第27話 感謝の声、旅立ちの時
夜明け前、湖の街アルメリアは静まり返っていた。
霧がゆっくりと湖面を覆い、朝の陽光を受けて淡く光る。
鳥の鳴き声が一羽、霧の中を横切り、波紋のように空気を震わせた。
宿の前には、一行の姿がある。
レオンは肩掛け袋を背負い、補給用の箱を積み上げながら手際よく確認を続けていた。
セラは腰に下げたリストを見ながら、乾燥食と保存水の量を数えている。
リアムは〈アークハウス〉の外装を点検し、その傍らで地図を広げ、次の目的地を見つめている。
「……次は深淵の森か。」
呟いたリアムの声に、レオンが視線を向けた。
「そうだ。鬼人族の村が、その奥地にある。
そこで八星を探す。」
湖面を渡る風が冷たく、リアムの頬を撫でる。
数日前までここで戦い、命が交錯し、街を守った。
静かな朝が、まるで嘘のようだった。
セラが歩み寄り、腕を組んで呟く。
「補給は済んだわ。
一月はもつはず……だけど、鬼人の村を早く見つけなければ、不足するかもね。」
レオンは苦笑して応える。
「そのときは森の中で現地調達だな。
……まあ、何とかなる。」
リアムは黙ったまま空を仰いだ。
白い雲が流れ、朝の空が少しずつ青く染まっていく。
『ここにも、たくさんの人が生きていた。
……俺は、あの夜、ちゃんと守れたのかな?』
心の奥で小さく、けれど確かに問いが響いていた。
アークハウスの金属がきしむ音が、旅立ちの近さを告げていた。
◇ ◇ ◇
荷物の最終確認を終え、アークハウスへ向かおうとしたそのときだった。
「──リアムお兄ちゃん!」
背後から響いた小さな声。
振り向くと、霧の中を駆けてくる数人の子どもたちの姿が見えた。
見覚えのある顔。
あの夜、ローブの男の襲撃から避難させた子どもたちだった。
その後ろには、街の人々の姿もある。
「リアムお兄ちゃん、助けてくれてありがとう!」
先頭にいた少年が叫ぶと、他の子どもたちも一斉に声をそろえた。
「ありがとう!」
「怪我、治ったの?」
「元気になってよかった!」
リアムは驚きと共に少し笑い、肩を落とした。
「……無事でよかった。
でも、お礼はレオンに言ってくれ。
俺は何もしてないよ。」
「えっ? でも助けてくれたのはリアムお兄ちゃんだよ!」
「うん、あのとき僕たちを守ってくれたじゃん!」
リアムは視線を少し下げ、拳を握る。
「……俺はローブの男に負けた。
結局、守り切れなかったんだ。」
子どもたちは顔を見合わせ、力強く首を振った。
「違うよ!」
「負けたとか、そういうのじゃない!」
「お兄ちゃんがいたから、僕たちは生きてるんだ!」
一人の少女が前に出る。
薄桃色の髪に、白いリボンを結んだ少女。
その小さな声は、朝の霧の中で真っすぐに響いた。
「お兄ちゃんはね、かっこいい騎士だったよ。」
リアムは息を呑む。
胸の奥に、じんわりとした熱が広がっていく。
「騎士」と呼ばれること。
それは、彼がずっと憧れてきた言葉だった。
「……ありがとう。」
かすれた声でそう言うと、子どもたちは笑顔で首をかしげた。
「なんでリアムお兄ちゃんがありがとうなの?」
「助けてもらったの、僕たちなのに!」
リアムは照れくさそうに頬を掻きながら笑った。
「みんなが無事で……俺の方こそ、嬉しいんだ。」
その笑顔を胸に刻みながら、リアムはゆっくりと前を向いた。
次回:騎士の勲章
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