第40話 夢にて出会うは、最後の魔神
「……で、なんでそんなお前が、俺に頭を下げてるだ。」
ヴァレリアの動きが止まる。
目を伏せ、深く息を吐いた。
「――それは、申し上げられません。」
「言えない、だと?」
「ええ。ある魔女との約束がございます。」
リアムは眉をひそめる。
「……約束?」
「はい。ただ一つ、申し上げられるのは――この姿勢も、この言葉も、すべて貴方様の忠誠ということ。
それだけは、どうか信じてくださいませ。」
リアムはしばらく黙った後、短くため息をついた。
「……まあ、いいさ。無理に聞く気はねぇ。」
ヴァレリアの表情に、ほんの少し安堵が浮かんだ。
◇ ◇ ◇
「リアム様もお気づきでしょう。」
ヴァレリアは立ち上がり、闇の中を見渡した。
「貴方様が我ら魔女たちと会うのは、いつも夢の中。
現の世界では決して出会えません。
それは、貴方様の魂を媒介にしているからです。」
「魂……?」
「我ら魔女は、貴方様の血の継承体質により、貴方様の中にいます。
ゆえに、リアム様の精神に触れることができるのです。
ですが、それは――私たちの血を取り込み、血の継承体質を持つ者、すなわちリアム様だけ。」
「……俺だけ、か。」
「はい。魔女教団は、貴方様を器として選びました。
世界の均衡を負に傾けるために。
……もっとも、貴方様はそんなことを望んでいないようですが。」
リアムは苦笑する。
「当たり前だ。
勝手に器にされて、勝手に巻き込まれて……正直、うんざりだよ。」
「それでも、我らは魔女は貴方を必要としているのです。
今や我ら魔女は、リアム様の血を媒介としてしか存在できません。
器たる貴方様がいなければ、我らはただの無。
だからこそ……貴方の旅を見届け、助けたいのです。」
リアムは言葉を失った。
その声には、偽りがなかった。
恐怖も、支配もなく――ただ誠実な響きだけがあった。
「……不思議なやつだな。
魔神なのに、誰より人間っぽい。」
ヴァレリアは微笑んだ。
「ありがとうございます、リアム様。
そう言っていただけるのは、数千年ぶりです。」
◇ ◇ ◇
ヴァレリアは静かに歩み寄り、右手を胸に当てた。
「リアム様。
もしまた夢の中で魔女たちと出会われましたら、どうか恐れずにいてください。
我らは貴方の敵ではありません。
ほんの少しでも――我らを受け入れてください。
それで十分です。」
リアムはわずかにうなずいた。
「……努力はしてみる。」
「ありがとうございます。」
ヴァレリアは微笑み、闇の中で膝をついた。
「そろそろ時間のようです。」
闇が溶け始める。
リアムの視界が白く満たされていく。
「リアム様。この出会いを胸に、またいつか――」
その言葉を言い終える前に、ヴァレリア・ネメシスの姿は霧のように消えていった。
◇ ◇ ◇
「……リアム、リアム! 起きなさい!」
セラの声で、リアムは跳ね起きた。
朝の光が差し込み、森の清気が肌を撫でる。
「う、うわっ……夢か……?」
彼は頭を押さえながら周囲を見回した。
アルトは寝ぼけ顔であくびをし、レオンは顔を洗いに行っていた。
セラが呆れたように眉をひそめる。
「交代した途端に熟睡って……ほんと、神経が図太いわね。」
リアムは苦笑した。
「いや、なんか変な夢見てた気がするんだよな……。」
「どんな?」
「……思い出せねぇ。
けど……黒い、何かと話してたような……。」
リアムの額には、ほんのわずかに黒い痕跡が残っていた。
しかしそれに気づく者は、まだ誰もいなかった。
次回:朝霧の森、四人の行軍
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