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異世界で目覚めた少年、八星の勇者に選ばれる  作者: TO
第3章 新たな八星の出会い
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第35話 リアム vs アルト── 龍装と鬼神

 ──空気が、重く沈んだ。


 森の奥。

 折れた木々と舞い上がる砂塵の中で、

 二人の戦士が対峙していた。


 黄金の鎧を纏う少年――リアム。

 対するは、鬼神の血を宿す男――アルト。

 互いに一歩も引かず、目だけで火花を散らす。

 風は止まり、森が息を潜めた。


「行くぞ、小僧。」

 

 アルトの声が雷鳴のように響く。

 次の瞬間、地が砕け、拳がリアムの胸を狙って突き出された。

 轟音とともに、黄金の光が弾け飛ぶ。

 だが――リアムは微動だにしない。


「……なに?」

 

 アルトが眉をひそめた。拳は確かに当たった。

 だが、鎧はまるで大地のように動じない。

 ひび一つすら入っていなかった。

 リアムはゆっくりと顔を上げる。

 

「俺の番だな。」


 次の瞬間、黄金の鎧の拳が閃いた。

 空気を切り裂き、アルトの顔面を正面から捉える。


「さっきの……お返しだぁっ!」


 轟く音。

 アルトの顔がわずかに揺れたが、男は笑っていた。


「軽いな。」


 リアムの目が見開かれる。

 ──あれだけの衝撃を受けても、びくともしない……!?

 アルトは口元を歪めた。

 

「今度はこっちの番だ。」


 再び拳が振るわれる。鎧に当たる鈍い音。

 しかし結果は同じ。

 傷一つつかない。

 リアムも反撃するが、アルトは笑って受け止める。


「いい拳だ。だが、まだ甘い。」


 そうして、二人の殴り合いは始まった。

 音が連続し、衝撃波が森を揺らす。

 地面が割れ、木々が倒れ、風が爆ぜた。


 拳と拳。

 鎧と肉体。

 

 互いの力と誇りをぶつけ合う、無言の戦い。


 ◇ ◇ ◇


 数分が過ぎた。


 最初は互角に見えた戦い。だが――空気が変わる。

 アルトの拳が、重く、速くなっていた。 

 一撃ごとに、地面に深い亀裂が走る。

 リアムの鎧に、ついに小さなヒビが入った。 

 カン、と鈍い音を立てて、金色の表面が欠ける。


「なっ……!?」


 リアムは息を呑んだ。

 

『ありえない。

 さっきまでの拳じゃ、傷ひとつ入らなかった……!』


 アルトの目が燃えるように光る。

 

「面白ぇ……やっと本気を出せそうだ。」


 拳がさらに加速する。 

 リアムは防御を固めるが、神器の鎧が軋み始めていた。

 その様子を、離れた場所でレオンとセラが見守っている。

 レオンが唸る。

 

「……あれがあいつの命脈か。」


 セラが頷いた。

 

「ええ。私たちが生まれながらに持つ力。

 彼の能力は見たところ――時間が経つほど、筋肉と魔力の循環が活性化して出力が上がるの。」


 レオンが腕を組む。

 

「つまり、長引くほど不利なのはリアムってわけか。」


「その通り。」

 

 セラは静かに目を細めた。

 

「今のリアムの鎧じゃ、持ってあと数分ね。」


 ──リアムは戦いながらも、聞こえていた。

 

『命脈……? なんだそれ。

 勉強、しておけばよかった……!』


 額の汗を拭う暇もない。 

 拳と拳がぶつかり、熱風が吹き荒れる。

 アルトは笑っていた。

 

「鎧を着た分、少しはマシだな。」


「ッ……!」

 

 リアムの胸に苛立ちが走る。だが、その通りだ。

 このままでは勝てない。


「……なら、試してやるさ。」


 リアムは大きく後退し、息を整える。

 アルトが口の端を吊り上げた。

 

「どうした、降参か?」


 リアムは拳を握り、低く呟く。

 

「……鬼神の男。謝罪する。」


 アルトが首をかしげる。

 

「ほう?」


「この程度の鎧じゃ、お前には勝てないようだ。」


「ようやく分かったか。」

 

 アルトが笑う。

 だが次の瞬間、リアムの銀の瞳が漆黒に輝いた。

 

「だから……本気を出す!」



次回:魔力解放──リアム、決死の一撃

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