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異世界で目覚めた少年、八星の勇者に選ばれる  作者: TO
第1章 リアムと八星の出会い
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第8話 神殿の地下で目覚める真実 ―少年リアムの秘密―

──風が、焼けた大地をなでていた。


旧エルデン都市跡地。

かつて豊かな森と川に囲まれ、人と精霊が共に暮らしていたはずのその土地は、今や黒く焦げ、沈黙の荒野と化している。


わずかに立ち上る硫黄の匂いと、焦げた骨のような灰。風が運ぶたび、地表にこびりついた血の残滓が舞い上がる。


「……ここが、あの少年が暴走した場所か。」


黄金の双眸が、焼け焦げた空を見上げる。

 

八星騎士団団長――レオン=ドラグナイト。

 

その姿は堂々としておりながらも、どこか痛みを抱えたような静けさを纏っていた。


彼の隣を歩くのは、深紅のローブを纏った


女魔導士――セラ=フェリス。

 

八星騎士団団員の魔導士であり、魔術の天才。

今回の調査では、分身体としてレオンと共にこの地に派遣されていた。


「……空気が重い。魔力の残滓がまだ消えていない

 わ。まるで、あの日の時間だけがここに残っている

 みたい。」


セラの蒼い瞳が地面に降り注ぐ。

土は黒く焦げ、溶けた岩が固まったようにねじれている。生物の気配はなく、鳥すら鳴かない。まるで死の沈黙に包まれていた。


背後には、王国から派遣された、王国騎士団の部隊――約三百名。

彼らは一糸乱れぬ行進を続けながらも、誰もが胸の奥で震えていた。


この地で数万の命が、たった一人の少年の暴走によって奪われた――その現実を、誰もが知っていたからだ。


「レオン団長……この辺り、一帯の魔力反応が

 異常です。」

 

副官の騎士が魔力測定器を覗き込みながら声を上げる。


「生体反応はありませんが……瘴気が強い。まるで何

 かがまだ、息をしているような……。」


「怯えるな。」

 

レオンの声が静かに響く。


「ここは死地ではない。――真実を見つけ出すための

 場所だ。」


その一言で、騎士たちの緊張がわずかに緩む。

彼の言葉には、不思議と恐怖を封じる力があった。

やがて、隊列の先頭にいた探索班が声を上げた。


「団長! 東の丘陵下で、地下構造らしき反応を見つ

 けました!」


レオンとセラが駆け寄ると、地面の一部が不自然に陥没していた。崩れた瓦礫の隙間から、古びた白い石壁がのぞいている。

 

その中央には、封印の紋章――円環を七つ重ねた奇妙な文様が刻まれていた。


「……やはり、神殿が存在していたのね。」

 

セラが呟く。


レオンが言う。

 

「神殿は確認されていただろう。それより解錠魔法を

 使えるか?」


「ええ。ただし……異世界の魔法封印よ。私でも、少

 し時間がかかるわ。」


セラが両手を掲げ、詠唱を始める。


封印解析式アンロック・コード・ゼロ――起動。」


淡い蒼光が紋章を包み、石壁が鈍い音を立てて震えた。やがて封印が砕け、内部への階段が静かに口を開いた。


「行こう。――真実が眠るなら、ここだ。」


レオンが一歩踏み出す。

騎士たちは緊張した面持ちで後に続いた。


◇ ◇ ◇


「血は魂を呼ぶ、だが魂は血を拒む……か。

 まるで、警告のようだな。」

 

レオンの低い声が響く。セラは祭壇から離れ、奥の机の上に散らばる羊皮紙を手に取る。古びた紙にはびっしりと走り書きのような魔術式、実験報告、血液反応の記録。その中の一枚を見て、彼女は息を呑んだ。


「……対象:リアム。年齢、三歳。

 体質:血の継承体質(先天性)」


「……三歳? ありえない。

 リアムは身長的にも十二歳から十三歳だぞ。」


机の上の書類を指で叩きながら、レオンは低く唸る。

 

「三歳の子供が、あの膨大な魔力量を?

