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異世界で目覚めた少年、八星の勇者に選ばれる  作者: TO
第2章 リアムの誓い
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第25話 静寂の中の魔力訓練

 ──夜が、まだ街を包んでいた。


 戦いの熱が冷め、湖畔の街アルメリアは静寂を取り戻している。

 窓の外では霧が薄く流れ、遠くの鐘楼が、ゆっくりと夜明けを告げるように鳴った。

 宿屋の一室では、青い光がかすかに瞬いていた。

 その光の主は、リアム。

 ベッドに背を向け、両手の中に浮かぶ小さな青い宝玉をじっと見つめている。

 その宝玉──セラが手ずから作った魔道具。

 魔力を一定に流し続ければ穏やかに光り、わずかに乱れると即座に消える。

 単純な仕組みではあるが、制御力を磨くには最適な訓練具だ。


「……はぁ、難しいな。」


 リアムは額の汗を拭い、息を吐いた。

 魔力の流れを感じながら集中を続ける。

 わずかでも魔力が乱れれば光が消える──それが、彼にとっての課題だった。

 部屋の隅では、セラが机に向かい、設計図と工具を並べていた。

 徹夜の気配を微塵も見せず、眼鏡の奥で鋭い光を宿している。


「……本当に、制御がうまくなってきたわね。」


「えへへ……ありがとう、セラ。」


 リアムは疲れを隠しながら笑った。

 彼の掌の中、青い光がまるで心臓の鼓動のように脈打っている。

 その姿に、セラの口元がわずかに和らぐ。


「ふふ……ほんと、成長が早いわ。」


 だがその瞳の奥には、微かな動揺があった。


「……さぁ、もう少しだけ頑張りなさい。」


「うん!」


 青い光がまた、穏やかに灯った。

 夜は静かに明けていく。


 ◇ ◇ ◇


 朝の光が窓から差し込む頃、扉をノックする音が響いた。


「おい、起きてるか?」


 低く響く声に、リアムとセラは顔を見合わせる。

 ドアが開き、レオンが入ってきた。

 鎧を外し、シャツの袖をまくったままの姿だ。


「まさかとは思うが……お前、寝てないのか?」


 目の下に薄くクマを作ったリアムを見て、レオンは呆れたように笑う。


「ちょっとだけ、練習してただけだよ。」


 リアムは誇らしげに手の中の宝玉を掲げる。


「これ、セラにもらったんだ。

 魔法の制御を練習できる魔具なんだよ。」


 レオンは興味深そうに覗き込み、軽く唸る。


「……いいものをもらったな。

 ずいぶん安定してるじゃないか。」


 そしてセラの方へ向き直り、口を開く。


「お前、また凄いのを作ったな。まるで王宮の――」


 言い終える前に、セラの肩がびくりと跳ねた。

 その瞬間、レオンの目に冷や汗が流れるのが映る。


「……セラ?」


「な、何でもないわ! ただの魔道具よ。

 ほら……そんなに褒めるほどじゃないの!」


 慌てたように笑うセラ。

 しかしその声音には明らかに動揺が滲んでいる。

 レオンは訝しげに眉を寄せたが、リアムが二人を心配そうに見たため、それ以上追及しなかった。


「……まあいい。リアム、少し休め。

 無理して倒れたら意味がない。」


「大丈夫だよ。

 ちゃんと魔力制御できるようになったし……。

 ほら。」


 リアムが魔道具を見せ、練習成果を披露した。

 宝玉の色が青から赤へ、そしてまた青へ。

 その変化は、まるで呼吸のように滑らかだった。

 レオンはセラが目に冷や汗が流れた理由を理解した。

 リアムはまっすぐレオンを見た。

 そして静かに頭を下げる。


「レオン、昨日はありがとう。僕を助けてくれて。」


 レオンは一瞬目を見開き、それから柔らかく笑った。


「気にするな。仲間を助けるのは当然だ。」


 少しだけ表情を曇らせながら続ける。


「……俺のほうこそ、すぐに駆けつけられなくて悪かった。」


 リアムは小さく首を振る。


「違うよ。

 僕のことを信じて、見守ってくれたんだよね。」


 その瞳には、まっすぐな光が宿っていた。


「ありがとう、レオン。

 今度は必ず、その信頼に応えるよ。」


 一瞬、沈黙。

 レオンは軽く息を吐き、リアムの頭に手を置いた。


「……なら、期待してるぞ。」


 笑みとともに撫でられるその手が、どこか父親のように温かかった。

 セラはその光景を見て、胸の奥がじんわりと温まるのを感じていた。



次回:地図が示す深淵

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