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異世界で目覚めた少年、八星の勇者に選ばれる  作者: TO
第3章 新たな八星の出会い
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第70話 リアムvsバスティル中盤

 リアムの拳が震えた。怒りでも、焦りでもない。

 それは――決意の震え。


「……なら、見せてやる」


 リアムが深く息を吸う。

 銀色の光がその全身を包み込んだ。


「――魔力質変換(まりょくしつへんかん)(マナ・シフト)!」


 その瞬間、世界が揺らぐ。

 風が逆巻き、空気がきらめく。

 そして――魔物たちの動きが止まった。


 バスティルが目を見開く。


「……何?」


 次の瞬間、魔物たちは一斉に方向を変えた。

 牙を向けた先は――ローブ姿の教団戦闘員たち。


「う、うわあああっ!? なぜだ、やめろっ!!」


 混乱が広がり、黒い影が教団兵を噛み砕く。

 血飛沫が上がり、戦場が一変する。

 バスティルは驚愕に声を失った。


「どういうことだ……!? 貴様、何をした!」


 リアムは静かに答える。


「簡単なことだ。

 お前たちは魔物を操るために魔力で命令するチップ制御を使っているな。」


「……そうだ。それがどうした。」


「その命令を、無理やり上書きしただけだ」


 バスティルの顔が凍り付く。


「不可能だ。

 我らの魔力以外には反応しないよう作られている!」


魔力質変換(まりょくしつへんかん)(マナ・シフト)は、シンプルな魔法だ。」


 リアムの瞳が淡く輝く。


「俺の高すぎる魔力質を使って、お前の命令を無理やり上書きした。

 魔力質の差で押し切った。

 俺だからできる。」


バスティルは後ずさる。


「馬鹿な……!」


リアムは腕を上げ、静かに命じた。


「――村の人たちを助けて、隠れていろ。」


その言葉に応えるように、魔物たちは村人を背にせ、瓦礫の影へと運び出していく。

鬼人たちは呆然としながらも、リアムの指示に従い避難を続けた。

戦場に残ったのは、バスティルと教団兵たち、そしてリアムだけだった。


「……これで終わりだ、バスティル。」


黒鎧の男が歯を食いしばる。


「リアムよ……なぜ貴様はそこまで強い。」


「……?」


バスティルの声は、戦場のざわめきの中でもはっきり聞こえた。


「最初は魔女様の力を受け継いだのだと思っていた。

 だが違う。

 アルメリアで戦ったときから分かっていた。

 貴様のアルメリア戦での強さは技術力と決断力だ。

 魔力制御も未熟、神器の扱いも稚拙。

 だが判断は速く、戦いは鋭い。

 今ではその強すぎる魔力質を完璧に近い形でコントロールしている。

 ありえない。 

 あれほどの魔力質を数日でコントロールするなど人間ができる所業ではない。

 魔女の力など関係ない。……ありえん。

 お前は空っぽの器のはずだ。

 本当に貴様は何者だ。」


 リアムは沈黙した。

 そして、心の中で呟く。


『……知るか。......でも、時間を稼げるなら――』


 リアムは言葉を紡いだ。


「答えだが、俺はこの世界に来たとき、セラに魔女の力と膨大な魔力を封印してもらった。

 だから今は魔力は少ない。

 封印完璧じゃねぇけどな。

 この世界の魔法師の十倍くらいの魔力はある。

 でも、質の差で言えば誤差だ。

 だからコントロール出来るようになった。

 多分?」


「……封印? そんなことが……」


 バスティルの声が揺れた。

 雷鳴のように響いていた威圧が、一瞬、途切れる。

 理屈が通らない。

 理解できない。

 それが彼にとって、何よりも恐ろしいことだった。


「満足か?」


「納得できん!」


 バスティルの声が怒号に変わる。


「何故だ……何故、三歳の子供が、これほどまでに戦いを知っている!?

 数ヶ月で、その技術と判断力を得るなど不可能だ!」


 リアムは肩をすくめた。


「知るかよ。 できたんだから、仕方ないだろ」


 バスティルは一瞬黙り、そして、息を呑む。


「……齢三歳。 特別な体質。 天才的な才能。

 他にも幾つかの予言と条件が一致する。

 ……まさか、お前の正体は――」


 その声は震えていた。

 理解してはならない何かを、理解してしまった者の声だった。

 リアムの目が細くなる。


「興味がない」


 その声に呼応するように、リアムの神器千変万化の糸が震えた。


次回:リアムvsバスティル後半

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