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八星の勇者に選ばれた少年リアム  作者: TO
第1章 リアムと八星の出会い
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第1話 光なき世界で始まる運命

 どれほどの時が流れたのか、少年には分からなかった。

 時間の感覚はとうに失われ、冷たい空気が頬を撫でるたびに、まだ生きているという実感だけがかすかに残る。


 世界は静寂に沈んでいた。

 音はなく、光はなく、空気は淀み、ただ暗闇だけが少年を抱きしめていた。


 ――その暗闇の奥で、何かが呼吸している。


 ふいに、わずかな音がした。

 鎖が擦れる、金属の軋み。

 その音が、沈黙の世界を破った。


 少年の瞼が、ゆっくりと開く。


 目に飛び込んできたのは、漆黒の天井。

 そこに刻まれた幾重もの魔法陣が赤い光を脈打たせ、まるで生き物のように鼓動している。


「……ここ……どこ……?」


 掠れた声が空間に反響し、自分の耳へ何度も跳ね返る。

 その反響が、少年がどれほど長い孤独の中にいたのかを静かに突きつけた。


 少年の名は――リアム。


 十一か十二歳ほど。

 幼い顔立ちに似合わない深い影が、その瞳には宿っていた。

 まるで、何もかも失ったまま痛みだけを抱えているような、そんな影。


 体を起こそうとした瞬間、胸の奥から鋭い引きつりが走る。

 リアムは息を呑み、視線を下へ落とした。


 そこには、無数の鎖。

 赤い光を帯びた鎖が、まるで呪いのように彼の身体を絡め取っている。


 ――数千を超える封印の鎖。


 世界でただ一人、魔女たちの力を宿す、選ばれざる継承者を縛るための鎖。


「……ぼく……どうして……」


 その時だった。


 遠くで、重い扉が軋む音がした。

 眩い光が差し込む。

 闇が裂け、その中を一人の男がゆっくりと歩いてくる。


 金の髪。

 光を跳ね返す鎧。

 確信に満ちた足取り。


「……目覚めたか。」


 低く響く声。

 威厳と安堵が混じったその声音に、リアムは小さく身を縮めた。


 男の名は――レオン・ドラグナイト。

 アルセリア王国の騎士にして龍神の血を継ぐ最強の戦士。


 しかしリアムが感じたのは、戦士を見る恐怖ではなかった。


 ――自分が取り返しのつかない存在なのではないかという、曖昧で底知れない恐怖だった。


「あなた……だれ……?」


 レオンはゆっくりと膝をつき、リアムと視線を合わせた。

 金の瞳は鋭いのに、どこか温かかった。


「俺はレオン・ドラグナイト。ここはアルセリア王国の封印の間だ。」


「ふういん……?」


 リアムは首を傾げる。

 その仕草は幼いのに、胸の奥には何かが重く沈んでいた。


 レオンはその重さを知っているように、苦い表情を浮かべる。


「君は異世界から来た。血の継承者だ。」


「いせかい……? ちの……けいしょう……?」


 リアムの理解は追いつかない。

 だが胸の奥で、何かが震えた。


 耳鳴りの奥に――声がした。


 ──やめて、リアム……

 ──お願い……止まって……


「ぼく……だれかを、傷つけた気がする。でも、思い出せない……」


 震える言葉を聞き、レオンはそっと目を閉じた。

 赤い夜空。崩れ落ちる街。

 少年の涙。


 あの日の光景が脳裏に蘇る。


「……いいんだ。思い出さなくていい。」


 レオンは静かに言った。


「お前はまだ何も選んでいない。罪ではない。」


「……ほんとう……?」


「ああ。ここで静かに過ごすんだ。力が完全に封じられるまで。」


  彼は小さく息を呑み、その唇が震えた。


「でも……ぼく……」


 声に出した瞬間、胸の奥の何かがひび割れる。

 思い出せないはずの“誰かの悲鳴”が、また耳の奥で揺れた。


「こわいのは……イヤ……」


 喉が詰まり、続く言葉がすぐに出てこない。

 けれど絞り出すように、なんとか続けた。


「もし……また、この力が……

 誰かを……傷つけたら……」


 そこまで言うと、リアムの指先が震えた。

 ただの震えではない。

 恐怖と罪悪感と……それでも消えない、誰かを守りたいという痛みが混ざった震えだった。


 レオンは何も言わず、ただその小さな拳を見つめていた。


 リアムは唇をぎゅっと噛む。

 そして、その小さな手を――震えたまま、それでも強く握り込んだ。


 鎖の赤光がその拳を照らし、影になった指の間から光が滲む。


「……それでも……」


 顔を上げたリアムの瞳は、涙で揺れていた。

 でも、その奥に――小さく、確かな光があった。


「ぼくは……生きたい。」


 その一言が放たれた瞬間、封印陣が微かに脈動した。

 まるで少年の願いに呼応するように。


 レオンは息をのむ。

 恐怖に沈んでいた少年が、ようやく掴んだ小さな希望。

 その光は誰よりも眩しく、壊れそうなほど繊細で……それでいて、強かった。


 レオンはゆっくりと言葉を落とした。


「……それでいい。

 それだけで、もう十分だ。」


 リアムの拳はまだ震えていた。

 けれど、その震えは――逃げるためのものではなかった。


 その瞬間、部屋の空気が震えた。


 封印陣が強く輝き、赤い光がリアムの身体を包む。

 鎖が砕け、光の粒となって吸い込まれていく。


「くっ……封印が動き出した!?」


 眩い光の中、リアムの胸に淡い紋様が刻まれた。

 それは封印の証であり――生きている証でもあった。


 光が収まり、少年は静かに眠っていた。

 その顔は穏やかで、まるで悪夢から解放された子どものようだ。


「……生きたい、か。」


 レオンはそっと抱き上げる。


「ならば、守ろう。その願いを。

 これは俺の役目だ。」


 封印の間を出ると、城の高窓から朝日が差し込んだ。

 その光が、眠るリアムの頬をやわらかく照らす。


 新しい一日の始まり。

 そして――この少年の物語の、本当の始まりであった。


 ──封印の勇者、リアム。

 彼の運命は、ここから動き出す。



次回:封印揺らぐ聖堂で、少年が名を呼ぶ時

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