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八星の勇者に選ばれた少年リアム  作者: TO
第3章 新たな八星の出会い
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第59話 悔しさを超えて、未知の遺跡へ

 ──朝靄が、鬼人の村を包んでいた。


 遠くの山肌が淡く光り、霧の向こうで焚き火の煙がゆらゆらと昇っていく。 

 村を覆う静けさの中、鳥の鳴き声が一声、空気を切り裂くように響いた。

 リアムは小さな家の扉を開け、外に出た。

 昨日の決闘の疲労はまだ体の奥に残っていたが、意識は妙に澄んでいた。


 ──敗北の痛みよりも、胸の奥に残る「何か」が燃えている。

 

 それが悔しさか、決意か、自分でも分からなかった。

 家の前では、すでにレオン、セラ、アルトの三人が準備を整えていた。

 朝露に濡れた地面の上、馬車の荷台には道具と食料が積まれ、旅支度は万端だ。

 最初に声をかけたのはアルトだった。


「おう、リアム。昨日はお嬢に負けたらしいな」


 口元を緩めながらも、どこか気遣うような声色。

 リアムは苦笑して肩をすくめた。


「……見てたのか?」


「見てたというか、村中が話してるぞ。

 八星が鬼燐に完敗したってな。

 だが、気にすんな。お前は強い。」


 軽口の奥に、確かな信頼があった。 

 リアムはわずかに笑い、「ありがとう、アルト。……次は負けないさ」と答えた。

 そのやり取りを見ていたセラが、腕を組みながら冷静に告げる。


「リアム、あなたの荷物は昨日のうちにまとめておいたわ。

 すぐに着替えて。

 準備ができ次第、遺跡に向かうわよ」


「分かった」


 リアムは小さく頷き、部屋の中で衣服を着替えた。

 黒い旅装束に身を包み、神器・千変万化の糸を装着する。

 ──鏡越しに映る自分の姿が、少しだけ昨日より強く見えた。

 装備を整え、外へ出たリアムを迎えたのは、レオンの穏やかな笑みだった。


「昨日の戦い、セラから聞いた。

 何かを掴んだそうじゃないか。」


「……でも、勝てなかった」


「勝敗だけが全てじゃない。それは成長だ。

 お前が自分の力と向き合おうとしていること──それが、何よりも価値がある」


 レオンの言葉に、リアムは静かに頭を下げた。

 胸の奥で、何かが少しずつ温かく灯る。


 ◇ ◇ ◇


 村を出ようとしたその時、二人の影が彼らの前に二つの影が現れた。

 村長バルガと、鬼燐だった。


「おはようございます、バルガさん」


 レオンが丁寧に一礼する。

 老戦士のような風格を持つバルガは、深く頷いた。


「これから遺跡を調査すると聞いてな。

 あそこはもう何年も人が足を踏み入れておらん。

 中に何が眠っておるか……誰にも分からん。

 くれぐれも気をつけてられよ。」


「ありがとうございます。必ず無事に戻ります」


 ──その穏やかな空気を、冷たい声が裂いた。


「そんな足手まといを連れていくなんて、大丈夫なん?」


 鬼燐の視線がリアムを射抜く。

 嘲笑うでもなく、ただ淡々と、挑発するような瞳。


「あんたの魔力の質が高かろうが、使えない以上ただの宝の持ち腐れや。

 昨日の戦いで、証明されたはずや。」


 アルトの拳が震えた。


「テメェ、リアムを馬鹿にすんなよ! 

 この陰険寸胴女!」


 空気が凍りつく。

 鬼燐の表情がすっと消え、その瞳が鋭く光を宿す。


「……今、なんて言った?」


 その声音は、氷刃のように冷たかった。

 アルトがわずかに後退し、「な、なんだよ」と言い返す。

 鬼燐は眉ひとつ動かさず、淡々と告げた。


「死ね。単細胞」


「なっ……!」


 拳を握るアルト。

 だが、その腕をリアムが後ろから掴み、止めた。


「やめろ、アルト。」


「離せよ、リアム!」


「落ち着け。」


 リアムは鬼燐に視線を戻す。

 その眼差しには悔しさがあったが、何よりも覚悟が宿っていた。


「……不甲斐ないのは事実です。

 けど、少しでも早く鬼燐さんを越えられるように努力します。

 失礼します。」


 そう言って、リアムはレオンたちの後を追った。

 背中を見送りながら、鬼燐は小さく呟いた。


「言葉だけなら、誰でも言えるんや。」


 その声は、誰にも届かなかった。

 だが、心の奥ではわずかに──興味という名の火が再び揺らめいていた。



次回:千変万化の糸、少年の手で輝く時

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