第52話 仲間と笑う夜、迫る紅の戦い
夕暮れの風が頬を撫でる中、リアムは村の宿舎へと戻る。木造の家の前には、ちょうどセラが帰ってきたところだった。
「セラ、ただいま。遺跡の調査はどうだった?」
セラは眉を寄せて首を振る。
「ダメね。想像以上に魔物が多すぎる。
魔物を倒さないと、調査どころじゃないわ。」
「なら、今度手伝うよ。」
「ありがとう。頼りにしてるわ。」
微笑みを交わしたその時、村の奥から大きな雄叫びが響いた。雷鳴のような声に、セラとリアムは同時にため息をつく。
「……また叫んでるのね。」
「うん。昨日のもそうだったけど、あれって多分」
「アルトよね。」
二人は顔を見合わせ、呆れ笑いを浮かべながらも歩き出す。闘技場裏の広場では、レオンとアルトが肩を組み、雄叫びを上げていた。
周囲の鬼人たちと一緒に、なぜか盛り上がっている。
「ウオオオオオオオオッ!!!」
リアムとセラは、あまりの迫力に一瞬立ち止まり、そして無言で真顔になる。セラがぼそりとつぶやいた。
「……戻りましょう。リアム、馬鹿がうつるわ。」
「うん。そうだね。」
二人が踵を返して宿舎に戻ると、やがて遅れてレオンとアルトが帰ってきた。玄関を開けた瞬間、二人はリアムとセラの冷たい視線に迎えられる。
「……なんだ、その目は。」
「別に。」
「何でもないわ。」
セラが淡々と告げると、アルトが話題を変えるように声を上げた。
「それより、リアム! 聞いたぞ。
お前、二十本組手で全勝したって本当か?」
「ああ。一応、全員には勝った。」
アルトは驚いた表情でリアムの背中を勢いよく叩く。
「すげえじゃねぇか!
お前、どんどん強くなってんな!」
レオンも笑みを浮かべて頷く。
「おめでとうリアム。明日はゆっくり休めよ。」
リアムは「ありがとう」と返しつつ、少しだけ肩をすくめた。
「……明日、鬼燐さんと試合することになった。」
「え?」
アルトの表情が一変した。
口をへの字に曲げ、嫌そうに顔をしかめる。
「お嬢と、か……」
「どうした? そんな顔して。」
「いやな、お嬢の戦い方、陰湿なんだよ。
力押しだけじゃなくて、唯一魔法を使える鬼人でも
ある。魔法使いは戦うとめんどくさい。」
「へぇ……。」
「ま、明日になりゃ分かるさ。」
アルトが苦笑すると、レオンが両手を叩いた。
「よし、話は後だ。晩飯に行こう。
鬼人の料理、結構いけるぞ。」
四人は笑いながら、鬼人族の食堂へと向かった。
香ばしい肉の香り、濃厚な酒の匂い、どこか懐かしい団欒の声。戦いの緊張も、仲間と囲む食卓の中で少しずつ溶けていった。
――そして夜。
リアムは静かに目を閉じながら、明日の試合を思う。
闘志と不安が入り混じる中、心の奥で小さく呟いた。
『……負けられない。俺は、強くなる。』
闇の中、月が静かに照らしていた。
鬼燐との戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。
次回: 紅い悪夢の再来
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