 それに、言葉の理解力も――どう見ても幼児では

 なかった。」


セラは腕を組み、視線を報告書に戻す。

 

「魔力暴走による肉体の異常成長……もしくは、魂と

 肉体の成長速度の乖離(かいり)かもしれないわね。

 けれど、私はそれ以上に気になる点があるの。

 血の継承体質(先天性)――この一文よ。」


「先天性? つまり……リアムは、元々その体質を

 持っていた?」


「ええ。彼は元いた世界で生まれた普通の人間よ。

 けれど、その血が特異だった。

 他者の血を媒介に、その能力だけを継承できる

 ――極めて希少な体質。」


「……しかし、奴らは知らなかったんだな。」

 

レオンの目が鋭く光る。


「血で能力は継げても、魂までは取り込めぬこと

 を。」


セラは小さく頷いた。

 

「ええ。報告書には魔女の魂と力を器へ移すと記され

 ているけど、この儀式、魂転移の理論がまるで理解

 されていない。

 体質の限界も……完全に見誤っていたのね。」


レオンは手にした羊皮紙を握りしめた。

 

「つまり――リアムは、知識なき信仰の犠牲者か。」


神殿の奥には、幾つもの子どもの名前が刻まれた石板もあった。その多くに失敗と赤く記されている。

リアムだけが、成功例。


それが何を意味するのか、二人にはすぐに理解できた。


「……奴らは、成功だと信じた。

 けれど実際は、魂が定着していなかったのよ。」

 

セラの声が震える。


「血の継承体質は、あくまで能力を受け継ぐだけ。

 魂は異物として拒絶される。

 リアムの体は、その魂を受け止められず、内部で

 衝突を起こした。――それが、暴走の正体。」


レオンは拳を握りしめた。

 

「……子どもの体で、それを耐えたというのか。」


セラは目を閉じた。

 

「ええ。普通なら即死よ。でも、彼の魔力量は魔女の

 能力を取り込んで異常に高い。もしかしたら、急な

 魔力上昇により、幼い姿では魔力を留められず体が

 急成長したのかもしれないわね。

 

 さらに、彼の中に宿った七つの魂が互いに干渉し、

 存在を維持するための魔力循環を作ってしまった

 のね。その結果、暴走を抑えるための抑止が効か

 ず、力が暴発した。」


◇ ◇ ◇


──王都アルセリア。

 

黎明の光が王城を染めていた。

夜明け前の静寂の中、尖塔をかすめた風が、まだ眠る街を撫でていく。


王城の最上階、謁見の間。

 

国王アリステア三世は机に肘をつき、重厚な報告書を手にしていた。蝋燭の炎が微かに揺れ、書面に刻まれた文字が不吉な影を落とす。


「……血の継承体質──。人が人でありながら、

 他者の力を血から取り込む特異な体質、か。」


彼の声は低く、だが確かな怒りと困惑が滲んでいた。

報告を終えたのは、八星騎士団レオンとセラ。

ふたりは深く頭を下げ、沈黙の中で王の言葉を待っていた。


やがて、アリステア三世が視線を上げる。

その瞳には、迷いと決意の両方が宿っていた。


「……この報告書にあるローブの組織というのは、

 何者なのだ?」


レオンが一歩前へ出る。


「陛下。我らも詳細までは掴めておりません。

 ただ、報告書によれば――彼らは七人の魔女を

 神のように崇拝する狂信的な集団とのことです。」


セラが静かに続ける。

 

「彼らは血の継承体質を自分たちの求めた物だと

 信じ、リアムを魔女の器する為に誘拐しました。

 しかし、彼らの理解は誤っていた。


 血によって継承できるのは、あくまで能力だけ。

 魂そのものは、継承できません。」


アリステア三世は眉をひそめた。

 

「……つまり、彼らは魂を宿す器を見つけたが、

 その判断を誤ったのだな。」


「はい。」

 

セラの声には、研究者としての哀しみが滲む。


「本来、魂を受け入れるには空っぽの精神の器が必要

 です。血の継承体質を持つリアムでさえ、魂を受け

 入れられず拒絶反応を起こしました。

 それが暴走の正体です。」


レオンが拳を握った。

 

