第二章 8
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しばらく五人で、世間話をしていると、ベルの音がきこえた。
「あ、旦那様がお呼びだから、いかなくちゃ」とカーテが立ち上がった。
ベルをよく見ると、その上に糸がつながっている。主の部屋で、それを引っ張ればベルが鳴る、という仕掛けだろう。
場の主導権を握っていた、というかほとんど一人でしゃべっていたカーテが立ち上がったことで、なんとなくお開きにしようかという空気になった。ネイリンたちは、特にすることもないが、彼らは、これからお昼の用意をしなくてはいけない。
ネイリンは手伝おうかとも思ったが、プライの様子も、そろそろ見に行きたかったので、いったん、厨房をでることにした。
ネイリンとラパルクは、カーテとともに大広間まで行き、そこで分かれた。
二階に上りプライの部屋に入ると、彼は先ほどと同じ体勢のまま眠っていた。
「プライ、どうなんだろうな」ラパルクが、彼の顔を覗き込みながらいう。
「どうって……。顔色はよくなってる気がするけど」
「とりあえずは、様子を見るしかないか」
「うん」ネイリンは、イスに座ってから口を開いた。「ねえ、ラパルク」
「あん?」彼も、向かいの席に座る。
「ロッテのおじさん、どこ行ったんだろうね」
「どこ行ったって、そりゃ、さっき、ルイーザさんのとこじゃないか、って話になったろ」
「カーテさんはそう思ってるみたいだけど、べつに証拠はないじゃない?」
「証拠っておまえ。べつに、どうだっていいことだろ? おれは、興味ないけどな」
「ほんとに? ラパルク。ロッテのおじさん、あの部屋にいるんじゃないかな、とか思わない?」
ネイリンがそうきくと、彼はいぶかしそうな表情をした。
「思わねえよ。さっきは、それ聞かないと不自然だっていう理由でルイにきいただけだ」
「でも……」
「でももへったくれもねえよ。あの部屋は入れない部屋なんだぞ。いるわけないだろ、そんなとこに」
――いるはずないからこそ、いたら面白いと思わないもんかなぁ。
「そうだけど……。でもさ、入れないっていうのは、ロッテがいってるだけじゃない? ほんとは、どうにかすれば入れるのかも」
「例えば?」
「例えば……」べつに、なにか案があるわけじゃない。「あの鍵の入ったケース、あれ実は、鍵がかかってないとか」
「ケースの鍵がフェイクって? 何でフェイクにする必要がある?」
「知らないけどさ」思い付きでいっただけだ。「でもなんかなぁ、腑に落ちないんだよね」
ラパルクは、肩をすくめて先をうながした。
「だってさ、あの部屋封印するなら、あのケースとか要らないじゃない。あの部屋の鍵を主が持ってればいいだけでしょ? あの部屋の鍵の入ったケースの鍵を主が持ってるのって、二度手間っていうか、なんかわざとらしい」
「たしかにな」ラパルクは手を組む。「だがなぁ、だからといって、あの部屋にトーナスさんがいるとはかぎらないだろ? それとこれとは別問題だ」
別問題といえば別問題だが……。
その後、ネイリンとラパルクは、昨日からのことをいろいろとはなした。もっぱら、話の内容はルイーザさんのことだった。彼女のフィアンセが行方不明だから、というわけでもなく、彼女の存在は、けっこうインパクトがあったからだ。
あんな人って、なかなかいないよねぇ――みたいなことを、二人でいいあった。しかし、そういった議論の末、重大な事実が発覚した。どうやらラパルクは、彼女が嫌いなタイプではないらしい。
男はみんな馬鹿なんだな、とネイリンは一人がっかりする。