第31話 深淵の夜語り
リアムは森の前で、息を呑んだ。
目の前には、夜明けにもかかわらず異質な森が広がっている。
木々は異様に高く、幹はねじれ、葉は黒みがかっていた。
森の奥からは、低い唸りのような音が響いている。
レオンは腕を組み、慎重に視線を巡らせた。
「魔力濃度が高い。魔物も棲みやすい環境ってことだな」
「これだけ濃いのは、大戦の影響かもね」
セラが杖を手に取り、森の魔力値を測定している。
リアムは喉を鳴らした。
「……つまり、油断すればすぐにでもゲームオーバーってことね」
「気を引き締めていけ。ここでは一瞬の判断が命を分ける」
レオンの声は強く、仲間たちの胸に火を灯した。
「行くぞ」
足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
温度が下がり、霧が濃くなり、視界が一気に暗くなる。
リアムは思わず肩をすくめた。
「ここ、本当に朝……?」
「太陽の光を遮る魔素霧よ」
セラが答える。
「森全体が魔力によって変質してる」
──その時だった。
ガサッ、と右の茂みが動いた。
瞬間、レオンが反射的に剣を抜く。
ヴァルフレイムの刃が黄金の光を放つ。
飛び出してきたのは、狼のような魔物。
だが、その毛並みは黒く、目は血のように赤い。
「下がれ!」
レオンが前に出るが、リアムが素早く糸を展開。
糸が閃光のように走り、魔物の足を絡め取る。
「セラ!」
「了解!」
セラの詠唱が終わると同時に、空中に雷の槍が形成される。
雷撃とともに放たれた魔法は容易く魔物を貫いた。
焼ける匂いとともに、魔物は地に沈む。
「俺の出番が……」
レオンが剣を納めながら苦笑する。
リアムは汗を拭い、「まだ入口なのにこのデカさ……」と呟く。
セラは頷きながら、霧の奥を見つめる。
「奥に進むほど、もっと危険になるわ。……覚悟して」
深淵の森は、まるで彼らの侵入を拒むように、さらに濃い闇を放つ。
◇ ◇ ◇
──夜。
深淵の森では、僅かな魔法の光が小さな円を描く。
彼らは、魔物の活動が少ない時間帯を選び、休息を取っていた。
レオンは周囲の警戒をしながら、焚き火のそばに腰を下ろす。
セラは地面に魔法陣を描き、結界を張る。
リアムはその間、食事の支度をしていた。
鍋から立ち上る湯気が、湿った空気に溶けていく。
「今日もリアムの料理が命綱ね」
セラが微笑んだ。
「俺も腹が減ってたとこだ」
レオンも笑う。
リアムは照れながら、答えた。
「今はこのくらいしか役に立てないから」
食事を終えると、森の音が一段と静かになる。
焚き火がパチパチと鳴り、薄闇の中、赤く踊る。
リアムは、ずっと胸に引っかかっていた疑問を口にした。
「セラ。……八星の居場所って、どうしてそんなに詳しく分かるの?」
セラは少し驚いたように目を瞬かせ、やがてゆっくり頷いた。
「そうね、話してなかったわね。──それは、国王陛下の予言によるものよ」
「国王の……予言?」
リアムが眉を寄せる。
セラは静かに火を見つめながら語り出した。
「アルセリア王国には、代々『真視の血脈』を継ぐ王がいる。未来を断片的に視ることができる血筋。あなたがこの世界に転移したときも、国王陛下の予言によってその日を予知していたのよ」
リアムの驚き問い返す。
「……つまり、俺がここに来たのも、全部予言の通りだったの?」
レオンが補足するように言葉を続けた。
「ああ。そして、それは俺たち八星にも当てはまる。王が予言で、八つの星が降り立つ光景が見たという」
「俺の星名は炎天星、象徴は力と王威。
リアムの星名は黎明星、象徴は始まりと変化。
セラの星名は叡智星、象徴は知識と運命。
──それが俺たちの象徴だ」
リアムは息を呑んだ。
「八星。それぞれが星の異なる力を象徴している」
セラが立ち上がり、焚き火に魔法をかけて火を大きくする。
火の粉が宙に舞い上がり、夜空の闇に消えていった。
「この予言は詩として王宮に伝わっているわ。 聞く?」
リアムは頷いた。
セラは目を閉じ、ゆっくりと詩を口にした。
次回:八星の予言
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