第60話 千変万化の糸、少年の手で輝く時
昼を少し過ぎた頃、遺跡へ向かう道のり。
濃い森の中を抜け、岩肌を削るように続く古道を進む。
木々の隙間から光が差し込み、鳥の声と虫の音が混じる。
だが、その穏やかさとは裏腹に、あたりには重苦しい気配が漂っていた。
「……来るぞ」
レオンが剣を抜くと同時に、影の中から黒い狼が飛び出した。
影狼──影を操る狼の魔物。
黒い霧のような体毛に、赤く光る瞳。牙には毒の魔力が宿っている。
「三体……いや、もっとか」
リアムが目を細め、拳を構えた。
アルトが前に出て、拳を放つ。
「数なんざ関係ねぇ。ぶっ飛ばすだけだ!」
レオンの号令で、戦闘が始まった。
アルトの拳が地面を割り、影狼の一体を粉砕する。
レオンは背後から迫る一匹の牙を受け流し、逆に喉元を貫いた。
一方リアムは、形態変化させた拳の武器に魔力を集め、影狼の懐に入り粉砕する。
拳が空気を裂く。
圧縮された魔力が弾け、衝撃波が大地を走る。
「──《圧縮一撃》!」
拳の一撃が空を切り裂き、影狼を一瞬で貫いた。
しかし、息を整える間もなく、さらに十体を超える群れが現れる。
「くそっ、切りがない!」
アルトが叫ぶ。
セラは戦闘には加わらず、背中の研究道具を守りながら冷静に指示を出す。
「このままじゃ埒があかないわね
……リアム、あなたの神器を使いなさい!」
「神器を?」
「千変万化の糸。
あれで私たちを包みなさい、球体状に!」
「了解!」
リアムは指先を広げ、空間に魔力を走らせた。
金の糸が空気中に浮かび上がり、やがて仲間たちを包む球体を形成する。
影狼たちが一斉に襲いかかる。
だが、その鋭い爪も牙も、神器の糸の壁に触れた瞬間──弾かれた。
まるで鋼鉄のように硬質で、しかも柔軟。
攻撃を通さない。
「すげぇ……まるで結界みたいだ!」
アルトが驚きの声を上げる。
セラが笑う。
「便利でしょ?
でもこれは、リアムの魔力の質が高いおかげよ。
普通の魔力じゃ、こんな強度にはならない」
リアムは息を整えながら、「ありがとう」と返した。
糸の球体は滑るように地面を転がり、魔物の群れを突破して進んでいく。
やがて森を抜け、開けた場所に出た。
目の前に、古代の石造りの巨大な建造物が姿を現す。
風化した柱。
崩れかけた天井。
それでも、そこに刻まれた紋章の一つひとつが、古き時代の威厳を物語っていた。
「……これが、遺跡か」
レオンが静かに呟く。
空気が重く、どこか神聖な気配すら漂っていた。
セラが手にしていた魔導器を開く。
「ここの魔力濃度……異常ね。
八星の遺跡には何度か足を運んだ事があるけど、間違いなく、ここの遺跡は普通じゃないわ。
中で何か、遺跡とは別のことが起こってる」
「調べないと何もわからない。さぁ、行こう」
レオンの声が響く。
「この遺跡の奥に、俺たちが探す答えがあるはずだ」
リアムたちは頷き合い、古代の石扉の前に立つ。
扉の中心には、紋章が淡く輝いていた。
その光が、アルトの魔力と共鳴する。
──音もなく、扉が開いた。
冷たい風が吹き抜け、暗闇の向こうで何かが目を覚ます。
レオンは深呼吸をして、静かに呟いた。
「さぁ、行こう。」
そして一行は、光を背に、遺跡の中へと足を踏み入れた。
次回:神器鬼神の拳前半
読んでくださって、本当にありがとうございます!
投稿を始めてから、累計1000PVを達成することができました。
ここまで読んでくださった皆さんのおかげです。
「面白い」「続きが気になる」と感じて下さった方は、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】から評価、または【ブックマーク】をお願いします!
あなたの応援が、次の更新の一歩になります!




