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八星の勇者に選ばれた少年リアム  作者: TO
第4章 君へと灯る、鬼の焔
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第90話 リアムの名を持つ者

 魔女の二人が、静かに語り始めた。


「彼? リアムのこと?」


「他に誰がいるの。」


 短く返すその声音に、焦燥が混じっていた。

 メルティナは小さく息を吐き、静かに答える。


「彼は、私たちの器よ。」


 その言葉に、シエナの瞳が細く光る。


「それくらい、もう気づいてるわ。」


「遅くない?」

 

 メルティナが微笑みながら言う。

 それはからかいでもあり、どこか懐かしさの滲む笑みだった。

 シエナはその笑みを受け流し、静かに言葉を返す。


「私が、自分の血を宿した人間を見間違えるわけがない。

 それでも違和感があるの。

 ……あの子は普通じゃない。」


 メルティナは微笑みを消した。

 真剣な瞳で、シエナを見つめ返す。


「何を聞きたいの?」


 シエナの紅い瞳が、微かに揺れた。


「色々あるけど……まず一つ。

 彼は――なぜ、生きているの?」


 その問いに、メルティナは沈黙した。

 そして、ゆっくりと手で額を押さえた。


「……流石ね。

 そこに気づけるだけでも、やっぱりシエナだわ。」


 だが、シエナは食い下がるように続ける。


「彼を生かしているのは、まさか──」


「そこまでよ。」


 メルティナが、穏やかに、しかし確固たる声で遮った。

 その声音には、微かな哀しみが混じっていた。


「もう、私たちの魂と能力は……リアムの体の一部。

 だから私たちは何もできない。

 彼が自分で歩き、前に進むのを、ただ見守るしかないの。」


 シエナは眉をひそめた。


「……それで、彼がもし真実を知ったら?」


「その時こそ、彼は自分の運命を掴むでしょう。

 自分がどのようにしてこの世界に来たのか。

 私たちが、なぜ彼を選んだのか――その全てを。」


 メルティナの声は静かだった。

 しかし、その瞳は、決意に満ちていた。

 シエナはその瞳を見つめ続ける。

 互いの沈黙が、時間の流れを止めたかのようだった。

 長い沈黙の後、シエナが息を吐いた。


「……わかったわ。あなたを信じる。」


 メルティナの表情が和らぐ。


「ありがとう、シエナ。」


「……一応、聞いておくけど。

 私は、彼にどう接すればいいの?」


 メルティナは手を合わせ、困ったように笑った。


「もう少し、優しくしてあげて。」


 シエナは露骨に顔をしかめた。


「私は静かが好きなのよ。

 誰かに干渉されるのも、話しかけられるのも、全部煩わしい。」


 メルティナは肩をすくめるように笑う。


「昔のあなたを思い出して。

 人や動物を愛していた、あの頃のあなたを。

 リアムはね、私たちを超えて、私たちが願ったささやかな願いを叶えてくれる存在よ。」


 シエナは視線を落とした。

 胸の奥に、わずかな痛みが走る。

 昔の自分――そんな言葉を聞いたのは、何百年ぶりだろう。


「……考えておくわ。」


 その言葉に、メルティナは微笑んだ。

 そして、空間の奥から蒼い風が吹き抜ける。


「そろそろ、私も戻らなきゃ。

 本当はもう少し話したいけど……私たちが持ち場を離れすぎると、リアムの体に影響が出ちゃうから。」


 蒼い羽根が広がり、光が空間に溶けていく。

 シエナは何も言わなかった。

 ただ、見送るように目を細める。

 メルティナは最後に、穏やかな声で言った。


「ありがとう、シエナ。

 貴方が彼に少しでも優しくしてくれたら、それで十分よ。」


 蒼の光が完全に消える。

 再び、闇と重力だけがこの空間を支配した。

 シエナは、誰もいない空を見上げ、呟いた。


「……まったく、面倒な子たちね。

 でも――本当に、私のささやかな夢が叶うのなら……」


 彼女は小さく笑った。

 その笑みは冷たくもあり、どこか人間的でもあった。


「……せめて、静かに夢を見させて。」


 闇が広がり、空間が静かに閉じていく。

 彼女の瞳の奥に、ほんのわずかな光が残っていた。



次回:記憶の断片

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