「ですが、あの少年は暴走の最中……自らそれを抑え

 込もうとしました。我らが止めたのではない。

 リアム自身が、自分の意志で止めたのです。」


静寂。

 

アルステア三世はしばし目を閉じ、深く息を吐く。

重い空気が謁見の間を包んだ。


「……そうか。ならば、まだ救いはあるな。」


その声には、王としての覚悟と、ひとりの人間としての慈しみが同居していた。


「レオン。」

 

王はゆっくりと立ち上がり、窓の外の黎明を見つめる。


「私が夢見た異種族と人が共に生きる国――それを築

 くためには、彼のような存在を守らねばならん。

 

 人は、理解できぬものを恐れ、恐れるものを

 排除する。だが我らはそれを、共に歩む力へ変えね

 ばならぬのだ。」


「陛下……。」


「リアムを兵器ではなく、希望として育てよ。

 お前とセラになら、それができる。」


レオンは深く頭を垂れた。

 

「──必ずや。」


◇ ◇ ◇


夜、動き出す影


王都の上空を、黒い霧がゆっくりと覆っていた。

霧の中心――浮遊する岩盤の上に、あのローブの男が立っている。


その背後には、同じ黒衣を纏った影が数人、膝をついて並んでいた。


「……器は完成した。

 だが、魔女様の魂を拒絶するとはな。」


男の声は低く、風よりも冷たい。足元には割れた瓶の欠片。そこから魔力の残滓が煙のように立ち上っている。


「報告によれば……リアムの中に、魔女様たちの

 意識がまだ残っているとのことです。」

 

ひとりの信徒が頭を垂れながら言う。


「魔女様の魂そのものは拒絶したはず

 ……なぜ意識が?」


ローブの男はゆっくりと目を閉じ、乾いた笑みを漏らした。


「――血の継承体質。あの少年の特異な力が、我々の

 想定を超えていたのだ。能力しか受け継げぬはずの

 血が、魔女様の魂までも結びつけた。


 それが我らにとっての誤算であり――同時に、僥倖

 でもある。」


風が吹き抜け、霧が渦を巻く。

彼の黒衣の裾が揺れ、下から赤い紋章がちらりと覗いた。


「結果として、器は生きた。

 だが今、奴の中で魔女様の魂が封じられている。

 つまり――まだ完全ではない。」


「では……計画は失敗だったのですか?」


「いいや。」

 

男の口元が歪む。


「封印があるなら、解けばいい。

 さすれば器は再び動く。

 そして今度こそ――魂も、力も、我らの手に。」


その瞬間、背後の信徒たちが声を合わせて祈りを唱え始めた。

 

異世界語の旋律が夜空を震わせ、王都の上空に黒い陣がゆっくりと浮かび上がる。


霧の中で、仮面の奥の瞳が赤く光った。


「我らの神はまだ目覚めていない。

 だが、鍵は手の中にある。

 ――あとは、扉を開くだけだ。」


そう呟いた瞬間、霧が破裂するように散り、男たちの姿は夜に溶けた。

 

残されたのは、空に滞留する淡い黒の魔力――それはまるで、封印が再び動き始めたことを告げる狼煙のようだった。


◇ ◇ ◇


――同じ頃。


リアムは夢の中で、ひとりの女性と出会っていた。

そこに一人の女性が立っていた。

長い白金の髪を風に揺らし、淡い光を帯びた瞳がリアムを見つめている。


「……あなたは……?」


その存在は明らかに人間ではなかった。

けれど、なぜか懐かしい温かさがあった。


「あなたは……だれ?」


「私はメルティナ・ロゼリア。七人の魔女の一人よ。

 あなたの内側に眠る記憶を見守る者。」


◇ ◇ ◇


夜明け。


王都の鐘が鳴り、朝が訪れる。

だがその音の裏で、ローブの影たちは静かに動き出していた。


七人の魂を巡る戦いは、今まさに幕をを開けようとしている。


――そして少年リアムの物語は、ここから真実へと踏み出す。



次回: 夜の図書館

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