくちゃならないと思った。必死だったんだよ」ラパルクは腕組みをしながら、ちらとプライを見た。「まあ、結果としてはうまくいったというか、ジーナスさんが、おれが思っていた以上に犯人であってもおかしくないように家人に思われてたから、うまくいったというか、おれたちから目が逸れたが」

「ちょっと待ってよ。なんかそれじゃあ、ジーナスさんが犯人だと思ってないみたいな言い草じゃない。っていうか、本心はどうなの? ラパルクさっきから、外部犯行説を調べるような行動とってるけど、それって、念のための行動なの? それとも……」

「いや、おれはジーナスさんが犯人なんだと思ってるよ。少なくとも今は」

「今はってなによ」ネイリンは、ラパルクの向かいに腰を下ろした。

「……ジーナス犯人説をいいだした当初はさ、正直にいって、あまり信じてなかったっていうか、この考え方がだめだったら、他に犯人と考えられる人間を探そうぐらいに思ってた。そしたら、ジーナスさんのことをよく知ってる、しかも血のつながったじいさんやロッテがのってきて。ってことは、そういう殺人とか、してもおかしくない人格なのかな、って」

「って。じゃないわよ」ネイリンの胸の内に、不安と怒りが渦巻いてきた。「あんた、全然自信なさげじゃない」

「自信なんてねぇよ」ラパルクははっきりいった。「なんだ、おまえ。おれの頭を信じてたのか?」

「ぜんぜん」ネイリンは首を振った。「……信じてはいなかったけどさ。でも、自信ありげだったし、筋も通ってる気がしたから、」

「通っちゃったんだよ、筋が」ラパルクは、首を後ろをかいている。「でも、そのせいで、っていうか、石まであることになっちゃって」

「石までって……」

「なあ、石、ほんとにあると思うか?」

「……いまさら、そんなこというわけ?」

「だってよ、死んだ人間を生き返る石なんて、ふつうに考えてあるわけないじゃんか」

「はあ……」ネイリンは頭を抱えた。「あんたのせいで、ロッテはお父さんが生き返るかも、って思ったんだよ。それに一縷の望みをかけて、一生懸命探したのに」

「それをいうなら、おれの説であいつの親父が犯人てことになったんだぞ」

「威張ばらないでよ」

「威張ってねえよ」ラパルクは視線をはずして、つぶやくようにいった。「おれなりに必死だったんだよ」

「自分たちの身を守るための行動でしょ?」ネイリンはだんだん腹が立ってきた。

「最初の動機はそうでも、結局はみんなが納得する理屈になったじゃないか。っていうか、おれの理屈にみんなも、おまえも納得したじゃないか? ってことは、真実もそういうことなんじゃないのか?」

「ううん」ネイリンは唸った。「……ちょっと、もう一回考えてみる? さっきは、なんか異常な状態だったし、って今もそう変わってはいないけど、気持ちは落ち着いたから、さっきよりも冷静に考えられるかも」

「……そうだな。もういっぺん整理してみるか」

 ラパルクもうなづき、ネイリンと彼は二人、昨夜からの出来事を振り返ってみた。

 二人で交互に、お互いの記憶を補完しあうような形で話していった。なにが起こったのか、だれがなにをいったのか、そのときラパルクはどう思ったのか。ネイリンは……。

「やっぱり、筋が通ってしまうように思うんだがな」

 一通り話し終えて、ラパルクはいった。自分の論理に、もう一度納得したような顔だった。

「まあ。不自然といえば、死人を生き返らせる石はやっぱりある、ということになったり、ケースの呪いで人が亡くなったり、って不自然だらけな論理ではあるんだけどね」

「当たり前の現実感っていうか、世界観と照らし合わせたら不自然だけど……そんな石を代々守ってること自体、不自然というか、おかしいわけだからな。そんな家で起こった事件なんだから……」

