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八星の勇者に選ばれた少年リアム  作者: TO
第3章 新たな八星の出会い
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第60話 千変万化の糸、少年の手で輝く時

 昼を少し過ぎた頃、遺跡へ向かう道のり。

 濃い森の中を抜け、岩肌を削るように続く古道を進む。

 木々の隙間から光が差し込み、鳥の声と虫の音が混じる。

 だが、その穏やかさとは裏腹に、あたりには重苦しい気配が漂っていた。


「……来るぞ」


 レオンが剣を抜くと同時に、影の中から黒い狼が飛び出した。

 影狼──影を操る狼の魔物。

 黒い霧のような体毛に、赤く光る瞳。牙には毒の魔力が宿っている。


「三体……いや、もっとか」


 リアムが目を細め、拳を構えた。

 アルトが前に出て、拳を放つ。


「数なんざ関係ねぇ。ぶっ飛ばすだけだ!」


 レオンの号令で、戦闘が始まった。

 アルトの拳が地面を割り、影狼の一体を粉砕する。

 レオンは背後から迫る一匹の牙を受け流し、逆に喉元を貫いた。 

 一方リアムは、形態変化させた拳の武器に魔力を集め、影狼の懐に入り粉砕する。

 拳が空気を裂く。

 圧縮された魔力が弾け、衝撃波が大地を走る。


「──《圧縮一撃コンデンス・ブロウ》!」


 拳の一撃が空を切り裂き、影狼を一瞬で貫いた。

 しかし、息を整える間もなく、さらに十体を超える群れが現れる。


「くそっ、切りがない!」


 アルトが叫ぶ。

 セラは戦闘には加わらず、背中の研究道具を守りながら冷静に指示を出す。


「このままじゃ埒があかないわね

 ……リアム、あなたの神器を使いなさい!」


「神器を?」


「千変万化の糸。

 あれで私たちを包みなさい、球体状に!」


「了解!」


 リアムは指先を広げ、空間に魔力を走らせた。

 金の糸が空気中に浮かび上がり、やがて仲間たちを包む球体を形成する。

 影狼たちが一斉に襲いかかる。

 だが、その鋭い爪も牙も、神器の糸の壁に触れた瞬間──弾かれた。

 まるで鋼鉄のように硬質で、しかも柔軟。

 攻撃を通さない。


「すげぇ……まるで結界みたいだ!」


 アルトが驚きの声を上げる。

 セラが笑う。


「便利でしょ? 

 でもこれは、リアムの魔力の質が高いおかげよ。

 普通の魔力じゃ、こんな強度にはならない」


 リアムは息を整えながら、「ありがとう」と返した。

 糸の球体は滑るように地面を転がり、魔物の群れを突破して進んでいく。

 やがて森を抜け、開けた場所に出た。

  目の前に、古代の石造りの巨大な建造物が姿を現す。

 風化した柱。

 崩れかけた天井。 

 それでも、そこに刻まれた紋章の一つひとつが、古き時代の威厳を物語っていた。


「……これが、遺跡か」


 レオンが静かに呟く。

 空気が重く、どこか神聖な気配すら漂っていた。

 セラが手にしていた魔導器を開く。


「ここの魔力濃度……異常ね。

 八星の遺跡には何度か足を運んだ事があるけど、間違いなく、ここの遺跡は普通じゃないわ。

 中で何か、遺跡とは別のことが起こってる」


「調べないと何もわからない。さぁ、行こう」


 レオンの声が響く。


「この遺跡の奥に、俺たちが探す答えがあるはずだ」


 リアムたちは頷き合い、古代の石扉の前に立つ。

 扉の中心には、紋章が淡く輝いていた。

 その光が、アルトの魔力と共鳴する。


 ──音もなく、扉が開いた。


 冷たい風が吹き抜け、暗闇の向こうで何かが目を覚ます。

 レオンは深呼吸をして、静かに呟いた。


「さぁ、行こう。」


 そして一行は、光を背に、遺跡の中へと足を踏み入れた。



次回:神器鬼神の拳前半

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