第二章 23
23
まずネイリンたちは、下の大広間に向かった。用事もあるが、ここを通るのが一番近い。
大階段を下りきってから、リールが口を開いた。
「よし、トーナス様を、ひとまずここに置かせてもらおう」そしてロッテを見やる。「お嬢様。鍵をケースに」
「ええ」
ロッテはケースに向かった。リールも後を追う。
リールは主から、ケースにあの部屋の鍵をしまうようにいわれている。目の前で確認したいのだろう。
ロッテはケースを開け、鍵をもとあった場所に置いた。ケースを閉め、鍵をかける。
「これでよろしいですわね。えっと……」といってロッテは思案顔でリールを見上げる。「この鍵をどうしましょう。お祖父様は、すべてが終わってから呼びこいとおっしゃっていましたが……」
「そうですね。私はこれから、庭に出て穴を掘らなくてはなりませんが……」
だれが鍵を保管するかで迷っているらしい。
ひとっ走り行って、主に鍵を渡してくればいいようなものだが。
まだ用事すべてが終わっていないにも関わらず、主の部屋に行くと怒られる――そう二人は思っているのだろうか。
ネイリンなどからしたら、主はただの感じのわるいじいさんだが、この家のものからしたら、威厳ある、恐れ多い存在なのだろう、きっと。
「あの……私が持ちましょうか?」ルイが、小さな声でいった。
ロッテとリールが同時に見る。ルイは首をすくめ、小さくなった。
「あの……お嬢様とお客様たちは、これからジーナス様のお部屋の捜索がありますし、リールとイボーは、穴を掘らなくてはなりません。私は、身体をつかってできることがありませんが、逆にいえば、落として紛らわせることがないと思います」
「ルイ、おまえ分かっているのか。この鍵は、このお屋敷に代々伝わる、それは貴重で大切なものなのだぞ。おまえごとき半人前が、」
「お任せしますわ」ロッテがリールの言葉をさえぎっていった。リールの口調にさらに小さくなっていたルイは、緊張したようにほほを紅潮させた。「ルイ、あなたにあずけますわ。絶対になくさないでね」
「はい!」ルイは背筋を伸ばして答えた。
おそらく同い年ぐらいの二人の間には、もう絶対的な上下関係ができてしまっている。
でもこれはこれで、当人同士では、心地よかったりもするのかもしれない。
ネイリンは複雑な気持ちで、そんなやりとりを見ていた。
「よろしいんですか?」リールは、不安そうな顔で見る。なにかあったときに、主に怒られるのはきっと自分だ――そう思っているのかも知れなかった。
「ええ。鍵はルイに任せます」
「ジーナス様は……」リールは口ごもった。いかがなさいましょう、とでもいいかけて、その表現は適切ではない、と思い直したのかもしれない。
「しょうがありません。葬儀の用意が済むまでは、あのままでいてもらいましょう。お祖父様だって、なにもおっしゃってはいなかったですし……どうしようもございませんし」
亡くなった人物を、墓穴が掘り終わるまでそのままにしておくのもどうかとは思うが、客人を一時待たせておく部屋みたいに、死体を一時保管する部屋などもないのだろうし、ロッテのいうように、まあ、しょうがないことなのかもしれないな、とネイリンも思った。
「では、ネイリン、ラパルク」ロッテは二人を見た。「お父様の部屋に向かいましょう」そして使用人たちを見る。「あなたたちは、しっかり穴を掘ってね」
「はい」とネイリンは、リールたちにつられて、つい敬語で返事をしてしまった。