第49話 八星の覚悟――鎧を捨てた少年
闘技場の砂が、朝の光に淡くきらめいていた。
村長バルガの前に立つリアムの姿は、少年でありながら、どこか大人びた静けさをまとっていた。
背筋は伸び、瞳には揺るぎのない炎が宿る。
「――リアムよ。アルトの手紙にはお前の強さは本物と
あった。だが、もう一つこうも書かれていた。」
バルガの声が闘技場に響く。
重々しい低音が、砂を震わせるようだった。
「鎧を纏わぬ戦いを選ぶかもしれないとな。
……本当に、鎧を纏わずに挑むつもりか?」
リアムは静かに頷いた。その動作一つに、決意があった。
「はい。必要ありません。」
その一言に、周囲の鬼人たちがざわめいた。
鋭い視線が一斉に突き刺さる。
「なんだと……?」
「我らを舐めているのか!」
「アルトに勝ったからといって、裸で勝負とは……!」
怒声が交錯する。
だがリアムは一歩も退かなかった。
「……ち、違います! 誰も裸でなんて言ってません!」
思わず声を張り上げながらも、リアムはその場を逃げるようなことはしなかった。
顔を赤くしつつも、瞳の奥には確かな決意が宿っている。
唇を引き結び、まっすぐに前を見据えた。
「――侮ってなんていません。」
その声は小さく、しかし確かに響いた。
焚き火のように静かに燃える熱が、その言葉には宿っていた。
「鎧を着て、アルトと戦った。
でも……それでも勝ったのは偶然に近い。
あの人の本気に、俺の拳は届かなかった。
だからこそ、俺は自分に誓ったんです。
次に勝負するときまでに、鎧に頼らなくてもアルトに
勝てる自分になると。」
リアムは拳を握った。
その手はわずかに震えていた――だが、それは恐怖ではない。それは、覚悟を抱いた者の震え。
「この村を出るまでに、俺はアルトさんと鎧なしで
向き合えるだけの力をつけます。
……だから、鬼人の皆さんも――どうか、本気で。
俺を殺す気で来てください。」
静寂が訪れた。空気が張り詰め、鬼人たちは息を呑んだ。
少年の目に宿る光――それはまるで、戦場を見据える戦士のものだった。
その覚悟に押され、鬼人たちは無意識に喉を鳴らし、唾を飲み込んだ。バルガはゆっくりと笑みを浮かべた。
「……見たか、これが八星の覚悟だ。お前もそう思わ
ぬか、鬼燐。」
その声に応じ、背後の影から一人の少女が現れた。
黒の髪を結い、燃えるような紅の瞳をした鬼人の少女
――鬼燐。
「おじいちゃん、あれ誰?」
「一言で言うと……アルトに勝った男だ。」
「えっ、あの単細胞に?」
鬼燐は目を見開き、そして呆れたように息を吐いた。
「じゃああの子は、アルト以上に単細胞ってことね。」
「なぜ強い者は単細胞だと決めつける。」
「この村でまともに育たなければ、誰でもそう思うよ。」
「ふむ、理屈になっておらんな。」
バルガは苦笑しつつ、闘技場の中央を見つめた。
「せっかくだ。見ていけ、鬼燐。
――歴史の一戦かもしれん。」
鬼燐は肩をすくめながらも、村長の隣に腰を下ろした。
「ふうん……面白そうじゃない。」
次回: 魔力一点集中――少年の必殺拳
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