第81話 アルトvsゼノ前半
──ヴァルラグナ遺跡。
崩れかけた石柱の森に、雷鳴が夜空を裂いた。
燃え残る魔力の残滓が、空間を歪めている。
レオンと影狼が外へ飛び出し、遠くへ消えていく。
残されたのは、二人だけ。
アルトとゼノ。
拳と拳――欲と欲がぶつかり合うために。
◇ ◇ ◇
「……あれがレオンの本気か。 スゲーな……」
アルトは、空を切り裂く光を目で追いながら呟いた。
その横顔に、わずかな羨望と興奮が混じっていた。
「よそ見をしている場合か、八星!」
怒号とともに、ゼノが踏み込む。神器鬼人の拳が唸りを上げ、右の拳が風を裂いた。
アルトは反射的に腕を交差して受け止めたが――
「うっ……!」
腕の奥から、熱が抜けていく感覚。
骨の髄から力が吸い取られていく。
ゼノの拳が、笑うように輝いた。
「やっぱり……先のゴーレムと同じか。
力を吸収するタイプ……だが、吸収力が桁違いだ……!」
「その通りだ。教えてやるよ。」
ゼノは拳を構え直し、黒い欲の炎をまとう。
「この神器鬼人の拳は、触れた相手の欲を吸い取り、俺の力として取り込む。
限界なんてものはない。
欲がある限り、俺は強くなる。
命脈さえ、これで得た。」
◇ ◇ ◇
「命脈だと!?」
アルトの瞳が見開かれた。
「リアムと違って、異世界人なのに命脈を使えるのかよ……!」
「驚くのはまだ早い。」
ゼノは静かに笑った。
その笑みには狂気が宿っていた。
「俺の命脈は――お前と同じ、貪欲だ。
自分の欲が強ければ強いほど、限界を超えて強化される。」
「……ははっ。マジかよ。
被りすぎだろ……。」
アルトは頭をかきながら、拳を握り締める。
『俺と同じ能力で、戦い方まで。まるで鏡写しだ。
……だが、今回だけは負けられねぇ。』
思い浮かぶのは、リアムの顔。
──「アルト、あとは任せた。」
その声が胸の奥で蘇る。
「リアムは俺との約束を守り果たした。
……だから、今度は俺の番だ。」
アルトは拳をゆっくり構える。
「この拳で、お前を倒して神器を取り戻す。
――それが、俺とあいつの約束だ!」
彼の全身に、赤い光が灯る。
欲の輝きが脈動し、命脈が反応した。
ゼノの目が鋭く細まる。
「……来いよ、八星!」
二人が同時に踏み込む。
衝突の瞬間、遺跡全体が震え上がった。
轟音。
破砕音。
拳と拳が交差し、石柱が次々に砕け散る。
「っらぁああああああ!!!」
「ぐぅぅぅっ、くそっ!」
殴り、殴られ、返し、打ち合う。
そのすべてが、意地の塊だった。
──数分。
誰が先に倒れるかも分からないほど、
互いの動きは狂気的なまでに速かった。
二人が同時に踏み込む。
衝突の瞬間、遺跡全体が震え上がった。
──その拳に宿るのは、勝利か、破滅か。
次回:アルトvsゼノ後半
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