表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/56

第二章 25

      25


 どれぐらい探しているのだろう。あらゆる場所を探した。床はすべて見たし、書き物机の引き出しの中や、その底の裏。クローゼットの中、布団を引き剥してベッドの中も見た。

 カーテンレールの溝、棚の中や裏側、ジーナスのズボンの折り返し、壁に隠し部屋やスペースの存在も意識して、壁をさわりながら仕掛けがないか調べた。

 なにもなかった。

 怪しいところは、どこにも見つけられなかった。

 石は――見つからない。

 ネイリンはロッテを見た。彼女は無表情だった。

 あせっていることだろう。リールが戻ってきたら、その時点で、石の捜索ができなくなる。少しぐらいなら引き伸ばすことはできても、あらかた調べてしまったのだ。これ以上調べるところもない。

 やはり、ジーナスは――死ぬ、ということか。

 今ロッテの心境はどんなものなのだろう。ネイリンは、きつく目をつむった。やっぱり、鍵なんか調べている場合じゃなかった。そんなことより、石を探す方がずっと大事だったのだ。

 だが、鍵を調べず、石を探したところで見つかりはしなかったのだろうが。

 あと、残された時間はどれぐらいだろう。

 リールが戻ってきたら、そのときが、ジーナスが本当に死ぬときだ。

 心臓の動きが徐々に速まってきた。

 葬儀は、どのような段取りで進むのだろう。墓穴を掘り終わって、今日すぐに埋葬するのか。主が石の捜索を、リールが墓穴を掘り終わるまで、と決めたのは、すぐに埋葬する段取りになっているから、という気がする。

 ロッテにきいてみようか――。

 ネイリンは口を開きかけたが、どうしても言葉がでなかった。

 今いうとしたら、そんなことではない気がする。

 しかし、だからといって感傷的なことをいう気にもなれない。

 父の死を目の前にしたロッテを前に、ネイリンはなにもいえなかった。

「なあ、ロッテ」ラパルクが口を開いた。

 自分はなにもいえない。卑怯かもしれないが、ネイリンは黙ったままで、やりとりを眺めることにした。

「他の場所を探した方がいいんじゃないか? ここが一番怪しくはあるが、これだけ探してないんだ。石は他の場所に隠した、と考える方が自然じゃないか?」

「もう時間はありません」ロッテは無表情にうなだれていた。「わたくしも、他の場所に隠した可能性は考えていましたが、ここに賭けたんです。残された時間を、この部屋の捜索に当てようと」ロッテは自嘲気味に笑った。「負けたんですわ、賭けに。お父様って、」彼女は、毛布をかけられたジーナスを見た。微笑だった。自嘲の色は消えている。「娘のわたくしがいうのもなんですが、ああ見えて――なんていったら怒られてしまうかしら。実はすごく頭のいい方でしたの。もし本気で隠そうと思ったら、わたくしたちには見つけられないのかもしれません」

 ロッテの表情は、先ほどまでのものとは違うものだった。なにかが抜け落ちたかのような表情だった。

「ううん」ラパルクは腕を組んだ。なにやら考えている。「本気で隠そうと、な」

 ネイリンとロッテは、その先を待った。

 ややあって、ラパルクが口を開いた。

「そういえば、ジーナスさんが――犯人だったとしてだ、その心境というものは、あまり考えていなかったな」

「……どういうこと?」ネイリンは口をはさんだ。ロッテが黙っていたからだ。

「ジーナスさんがトーナスさんを殺したとして、まあその場合、誤って、なのだろうが、どう思ったのか、そういったことだ」

「ジーナスさんがどう思ったのか?」

「ああ。自分のお兄さんを殺めてしまって、どう感じたのか。相当に動揺するんじゃないか?」

「それは、もちろん……」

「冷静に、隠し場所を考える、なんてことはできないよな?」

「どういうことでしょうか?」ロッテが不安そうにいう。情緒不安定気味なのか、表情がころころ変わる。

「いや、べつに、なにか考えがある、というんじゃないんだ。ただ、あまり、そういったことは今まで考えなかったな、と思ってな」泣き出しそうなロッテの顔を見てラパルクがうろたえる。「ま、石を盗み出そうと考えた段階で、隠し場所を考えておいたのかな。そして、とりあえずそこに隠した。そういうことか」

 なんだか、歯切れが悪かった。

 たぶん、兄を殺したものにしては、しっかり隠したものだな、そういいたかったが、遠慮したのではないだろうか。

 少し気になった。

 確かに、ジーナスの行動は、兄を殺してしまったものにしては妙――というか、冷静にすぎる。もしネイリンが――そんなこと絶対にないが――姉のセナを誤って殺してしまったら、動揺して隠すものも隠せないのではないか。それがたとえ、隠し場所を事前に用意していてもだ。

 しかしジーナスは隠して見せた。それどころか、今朝、起きぬけのネイリンと、いたって普通の世間話さえしたのだ。

 冷静にすぎる、という気もする。

 つまり――誤って殺したのではないのかもしれない。

 トーナスを殺すことも計算のうちだったのか。

 ネイリンは息を一つ吐き、さらに考えた。

 そもそもジーナスが石を探した理由はなんだろう。生き返り、というとんでもなく魅力ある力がある石だ。あるのならだれでも欲しがるだろう。そう考え、彼が石を欲した本当の理由をあらためて考えはしなかったが、これは真剣に考える必要がある。

 生き返りの力を自分につかおうとしたのか。それとも、売ろうと考えたのか。

 それは分からないが――いや、その前に、もし石をジーナスが手に入れた場合、この家での勢力図はどうなるのだろう。

 この家では、家督を継ぐものが石も継ぐらしい。いや、正確にいうのなら逆なのだ。

 石を手にしたものが、家督も継ぐ。

 もし、力ずくで奪ったなら――。

 力ずくで石を奪っても、家督はジーナスのものになるのか?

 たぶんならないだろう。だが、そのとき、つまり石を手中に入れたそのとき、家督を継ぐだろうと思われていた長兄が死んでいたら――。

 ガードナー家は、ジーナスのものかもしれない。

 ネイリンはラパルク、ロッテ二人を見た。視線は合わなかった。

 二人ともなにを考えているのだろう。……自分と同じことだろうか。

「お嬢様」

 突然の声に、背筋がひやりとした。

 声がして、はじめてリールが扉のところにいるのが分かった。

「用意は済みました」

 彼の言葉はつまり、ジーナスへの死の宣告だった。

 ネイリンは複雑な気持ちだった。

 もし仮に、今考えたように、ジーナスが計算づくで兄を殺し、石を盗んだなら、同情には値しないようにも思う。だが、そうだとしても、友だちであるロッテの父親には変わりない。

「……」ロッテは無言だった。

「オイスガーデ神士様もこられているようです」答えないロッテに、リールがつづける。「お嬢様……」

「分かっています」ロッテは顔を上げた。「参りましょう、お祖父様のところへ」

 諦めたのだろうか。感情的に諦められるようなことではないが――しかし石が見つからない以上、諦める他はないのだが。

 ロッテは率先して部屋をでた。ネイリンも、ラパルクとともに彼女につづく。

 廊下で、ルイが壁際に立っていた。視線はロッテを追っている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