「似合ってるといえば、似合ってるわよね」

「皮肉な話だけどな」ラパルクは肩をすくめる。「人を生き返らせる石に翻弄され、その石のせいで人が死ぬ」

 だが、話をそれで終えてしまっていいのだろうか。なにか忘れているような気がして、ネイリンは自分の頭をかるく小突いた。

「あ、そうそう。さっき、足跡のこといってたじゃない。そのほかにも、外部犯行説が、本当に考えられないのか、色々調べてたけど……」

「まあ、念のためな。だが、おれが考えたストーリー以外は、やっぱり考え難いんだよなぁ。だってよ、もし犯人が違う場合、まずジーナスさんをどうやって殺したか、っていう問題があるだろ?」

「部屋、密室状態だったもんね」

「ああ。あの密室を人為的に作るのはな……」

 確かに無理そうだ。あらためて調べて、その思いはいっそうのものにした。

「トーナスさんのほうはどうかな? もしジーナスさん以外が犯人だった場合」

「こっちの方が難しい。まず、どうやっておれたち三人の目を盗んでケースを開けたか」

「三人ともが寝てたとしても、ケース開けてるときに目を覚まされたら一発だしね。でも、」とネイリンはつづけた。「二人でも大して変わらないような気もするけど」

「まあ、そうなんだよな」ラパルクはいう。「むしろ、ジーナスさんが一番条件が厳しかったともいえる」

「……え?」ケースから鍵を取り出せたのは、ジーナスさんしかいない、というようなことをラパルクはいっていたように思うが。ネイリンは混乱した。

「たとえば……そうだなぁ、仮にリールさんが犯人だったとしようか。その場合、鍵を盗むため、おれたち三人が寝るのを待つ必要がある。そして、盗むときは、三人の目が覚めないように作業する必要がある。これが、リールさんが犯人だった場合の手間だな」ラパルクは二本指を折る。「で、リールさんが犯人だった場合のリスクは、うまく盗めたとしても、いつおれたちが目を覚ますか分からず、起きた場合、ケースから鍵がなくなっていることに気づかれるかもしれない、というものだ」

「うん」

「で、ジーナスさんが犯人だった場合は、鍵を盗むため、まずはおれたち二人が寝るのを待つことになる。で、おれたち二人に注意しながらケースを開けることになる」

「手間というか、やりやすいのは、ジーナスさんのほうだよね」

「ああ。だがリスクはジーナスさんのほうがずっと高いんだ。仮にリールさんが鍵を盗み、トーナスさんを殺していたそのころに、おれがたまたま目を覚ましたとしても、鍵がなくなっていることに気づく可能性は低い。そんな、鍵を注意していたわけじゃないからな。だけど、目を覚ましたときにジーナスさんがいなかったら、多少は周りのことに目がいくだろう。そのときに、ケースに目をやるかもしれない」

「……ジーナスさんだけじゃなく、鍵までなくなっていることに気がついたら、決定的だよね」

「そう。そういった意味では、ジーナスさんよりも、ジーナスさん以外の人間が怪しんだが……ジーナスさん、密室の中で死んでただろ。あれがな」

「ああ、そうか」少し混乱していたが、やっと頭が整理された。「ジーナスさんを殺すことはだれにもできなかった、というか、殺して逃げたとは思えない状態だった。彼を殺すことができたのは、超常的な力だけ。その力を持っているのは、無理やり開けられたケース。だから、ケースを開けたのはジーナスさん」

「っていう考え方だな。リスクは高かったが、まあ、やったんだろう、ジーナスさんは」

「ケースの呪い……」ネイリンは急に不安になってきた。「あたしたちは大丈夫だよね?」

「べつに、悪いことはしてないだろ?」

「そうだけど……」あ、とつぶやきネイリンはつづける。「で、足跡はどうするのよ? 調べるの?」

「調べるまでもないだろ。その可能性は、ないように思う」ラパルクはそういって、頭の後ろで腕を組み、上体を反らせた。「なんだか、疲れたよ」

「それは同感」ネイリンは腹部を押さえた。「……お腹へったね」

「ああ。あんま食ってねえしな」

「プライも食べてないけど、大丈夫かなぁ」

「動いてねぇんだから、まあ、大丈夫だろ。薬をしばらく飲めてねぇのが気になるけど」

 それから二人は、腹の虫の音をききながら、食事に呼ばれるのを待った。

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