第35話 リアム vs アルト── 龍装と鬼神
──空気が、重く沈んだ。
森の奥。
折れた木々と舞い上がる砂塵の中で、
二人の戦士が対峙していた。
黄金の鎧を纏う少年――リアム。
対するは、鬼神の血を宿す男――アルト。
互いに一歩も引かず、目だけで火花を散らす。
風は止まり、森が息を潜めた。
「行くぞ、小僧。」
アルトの声が雷鳴のように響く。
次の瞬間、地が砕け、拳がリアムの胸を狙って突き出された。
轟音とともに、黄金の光が弾け飛ぶ。
だが――リアムは微動だにしない。
「……なに?」
アルトが眉をひそめた。拳は確かに当たった。
だが、鎧はまるで大地のように動じない。
ひび一つすら入っていなかった。
リアムはゆっくりと顔を上げる。
「俺の番だな。」
次の瞬間、黄金の鎧の拳が閃いた。
空気を切り裂き、アルトの顔面を正面から捉える。
「さっきの……お返しだぁっ!」
轟く音。
アルトの顔がわずかに揺れたが、男は笑っていた。
「軽いな。」
リアムの目が見開かれる。
──あれだけの衝撃を受けても、びくともしない……!?
アルトは口元を歪めた。
「今度はこっちの番だ。」
再び拳が振るわれる。鎧に当たる鈍い音。
しかし結果は同じ。
傷一つつかない。
リアムも反撃するが、アルトは笑って受け止める。
「いい拳だ。だが、まだ甘い。」
そうして、二人の殴り合いは始まった。
音が連続し、衝撃波が森を揺らす。
地面が割れ、木々が倒れ、風が爆ぜた。
拳と拳。
鎧と肉体。
互いの力と誇りをぶつけ合う、無言の戦い。
◇ ◇ ◇
数分が過ぎた。
最初は互角に見えた戦い。だが――空気が変わる。
アルトの拳が、重く、速くなっていた。
一撃ごとに、地面に深い亀裂が走る。
リアムの鎧に、ついに小さなヒビが入った。
カン、と鈍い音を立てて、金色の表面が欠ける。
「なっ……!?」
リアムは息を呑んだ。
『ありえない。
さっきまでの拳じゃ、傷ひとつ入らなかった……!』
アルトの目が燃えるように光る。
「面白ぇ……やっと本気を出せそうだ。」
拳がさらに加速する。
リアムは防御を固めるが、神器の鎧が軋み始めていた。
その様子を、離れた場所でレオンとセラが見守っている。
レオンが唸る。
「……あれがあいつの命脈か。」
セラが頷いた。
「ええ。私たちが生まれながらに持つ力。
彼の能力は見たところ――時間が経つほど、筋肉と魔力の循環が活性化して出力が上がるの。」
レオンが腕を組む。
「つまり、長引くほど不利なのはリアムってわけか。」
「その通り。」
セラは静かに目を細めた。
「今のリアムの鎧じゃ、持ってあと数分ね。」
──リアムは戦いながらも、聞こえていた。
『命脈……? なんだそれ。
勉強、しておけばよかった……!』
額の汗を拭う暇もない。
拳と拳がぶつかり、熱風が吹き荒れる。
アルトは笑っていた。
「鎧を着た分、少しはマシだな。」
「ッ……!」
リアムの胸に苛立ちが走る。だが、その通りだ。
このままでは勝てない。
「……なら、試してやるさ。」
リアムは大きく後退し、息を整える。
アルトが口の端を吊り上げた。
「どうした、降参か?」
リアムは拳を握り、低く呟く。
「……鬼神の男。謝罪する。」
アルトが首をかしげる。
「ほう?」
「この程度の鎧じゃ、お前には勝てないようだ。」
「ようやく分かったか。」
アルトが笑う。
だが次の瞬間、リアムの銀の瞳が漆黒に輝いた。
「だから……本気を出す!」
次回:魔力解放──リアム、決死の一撃
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