第7話 八星を導く者たち
──アルセリア王城・謁見の間。
荘厳な光が差し込む白亜の大広間には、静寂が張り詰めていた。高くそびえる天井には精霊の加護を象徴する紋章が刻まれ、青白い光がステンドグラスを通して床に落ちる。
その光を受けながら、玉座の前に二つの影が立っていた。
八星騎士団団長──レオン=ドラグナイト。
八星騎士団団員──セラ=フェリス。
二人の前には、異種王の異名を持つ男が立っていた。
アルセリア王国第十三代国王、アリステア三世。
その眼差しは常に穏やかでありながら、どこか人知を超えた深みを宿していた。
「……そうか。八星の一人を見つけたのだな。」
その声には重みと、そして僅かな安堵が混じっていた。レオンが一歩前に出て、深く膝をつく。
「はい、陛下。彼の名はリアム。──ですが……」
横に立つセラが小さく息を飲んだ。その身に残る擦り傷や焦げ跡が、先日の戦いの凄惨さを物語っていた。
「見つけた時には、すでにリアムは暴走状態にありま
した。」
セラが静かに言葉を紡ぐ。
「彼の体を調べましたが、彼に宿る七つの魂──そし
て制御不能なほどの魔力が原因と見られます。
あの魔力量……もはや人類の枠ではありませんでし
た。」
その言葉に、王の瞳がわずかに細められる。
大理石の床に王の足音が響き、玉座を離れて二人の前に歩み寄った。
「現場の状況は?」
「……王都から北西、旧エルデン都市跡地です。」
セラは報告を続けた。
「そこに居合わせたローブを纏った集団──数万人
規模の信徒たちが、リアムの魔力波に呑まれ命を
落としました。魔力の衝撃だけで地形が変わり、森
が消し飛んでいます。」
「……信徒?」
王の眉がわずかに動いた。
「はい。おそらくはリアムが私たちの世界に渡った時
に、彼らもリアムの暴走に巻き込まれてこの世界に
渡って来たのだと思います。
詳しくは未だ調査中ですが……彼らはリアムを器
と呼び、何らかの儀式を行っていた形跡がありまし
た。」
重苦しい沈黙が流れる。
セラは拳を握りしめながら続けた。
「私とレオンで暴走を抑え込みましたが……もし陛下
の予言がなければ、旧エルデン都市民の避難が間に
合わず全て、消し飛んでいたかもしれません。」
アリステア三世は目を閉じ、静かに息を吐いた。
その背に、長年王国を背負ってきた者の重圧がのしかかる。
「そうか……あの少年に、そのような力が宿って
いたか。──だが、だからこそかもしれぬな。」
ゆるやかに目を開けた王の瞳には、確かな光が宿っていた。
「彼こそ、黎明星──八星の一人であることに疑いはな
い。」
レオンは深く頷いた。
「陛下。彼を……救いたいと思っています。」
その言葉には、痛みと決意が混じっていた。
レオンは拳を握りしめながら続ける。
「エルデン都市を調べましたが、地上には何も残って
いませんでした。しかし、地下に神殿を発見しまし
た。信徒と同様に神殿ごとこの世界に渡ったのでし
ょう。暴走の裏には理由があるはずです。
──彼は、力に呑まれたのではなく、何者かにより
暴走させられたのです。」
王はその言葉を聞き、静かにうなずいた。
「……なるほど。少年は犠牲者か。」
レオンの表情が陰る。
セラが小さく頷きながら補足する。
「彼の魔力量は異常です。七つの魂は互いに干渉して
おり、危うい状態でしたが、今は落ち着いていま
す。普通はありえません。
まるで神の意志のようです。」
謁見の間に重苦しい空気が流れた。
王は再び二人を見つめる。
「……お前たちは、どうするつもりだ?」
レオンは一瞬だけ迷い、しかしすぐに顔を上げた。
「彼を保護し、少しでも力を制御できるよう導きま
す。暴走の真実を突き止めなければなりません。
それに──」
レオンは拳を握りしめる。
「この世界にはまだ、五名の八星がいます。
彼らを見つけ出し、共に立ち上がらねば、
再び先の大戦以上のものが訪れるでしょう。」
王は静かに歩み寄り、レオンの肩に手を置いた。
その手は、王としてではなく、友としての温もりに満ちていた。
「分かった。私はお前を信じよう、レオン。
お前が龍人族を新たに束ね、私の夢を応援してくれ
ると誓ったあの日から──私は一度もその誓いを疑
ってはいない。」
その言葉に、レオンの顔から温かい笑みがこぼれた。
彼は王の手を強く握る。
「アリステア……必ず、リアムを救い、そして他の
八星を探し出す。それが俺たち八星騎士団の責務で
あり、俺の役目だ」
セラも静かに頭を下げた。
「彼の体には未知の魔力構造が多すぎます。
……正直、彼が目覚めるまで研究が尽きませんね。
楽しみです。」
その言葉に、王はわずかに口元を緩めた。
「ほどほどにな。」
冗談めかした声に、謁見の間の空気が少しだけ和らぐ。王は玉座へと戻り、ゆっくりと腰を下ろした。
「よかろう。リアムを保護対象とせよ。
彼が再び目を覚ます時──その力をどう導くかが、
我らの役目となるだろう。」
玉座の背後に飾られた巨大な紋章が、光を反射して輝く。それはまるで、王と竜の誓いを見守るようであった。
──静寂を破るように、遠くで鐘の音が鳴り響いた。
その音は王都全体に広がり、新たな運命の鼓動を告げるように空を震わせた。レオンは謁見の間を後にし、広い廊下に出た。高窓から差す光の中、彼は空を見上げ、静かに呟く。
「龍人族を……仲間を、そしてあの少年を救うため
に。今度こそ、この手で未来を掴む──」
その声は決意に満ち、まるで遠い過去の誓いを思い出すかのように響いた。
背後では、セラが小さく息をつきながら歩いてくる。
「あなたって、本当に真っ直ぐすぎるんだから。」
「悪いか?」
「いいえ。そういう人だからこそ、王も信じているん
でしょうね。」
レオンは笑みを浮かべ、ゆっくりと歩き出した。
窓の外では、白い鳩が飛び立ち、王城の尖塔の上を旋回していく。その光景は、まるで新しい時代の幕開けを祝福するようだった。
──その時、まだ誰も知らなかった。
彼らの誓いが、この先訪れる運命の戦いの始まりに過ぎないということを。
次回: 神殿の地下で目覚める真実 ―少年リアムの秘密―
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