第二章『鏡の中に石、あるいは鏡の部屋に意思』1
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ふと目覚めると、そこは大広間のソファの上だった。目の前にある暖炉の火は、半ば消えかかっており、ネイリンが起きて最初にしたことはくしゃみだった。
目をこすりながら見回すと、ラパルクがネイリンの寝ていたソファに寄りかかって寝ていた。だれがかけてくれたのだろう、彼とネイリンの身体には、毛布がかかっていた。
ネイリンは頭を抱え、ため息をついた。
ラパルクは袖のない服一枚だし、ネイリンだって、そう厚着をしていたわけではない。プライが治っても、ネイリンたちがカゼをひいたのではどうしようもない。
――なにやってんだろ……。
「お目覚めかな?」
ジーナスのひかえめな声が聞こえた。起きていたんだ。ラパルクを起こさないため小さな声でしゃべっているのかな、と思ったが、どうやら違うらしい。声のしたほうを見ると、隣のソファで、ジーナスがおでこに手を当てていた。二日酔い、というやつだろう。
「いや、昨夜はすまなかったね。なんだかつき合わせてしまって。お嬢さん方は、お客さんだ。本来ならゆっくりとベッドで休んでもらわなくてはならないのに」
殊勝なことをいっている。
たしかに、身体も疲れているし、今はとくにベッドを欲しているが、べつに断りきれなく遊んでいたわけではない。今までの旅で、身体もだが精神的な疲れもあった。昨夜の馬鹿騒ぎはいいリフレッシュになった。だから、後悔は……若干してるな、とネイリンはうなだれた。
「大丈夫ですか? なんか顔色が悪いみたいですけど」ネイリンは気安い口調で聞いた。
昨夜いいことがあったとすると、ストレス発散もあるが、ジーナスと親しくなれたことだろう。ガードナー家の人間と仲良くなってわるいことなど、今の立場にはない。
それに、よくよく接してみると、彼は思ったほど感じのわるい人間ではなかった。兄に対するコンプレックスからくるものだと思っていた嫌味な物言いや、斜に構えた態度も、今となってはシャイな人間の照れ隠しに思えて仕方ない。ネイリンは今や、ロッテだけではなく、父親のジーナスにも好感を持つようになっていた。
「よくロッテにいわれていることだ。どうやら俺は、いつもこんな顔色をしているようだよ」といって唇を捻じ曲げる。
「きっと心配してるんですよ。でも、そういうのって、なかなか素直にいえないから」
とくにロッテは、そういうことを素直にいえない性質だろう。それは、相手のジーナスがいいやすい関係を築けていない、ということもあるのだろうが。
ジーナスは意外そうな顔でいった。
「君は、なんだかずいぶんロッテと仲良くなったようだな」ジーナスは髪をかきあげ、立ち上がった。そして、ネイリンを見ずにいう。「旅人にいうことでもないかもしれないが、よかったら、これからも仲良くしてやってくれ。あの子には、ずいぶん寂しい思いをさせているが、親がどうがんばっても、埋めてやることができないものっては、あるみたいだからな」
なんだか、朝っぱらからへんな会話をしているな、とネイリンはくすぐったいような気持ちになった。妙なテンションは、まだ持続しているらしい。でも、胸がほんわかとあたたかく、わるい気分じゃなかった。それどころか、こんな一瞬のために、退屈な日常というものがある気もする。
「友だちがどうがんばっても、埋められないものってのもある気がしますよ」
恥ずかしさを意識しながらも、ネイリンはいった。ジーナスは、ふらふらとした足取りで大広間をでようと廊下に向かっていたが、後ろ手に軽く手を振った。




