第二章 21
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「まずは、あの部屋から捜索しましょう」そういってロッテは、階段を上り始めた。
あの部屋とは、いわずもがな、あの封印された部屋だろう。
石が鏡から出ているのなら、そして、それをめぐり兄弟の間でいさかいが起こり、そして兄が弟に殺されたのなら、石がある可能性の一番ある部屋は、弟ジーナスの部屋だろうと推測される。だが、この期に及んでは、あまりそういった蓋然性を指摘する気にはならなかった。
石を手にしたと考えられるジーナスが、すでに死んでいることから、彼が石を持っていたとしても、その場所が移動するということが考えにくい、ということもあるし、あの部屋を早く封印しなくてはいけない、ということもある。だがそういった理屈以前に、行かなくてはいけない、そう思わせる雰囲気があの部屋にはあった。
石の捜索といえば、まずはあの部屋なのだ。
まあ、ロッテの父親であるジーナスの死体の部屋にもう一度行くのを、少しでも遅らせたい、というのもあるが。
――ロッテは、どう考えて、あの部屋から探そうといいだしたのだろう。
ネイリンは、彼女の後を追って階段を上ろうとした。その肩をラパルクにつかまれた。
「ちょっと待ってくれ」ラパルクがロッテの背中に声をかける。「その前に、調べたいことがある」
ロッテが階段の途中で振り返る。なんとなく、その様子が危なっかしくネイリンの目には映った。
「はい、なんでしょう」
「ケースを先に調べてしまわないか? さっきから、気になっていたんだ」
なにかいおうと口を開きかけたロッテだったが、ラパルクはそんな彼女に見向きもせず、さっさとケースの前に移動した。
ネイリンとロッテも、彼の後につづいた。
「調べるってどうするの?」ラパルクの背中に、ネイリンはきいた。
「こうするんだ」そういって、おもむろにケースをつかみ持ち上げようとした。
「ちょ、ちょっとラパルク、なにしてるの?」あわててネイリンはいった。リールやロッテも驚いたように、あ、と声をだした。「そのケース、下手に触ると呪いがかかるかもしれないんだよ」
呪いが本当にあるのかどうかは、実際に見たわけではないからいいきれないが、呪いのことはロッテもいっていたし、それに先ほどのラパルクの論理で、その可能性はますます高まったのだ。触らないことに越したことはない。
「だが、ちゃんと確認してみないと」ラパルクはそういって、あらゆる方向に力をかけている。「今じゃないとできないんだ」
「どういうことよ」
「この事件のことを考えるとき、このケースの密閉性は重要な要素だ。だが、そのわりには、あまり調べていなかっただろ? 本当に鍵がないと開かないのかどうかは、調べてみる必要があると思ってたんだ」
「まあ、そうかもしれないけどさ、でも、開かないんだと思うよ。だって、もし開くなら、もっとずっと前に誰かが中の鍵を取りだして、あの部屋を開けるなりなんなりするでしょ?」
「まあな」ラパルクはうなづく。「あの部屋が、いまだ封印された部屋として認識されていることが、このケースの密閉性を裏付けているとも思うが、だが確認することは大事だろ?」
「そりゃそうかもしれないけど、」ネイリンはいって、一歩後ろに下がる。「でも呪いが本当かもしれない、っていったのは、あんたなんだよ。よくそう思ってて触れるね」
ロッテをはじめとして、この屋敷の住人が、このケースの呪いについてどの程度信じていたのかは分からないが、再命の石のように信じられない話がごろごろ転がっている屋敷だ。もしかしたら、呪いもあるのかもな、ぐらいには思ってたのだと思う。ネイリンも、そんな認識で、進んで触ろうとは思っていなかった。そんな屋敷で不可思議な事件が二つも起こり、考えた結果、ケースののろいの可能性が高まった今となっては、頼まれても触る気にはならない。
やっぱり男は勇気があるな、とネイリンは思い、賢い女に生まれてよかったと思った。
「だが、今なら大丈夫のはずなんだ」
「なんで?」今が一番危ないように気さえする。
「鍵がない」ラパルクは、ケースを開けるため、あらゆる方法を試している。
「鍵って……」
「この中に入っていたあの部屋を開ける鍵だ。それが入っていないんだから、万が一このケースが開いちゃったとしても、鍵を盗もうとしたことにならないだろ?」
「あ、なんだ。しっかりビビッてんじゃない、あんたも」
「ビビッてるんじゃない。バカじゃないってだけだ」ラパルクはそういってケースからはなれた。「このケース、やっぱりどうやっても開かないな」
――ジーナスさん、どうやって開けたんだろうな。
そうつぶやくようにいって、ラパルクは階段に向かった。
ネイリンは、ロッテとかめを合わせ肩をすくめた。